第14話 遭遇

 上山文佳に本屋で遭遇した。


「何でここに居るのよ。今日は4人で遊ぶんじゃなかったの?」


「あー、仮病で休んだ」


「はあ?」


「だって、俺が居ても邪魔になるからな。そういうことだ」


 親指を立てて、上山に見せる。俺の気の使い方に上山も褒めてくれるだろう。


「あんた、本当に最低ね」


「え?」


「バカとは思ってたけど、ここまでバカだとは思わなかったわ」


 あれ? 上山、怒ってる?


「あんたが来るのを楽しみに待ってた彼女たちに悪いと思わないの?」


「はあ? 俺なんか待ってないだろ。太陽さえいればいいんだよ」


「そんなわけないでしょ。まったく……」


「残念ながらそんなわけあるんだよ。これまでもずっとそうだったからな。俺が行っても結局後ろから一人で付いていくだけなんだよ」


「あんた、ほんとバカね!」


 上山はさらに怒り出した。


「これまでがそうだったからって、今もそうとは限らないでしょうが!」


「いや、そうだろ。お前だって太陽と居たいだろ」


「私はそうだけど……」


「やっぱり、そうじゃないか。まったく……俺が居ても意味ないし、俺だって行きたくないんだよ」


 俺が言うと上山が唇をかみしめて俺を見ている。

 うーむ、これは相当怒らせたようだ。だが、俺だってやっていることはいいことだと確信がある。里内さんと水崎さんだって内心喜んでいるはずだ。まあ、太陽は怒るかもしれないが。


「とにかく、俺と会ったことは内緒にしておけよ」


「言えるわけないでしょ、こんなこと」


「ならいいけど。じゃあな」


 怒った上山は放っておいて、俺は店の外に出た。


◇◇◇


 月曜日の昼休み。霜村太陽と水崎弥生、里内葉子は土曜のお出かけの話で盛り上がっていた。


「それにしても水崎さんの歌はすごかったな。あんなに上手いなんて」


「そんなことないよ」


「いや、すごかったぞ。光輝にも聞かせたかったな」


「ああ、そりゃ残念だな」


 俺は適当に返事をする。


「長月君、体調は大丈夫なの?」


 水崎さんが心配してくれる。


「ああ、もう大丈夫。心配いらないから」


「そう、よかった」


「もう、長月君が来ないからすごく弥生が心配してて……」


「葉子!」


「そうだぞ、水崎さんずっと心配してたんだから」


 太陽も言う。


「そ、そうか……すまなかったな」


 やっぱり優しいな、水崎さん。体調不良じゃなくて何か急用が出来たことにするべきだった。


「心配いらないわよ。こいつ、本屋に居たんだから」


 突然、上山が言った。


「「「え?」」」


 三人が驚く。上山め、言いやがったな。


「ち、違うんだよ。午後には体調良くなったからちょっと外出してただけで……」


「そうなんだ……」


「うん。だから大丈夫だから」


「へぇー、長月は2人に会うんじゃなくて上山さんに会ってたんだ」


 井端が変なことを言い出した。


「お前、何言うんだ。偶然会っただけだ」


「そうよ、偶然だから。ほんとに、偶然だからね!」


 上山が焦った様子で女子たちと太陽に向けて言う。


「上山、お前がバラすからだろ。自業自得だ」


「何よ、私は恋する乙女の味方だもん」


「はあ?」


 何言ってるんだこいつ。


「やっぱり、光輝と上山さんは仲がいいな」


「「なんで(だ)よ」」


 太陽の言葉に俺と上山は揃って反論した。


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