第8話 帰り道
ある日、俺と霜村太陽が帰ろうと学校を出ると、そこに水崎弥生と里内葉子がいた。
「2人とも今帰るのか?」
「うん」
俺が聞くと里内さんが返事をした。
「そうか、いつもお昼は一緒だけど帰りも一緒なのは初めてだな」
「そうね、委員会とかいろいろあったし。今日はみんな何も無いってことかな」
「そうだな」
そこに上山文佳も来た。
「あら、どうしたの、みんなそろって」
「たまたま会っただけだよ」
「ふーん」
上山は帰り出す。俺たちもつられて一緒に歩き出した。
「なんで付いてくるのよ」
上山が聞く。
「帰ってるだけだろ。お前も熊本駅まで行くんだよな」
「そうよ」
「今まで帰りで会ったこと無いぞ」
「当然でしょ。避けてたんだから」
「なんでだよ、まったく……」
上山は俺たちと一緒に帰らないように気を付けていたようだ。
「ね、せっかく5人揃ったし、ちょっとどこか寄っていかない?」
里内さんが俺たちに言った。
「俺たちはいいけど。なあ、光輝」
太陽が俺に言う。
「まあ、いいぞ。上山はどうする?」
俺が聞くとしばらく悩んでいたようだが、やがて言った。
「少しならいいわよ」
「やった! じゃあ、通町筋で降りてマック行こうよ」
「おう、じゃあ、みんなで電車乗るか」
俺たちは5人で路面電車に乗り、マックに向かった。
◇◇◇
店に着くと、俺たちはそれぞれ注文して2階のテーブル席に移動する。男子2人と女子3人が向かい合うように座った。
「でも、こうやってみんなで放課後もすごせて嬉しいな」
里内さんが言う。
「井端はいないけどな」
「そういえばそうね」
上山が今気がついたように言う。
「あいつはまた他のクラスの女子にちょっかい出してるんだろ」
「なるほど」
「これからも時間が合えば一緒に帰ろうよ」
里内さんが言う。
「俺らはいいぞ。なあ?」
「おう」
俺と太陽は何も問題は無い。
「気が向いたらね」
上山はそう言った。上山は俺たちを避けてるぐらいだからなあ。
「何で俺たちを避けてるんだよ」
「噂になっちゃうでしょ。迷惑掛けるし」
「そんなこと気にしてたのか。別にいいだろ」
「そう? じゃあ、一緒に帰ろうかな」
「うん、時間が合えばそうしろよ」
俺は言った。それを見て里内さんが言う。
「いいなあ、文佳は。太陽君たちと長い時間一緒に居られて」
「何よ。嫉妬してるの?」
「そうかもね」
里内さんが言う。急に始まった言い合いに水崎さんは「どうしよう」という顔で2人を見ている。
「ふーん……言っておくけど、別に私、太陽君狙ってないからね」
上山が里内さんに言う。
「え、そうなの? だって3人の中なら太陽君だって……」
「あれは仮定の話でしょ。現実は3人以外にも男子はいっぱいいるんだから」
「そうなんだ……」
太陽を見ると少し寂しそうな顔をしている。
「ははは、太陽振られたな」
俺は茶化して言った。
「ま、そんなもんだろ」
太陽が言う。
「太陽君はモテモテだから、私なんていらないわよ」
上山が自嘲気味に言う。
「お前、そんなこと言うなよ」
太陽が言った。
「いいわよ。事実なんだし。わたしなんて教室で話せるのもこのメンバーだけだし」
上山が言う。
「そんなこと無いだろ」
俺は言った。
「え?」
俺を見た上山に言った。
「井端を忘れるな」
「あ、素で忘れてたわ」
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