第26話

食事を終えると、自然にこの後の予定の話になる。

「そういえば、篁君この後どうするの?」

「別に何も決めてないけど」

「それなら、テスト勉強兼ねてうちに来ない?」

別に僕は、テスト勉強で困るタイプではない。

それでも、学年でも上位に入る成績の彼女と一緒に勉強するのも悪くないと思い直した。

「もし良ければ、勉強を教えてくれないかな」

「じゃあ、決まりだね」

そう言って、駅前へ向かうと、同じ学校の生徒を見かける。

恐らく、みんな同じような目的で混み合っている飲食店の方を行っていた。

幸い僕らは、人混みに紛れて生徒に見つかる事なく改札口まで辿り着く事ができた。

「そういえば、君の家はどの辺りなの?」

「ここから数駅移動して、少し歩けばすぐだよ」

正直、彼女の家のある方向は全く行った事がなかったので、説明されてもあまり分からない。

とりあえず到着した電車に乗ると、案外早く最寄り駅へと着くことができた。

改札を出て全く知らない道をしばらく歩いて彼女に案内されたのは、洋風建築の家だった。

「ただいま」と階段の方へと声を掛ける彼女の後について、挨拶をしてから玄関へ入る。

すると、階段の方から「おかえりなさい」と彼女とよく似た顔立ちの女の子が降りて来た。

恐らくこの間写真を見せて貰った彼女の妹だろう。

「今降りて来た子が妹の夏織」そう言って僕に紹介してくれた。

「こっちは、私の学校の友達の篁君」彼女に紹介されて、僕も慌てて「こんにちは」と挨拶をする。

彼女の妹も人見知りなのか、「こんにちは」と言って頭を下げてからお互い沈黙してしまう。

そのまま、居心地の悪い沈黙が続くと思っていたら、彼女が助け船を出してくれた。

「じゃあ、篁君私の部屋に行こうか」そう言って僕の手を掴んで、二階の階段を上がる。

僕は、慌てて妹の方へ会釈をして通り過ぎる。

その時に見えた夏織さんの顔は、僕を睨んでいるように見えた。

彼女に先導されて訪れた部屋は、ゆったりとした広めの洋室で、テレビ、ベッド、本棚、ピアノ、パソコン、お洒落な感じのローテーブル、棚に置かれたインテリアが持ち主のセンスの良さを表していた。

「飲み物用意してくるから、適当に座って」そう言って、椅子を勧めてくれた。

彼女が部屋を出て行ってから、今更のように緊張して、視線を本棚の方へと彷徨わせる。

本棚の中には、童話、小説、参考書などハードカバーの洋書などの普段自分があまり目にしないジャンルの本が収められている。

本棚は持ち主の趣味嗜好の変遷を表す知識の知層だと思っているけど、本棚には彼女個人の趣味より習い事や幼少の時に読んだ本が並んでいるように見える。

その中でも一際目立つのが古い大量の楽譜本だった。

きちんと手入れされているのか日焼けや汚れもなく、大切に扱われている事がわかる。

彼女の本棚はスマホにしてからは電子書籍を利用しているとの事なので、ほとんど最近の本の趣味嗜好はわからないけど、それでも大切に手入れされている本棚の本が、彼女の人間性の一端を表しているような気がした。

階段を登る音が聴こえて、振り向くと「お待たせ、何か面白い本でもあった?」

本棚の前に移動していた僕に、彼女が興味深そうに聞いてくる。

「いや、凄い量の楽譜だなと思って」

「ピアノを習っていたからね」

「今でもピアノを弾いているの?」

「流石に、高校生になってからはあんまり弾けてないよ」

「そっか、少しだけピアノ弾いているのを聴いてみたいな」

「後でね、そんなことよりテスト勉強始めない?」

そう言って教科書と勉強道具一式を机に置いた彼女に倣って、僕も鞄から筆記用具、課題、テスト範囲の紙を取り出して明日のテスト範囲を復習する。

時折怪しい所を彼女に教えて貰いながら二時間くらい経過した。

流石に成績が良いだけあって彼女の教え方は上手かった。

この感じだと明日のテストは全く問題無さそうだ。

「そろそろ終わりにしない?」

そう声を掛けられて、時間を確認すると十六時になるところだった。

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