第11話 女子3人(side 弥生)

 放課後、私・水崎弥生と里内葉子、それに上山文佳の3人でカフェに来ていた。どうしても葉子が文佳に確認したいというので来たのだ。


「文佳、聞きたいことがあるの」


「何かしら」


「太陽君を狙ってないってほんと?」


「ほんとよ」


「そんな風には見えないんだけど」


「なんでよ。狙ってないわよ。これは、ほんと。ただ……」


「ただ?」


「あんたたちは友達だと思ってるから言うけど、内緒にしてよね」


「わかってる」


「太陽君は好きよ。中学の頃からずっとね。でも、好きと言うよりは『推し』なのよ。現実に付き合えるなんて思ってない。とっくにあきらめてるから」


「推し? あきらめてる?」


「うん。太陽君は中学の頃からモテモテで、私なんて眼中に無いんだもん。話したことも無かったわよ。だから遠くから眺めるだけの『推し』。アイドル的な感じよ」


「そうなんだ。でも、今は直接話してるでしょ」


「うん、ありがたいことにね。でも、付き合えるなんて思ってない。あんたたちがいるしね」


「そうなんだ……」


「うん、だから安心して。あんたたちも太陽君狙いなんでしょ? わかってるから」


「私はそうだけどね」


 葉子が紅茶を飲みながら言う。


「『私は』って……弥生は違うの?」


 文佳が聞く。


「私は……違うかな」


「え? 私はここまで話したのに、なんで認めないのよ」


 文佳が少しいらだっている。


「あ、ほんとなんだよ。弥生は長月君だから」


 葉子が私が言えないことを言ってしまった。


「えっ、そうなの!?」


 文佳が驚いて私を見た。


「う、うん……」


「へー、長月をねえ。でも、長月は……あ、なんでもない」


「……何言おうとしたのよ」


 葉子が文佳に言う。


「な、なんでもないから」


 文佳が焦りながら言った。


「……わかってるよ。『私のことが好き』って言いたかったんでしょ」


 私は文佳に言った。


「ご、ごめん。長月が私のこと、好きかはわからないけど、気に掛けてはもらってるかな」


 文佳が言った。


「そうだよね……」


「うん。でも、私は長月のこと何とも思ってないから」


 文佳が言う。


「うん……」


 私は沈んで言った。そんな私に文佳が言う。


「大丈夫よ。長月も私のこと本気で好きってことはないと思うし。本気で好きなら、私が『付き合ってもいいよ』って言ったら食いつくでしょ」


「え、そんなこと言ったの!?」


「ごめん! でも、食いつき悪かったし。だから本気で好きじゃないと思うよ」


「文佳、なんでそんなことまで言ったの?」


 葉子が聞く。


「……正直なところ、太陽君は無理そうだし、もうこの際、長月でもいいかと思っちゃって」


「はあ?」


「そんなに怒らないでよ。もうしないから! 弥生のこと応援する!」


 文佳は真剣な顔で私に言った。


「うん……ありがとう」


 私は言った。


「それにしても、クラスのアイドル水崎弥生が長月のことをねえ……びっくり。たぶん、あいつ、まったく気がついてないよ」


「うん、そうだよね」


「私だって気がつかなかったもん。もうちょっとアプローチしたら?」


「アプローチ?」


「うん。好きって気がついてもらわないと、始まらないよ」


「そ、そうだよね」


「私もサポートするから」


「う、うん。よろしく」


 長月君とよく絡んでいる文佳からサポートがあるなら多少はアピールできるかもしれない。


「私も応援してよね」


 葉子が言う。


「あー、それは無理かな」


「なんでよ。太陽君のこと、あきらめたんでしょ」


「あきらめたけど、太陽君まだ好きだし。『推し』なのは変わらないから。他の子の応援はちょっとね」


「そっか……」


「うん。ごめん」


「わかった。そう言うってことは文佳が本音言ってくれてるってことだよね」


「うん、今日は全部本音でしゃべった」


 文佳がニタっと笑った。

 私たち3人は本当の友達になれた気がした。


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