第9話 姫と2人の騎士

「それじゃあな」


「うん、また明日!」


 俺と霜村太陽しもむらたいよう上山文佳かみやまふみかは熊本駅行きの路面電車に乗る。水崎弥生みずさきやよい里内葉子さとうちようこは上熊本駅行きだから、電車は別々だ。俺たちは上山を挟むように座った。


「なんだかこの位置は落ち着かないわね」


「そうか? 女子を挟んだ方が良くないか? お姫様みたいで」


 太陽が言う。


「あんた達は姫を守る騎士なの?」


「そんなところだな、文佳お嬢様」


「やめてよ」


 ふざけた俺に上山は言った。


「でも、やっぱりあの二人、太陽君のこと狙ってるみたいね」


 上山は太陽に言った。


「そうか?」


 太陽が返す。


「そうよ。太陽君は鈍いから気がつかないだろうけど」


「そんなことないだろ。長月の可能性だってある」


「は? あるわけないだろ」


 俺は言った。


「そうね、長月は眼中にないみたいね」


「お前、はっきり言ったな。まあ、わかってるけど」


「いいじゃない。長月は私とどうしてもご飯食べたかったんだし」


「お前、まだそれ言うか」


「長月は私のことが好きだもんね」


 上山がニヤニヤして俺を見る。


「なんでだよ」


 俺は顔をそらした。


「ふふ、私が付き合ってもいいって言ったらどうする?」


 上山がこんなこと本気で言うわけが無い。俺はもう勘違いしないのだ。


「お前が俺と付き合うわけないだろ」


「ま、そうなんだけどね」


 まったく、からかいやがって。俺がぼっちから救ってやったのに。まあ、こうなるのは分かっていたが、俺は後悔はしていない。


 ふと、太陽を見た。すると、何か厳しい顔をしている。


「太陽、どうした?」


「いや、お前らやっぱり仲いいなって思って」


「どこがだよ。からかわれているだけだ」


「なになに? 太陽君、もしかして嫉妬した?」


「するわけないだろ」


 太陽は顔をそらした。


「おっと、珍しいな。こりゃ脈あるかも」


「お、そうですか? 長月解説員」


「うむ。こいつ照れることはあまりないからな」


「わー、狙っちゃおうかな」


「お前、狙わないってさっき言ってただろ」


 太陽がこっちを向いて言う。


「あー、そうだったわね。ここで狙ったらあの二人に悪いか」


 上山が言った。


「お前、俺たちをからかって面白いか?」


 俺が言う。


「うん、面白い。今まで避けてたけど、これから一緒に帰ろうかな」


「いやだね」


「えー! ふふふ」


 上山につられ、俺たちも笑った。


「でも、ほんとにありがと。こんなに楽しい帰り道、久しぶり」


「ま、気が向いたらこれからも一緒に帰ってくれ」


「うん」


 太陽の言葉に上山はうなづいた。


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