第3話 葉子と弥生

 お昼休みになった。俺たちは他に友人も居ない。2人で弁当を食べようとした。そこに声を掛けてくる男子が居た。


「一緒に食べていいか」


「おう、いいぞ」


 俺が勝手にオーケーを出した。


「俺は井端厚師いばたあつし。よろしくな」


 井端は短髪で派手な色の眼鏡。いかにも軽そうなやつだ。


「俺は長月光輝ながつきこうき、こっちは霜村太陽しもむらたいようだ。よろしくな」


「お前ら、あの2人と何かあったのか?」


 井端の視線の先には水崎弥生みずさきやよい里内葉子さとうちようこが居た。


「ちょっとな。昨日、ナンパから助けただけだ」


「へぇー」


 俺の言葉に井端はたいして反応しなかった。話のきっかけにはしたが、あまりあの二人に関心は無いようだ。


 俺たちは弁当を食べ始めようとした。そのとき、後ろから声が聞こえてきた。


「なあ、俺たちと食べようぜ」


「いや、俺たちだろ」


 声がする方を見ると、水崎弥生、里内葉子の席の周りで男子のグループが対立している。


「俺たちだろ!」


「いや、俺たちだ!」


 どうしても2人と一緒に食べたいようだ。確かに最初の昼休みで同じグループにならないと、後で別のグループに行くというのも難しくなる。だから、この最初の昼休みで対立しているようだ。


 だが、その渦中に居る2人の女子は困惑を隠せない。エスカレートしていく対立を怖がっているようだ。これじゃ、どちらにも行きにくいな。


「はぁ。バカどもが……」


 俺がそんな言葉を言ったとき、太陽が立ち上がるのが分かった。


「お、おい……」


 俺が止めるまでも無く、太陽が2人に近づいていく。


「水崎さん、里内さん、俺たちと一緒に食べないか」


 あいつ、あの2人に声かけやがった。


「はあ? お前なんだよ」

「いきなり出てきて何言ってるんだ」


 対立する男子たちが当然、太陽に文句を言っている。


「まったく仕方ねえなあ……」


 俺は急いで立ち上がりそこに行き、言い訳を始めた。


「まあまあ。俺たちは昨日、彼女たちをナンパから助けたんだ。それで今日お礼に一緒に食べようって事になっててな……」


 半分本当、半分嘘のことを俺は男子達に言った。


「う、うん。そうなんだよね。だから、今日は太陽君たちと食べるから」


 水崎さんが話を合わせてくれた。


「まあ、そういうことなら仕方ないか……」


 男子達はしぶしぶ引き下がった。


「じゃあ、こっちに」


 太陽が水崎さんと里内さんを呼ぶ。


「うん。ありがとう」


 女子2人が俺たちのところに来た。井端は困惑しているようだ。


「井端、すまんな。この2人もいいか」


 太陽が言う。


「あ、ああ……俺はいいぜ」


 井端は了承してくれた。


「ごめんね、井端君」

「お邪魔します」


 2人が俺たちの横の机をくっつけて座った。


 こうして、俺たちは5人で一緒に食べることになった。


「それにしても助かったよ」


「ほんとほんと」


 少し小声で2人の女子が言った。


「まったく、急に太陽のやつが行くからびびったぞ」


 俺も少し小声で言う。


「困ってたらほっとけないだろ」


「こいつ、いつもそうなんだよ。それで中学の時、大変だったんだから」


「そうなの?」


 俺の言葉に水崎さんが食いついた。


「ああ。男子にねたまれ、女子の一部にも恨みを買って、もう大変。それで、この高校に逃げてきたんだ」


「逃げてきた?」


「ああ。俺たちは八代やつしろから通ってる」


「え、そうなの?」


 高校がある熊本市から八代までは40キロほどある。八代から通っているのは俺たちと、あとは上山文佳かみやまふみかぐらいだろう。


「うん。だから昨日も熊本駅に居たんだ。まだ中間点だよ」


「そうだったんだ。私たちは駅ビルで遊んでいこうとしていたところだったから」


「なるほどな。ちょうど出くわしたもんな」


「うん。運が良かったよ」


 そう言って、水崎さんは太陽を見た。良く見たら、里内さんも太陽を見つめている。


「まあ、困ったら助ける、それだけだよ」


 太陽が2人に言った。


「うん。ほんと、助かった。かっこよかったよ」


「だよね、救世主だった」


 2人は太陽を褒め称えだした……結局、こうなるんだよなあ。


「あのー、俺も居たんだけどね」


 俺は言ってみた。


「あ、後から入ってきたよね。あれもかっこよかったよ」


 水崎さんが付け加えるように言った。


「はいはい、ついでに言ってくれてありがとな」


「ついでって。ほんとにかっこよかったから」


「まあ、俺は太陽のついでだから別にいいよ」


 俺は水崎さんに言った。まあ、これはいつものことだし慣れているよ。

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