Epilogue ①
「松岡くん、好き嫌いあるの?」
「……いえ」
「あらそう、良かったわ~。香奈は好き嫌いばっかりでねえ。小学生の頃は毎日給食食べれないからって先生に許してもらえなくて学校行きたがらなかったんだから。ね~?」
「うるさいなぁ……もう忘れたよ」
「忘れたって、つい最近のことじゃない。中学生のときだって給食で――」
「松岡くんはあれか、いつもはどうしてるんだい? ごはんは。自炊かな?」
「はあ……」
「そうかー偉いなー。いや、最近の若い子はファストフードばっかりで不健康極まりないからな。その歳で自炊できるなら大したもんだ。いやーそうかそうか。松岡くん、今年二十歳だっけ?」
「……三十です」
「三十?! 見えないねえ。若く見られるんじゃないかー? ん?」
「まあ……はは」
「そうだろうそうだろう。実はそうなんじゃないかって――」
「お父さん、もうやめてあげなさいよ。松岡くん質問攻めにされて困ってるじゃない。ねえ、松岡くん?」
「いや……はは」
「さ、どんどん食べちゃってね。ご飯のおかわりはまだ六合あるから」
「……いただきます」
「……」
香奈は私の視線に気づき、サッと目を伏せる。
「どう? 美味しい?」
「はい。美味しいです」
「良かったわ~。やっぱり男の子はいいわね~。女の子は食が細くてせっかく頑張って作っても全然食べてくれないのよ~。うちのダイエット少女は好きな人に可愛いと思ってもらいたくて必死だからしょうがないのかもしれないけど――ねえ?」
「……」
拗ねたように唇を尖らせ、私をチラリと見遣った後、すぐにまたそっぽを向いてしまう香奈に、私は言いようのない、ほんとに、何とも言えない気持ちを腹の底に抱え、必死で抑え込んでいた。
「……ごめんなさい」
「あら別に謝る程のことじゃないのよ。女には綺麗に見られたいって欲望が必須なの。そうやって努力を重ねて、彼氏を手に入れるまで頑張るのは悪いことじゃないんだからね。ね~、松岡くん? うふふ」
「……はあ」
ボソリと呟いた謝罪は、当然彼女の母親に対してではなく、私に対してのものであり、食卓を囲み始めて五分も経過していない今、既に一刻も早く十メートル弱しか離れていない自宅に帰りたい気持ちでいっぱいだった。
「ほんとに……ごめんなさい」
再び香奈の謝罪を聞き、私は一時間程前の回想へと意識を移す。
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