第5話 上山文佳

 俺と霜村太陽しもむらたいよう、それに井端厚師いばたあつしの男子3人、それに水崎弥生みずさきやよい里内葉子さとうちようこの女子2人を加えた5人でお昼を食べることが定番になった。俺たちはもう一週間ほど、この5人で食べている。


 次第に仲も良くなってきた。井端のノリは軽く、俺と良く合う。女子2人はやっぱり太陽の方を向いている感じだ。井端は元々この2人は狙わないと言っているし、他のクラスの女子と仲良くなったりしている。一方の俺はただのにぎやかし、という感じか。ま、俺のポジションだな。


 だが、俺は他に1人、気になるやつがいた。同じ中学だった上山文佳かみやまふみかだ。あいつも俺たちと同じく遠距離通学。俺には太陽が居たが、あいつには誰も居ない。今日も一人でお昼を食べている。お昼以外でも他の誰かと話しているところはほとんど見たことが無かった。


 その日の昼休み、俺はそんな上山をつい見てしまう。


「なんだ、そんなに上山が気になるのか」


 太陽が俺に言う。


「そんなんじゃねえよ」


「なになに? 長月君の気になる人?」


 里内さんが俺に言う。


「違うよ。同じ中学なんだ。でも、知り合いが誰も居ないからいつも一人みたいで……」


「ふーん、そうなんだ」


 そのとき、気がついたら太陽が立ち上がっていた。そして、上山に近づいていく。


「お、おい、太陽……」


 俺が呼びかけてももう遅かった。

 そして、太陽は上山に話しかけていた。


「なあ、上山さん。長月が上山さんと一緒にお昼食べたいと言ってるんだ」


 げっ! 俺の責任かよ。そこまで言ってないだろ。


 上山が俺を見て言った。


「嫌よ」


 あっさり断られた。


「そう言うなよ」


 太陽は粘っているな。


「なんであんたたちと食べなきゃいけないのよ」


 上山の態度はかたくなだった。はぁ、もういいだろ。太陽戻ってこい。


「そ、そうか……」


 さすがの太陽もあきらめたようだ。


「どうしても長月が一緒に食べたいって言うなら行ってもいいけど」


 上山がとんでもないことを言い出した。


「だそうだが、光輝、どうなんだ? どうしても一緒に食べたいならそう言え」


 太陽が言う。何でそんなこと言わなきゃいけないんだよ。恥ずかしい。だが、ここで俺が言わないなら上山が俺たちのグループに来る機会は失われ、ずっと一人のままだ。それは俺が望むことではない。これは仕方ねえな。プライドは捨てよう。


「ど、どうしても上山さんと一緒に食べたいです」


 俺は仕方なく言った。

 上山は予想外だったのか、あっけにとられた顔で俺を見ている。


「光輝がそう言ってる。じゃあ、行こうか」


 太陽は上山の手を取った。


「ちょ、ちょっと。わかったわよ、行くから離して」


 こうして、上山文佳が俺たちのグループに加わった。


「みんなに自己紹介したらどうだ」


 太陽が言う。


「わかってるわよ。……上山文佳よ。太陽君と長月とは同じ中学だけど、あんまり話したことはないわ」


「上山さん、水崎弥生です。よろしくね」


「里内葉子よ。よろしく」


「井端厚師だ。よろしくな。ちなみに上山さんを狙うつもりも無いから安心してここに来てくれ」


「は? なんなの?」


「あー、決まり文句みたいなもんだから気にするな」


 俺が上山に言った。


「それにしても、長月が私とどうしても一緒に食べたいなんてねえ。びっくりしたわ。もしかして気があるの?」


 上山がニヤニヤしながら俺に言う。


「違うよ。同じ中学だし、ずっと一人なのが気になってたから。せっかく貴重な同中だし、仲良くしたいだろ」


「まあ、そうね。私もいずれは声を掛けなくちゃって思ってたけど」


「だったら、掛けたら良かったのに」


「タイミング逃したのよ。あんたたちはすぐこの女子たちと仲良くなっちゃったし。お邪魔しちゃ悪いでしょ」


「そんなことないよ、私も上山さんと仲良くなりたいって思ってたから」


 水崎さんが上山に言う。


「嘘でしょ」


 上山は信じなかった。


「嘘じゃ無いから。ね?」


 水崎さんは里内の方を向いた。


「そうね。弥生は上山さんのこと気にしてたわよ」


「へー、そうなんだ」


「うん。弥生って呼んで。私も文佳って呼んでいいかな」


「いいわよ」


「じゃ、私も葉子って呼んでね」


「分かった」


 こうして、俺たちは6人組になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る