第25話

始業式で体育館に並んでいる自然と彼女を見つける。

僕のクラス同様、同じ話で騒ついているようだが、肝心の彼女は、友達と雑談をしていて、全く気にする様子がない。

その様子に素直に感心すると同時にその理由を察して複雑な気分になる。

始業式が終わり、明日からの連絡事項を確認してから帰り仕度をして、教室を出る。

丁度教室を出た所で、彼女に呼び止められた。

「篁君、一緒に帰らない?」

彼女が僕に声をかけると途端に僕の方にも視線が集まる。

「良いけど、少し急ぐよ」

そう言って、周りから向けられる視線を振り切る為に先生に咎められないギリギリの速度で歩く。

学校の敷地を出て他の生徒が見えなくなると自然と安心して歩くペースを落とす。

「今日が始業式だけで助かったよ」

「そんなに気にしなくても良くない?」

「こんなに、目立つと落ち着かないよ」

「心配しなくてもすぐ慣れるよ」

そんな事を言っている間にバス停に到着する。

「そういえば、篁君は、お昼どうするの?」

「まだ決めてないけど」

「それなら、駅の辺りでお昼食べて帰ろうよ」

「構わないけど、何処か行きたいお店あるの?」

「そういう訳じゃないけど、良いでしょ」

珍しく歯切れの悪い彼女が可笑しくて笑ってしまう。

「うん、僕なんかで良ければ」

丁度学校前に来たバスに乗って駅の手前で降りる。

「もし、行きたい店が無ければ、僕が決めても良いかな?」

「珍しいね、じゃあ篁君のオススメで」

近くにある商店街の中を歩きうどん屋を見つけて入る。

落ち着いた雰囲気の店内には、お昼時な事もあって人で混み合っていたけど、年齢層的に大人ばかりで学生の姿は無かった。

少し待っていると、席が空いて二人がけの席の席に案内された。

「何かオススメあるの?」

「どれも美味しいけど、シンプルなのがオススメかな」

「そっか、なら篁君と同じ物を頼もうかな」

「それなら、ハイカラかな」

店員さんを呼んで”ハイカラ”を二人分注文する。

注文を終えると、彼女は「篁君がこのお店に連れて来てくれた理由がわかった気がするよ」

そう言って辺りを見回した。

「駅から少し離れて、学生が少ないからでしょ」

彼女が指摘した理由は、僕の普段の行動で判断したのだろう。

それは、半分だけ正解だった。

「それも少しはあるけど、このお店チェーン店で大学病院の近くにもお店があるからよく行くんだよ」

僕は基本的に食事で冒険はせずに、以前に食べて美味しかったお店に次も行くようにしている。

「そうなの? 私も病院の辺りでお昼食べたりするけど気付かなかったよ」

「姫柊さんは普段どんなお店に行くの?」

「個人がやってるお店が多いかな。インド人の店主がやってるカレーのお店とか、ナンが美味しいからオススメだよ」


「それって病院前の通りにある個性的な見た目のお店?」

行った事がない僕がすぐに思い出すくらいには目立っていた覚えがある。

「そうそう。本格的なカレーとナンが食べられるの。ちなみにガーリックシュリンプがオススメかな」


「また病院に行った時にでも行ってみるよ」

そう言って社交辞令ではなく、本当にスマホで地図を起動して彼女に聞いたインドカレーのお店をマークしておく。

そうして雑談している間に、二人分のうどんが運ばれて来る。

待っている間に会話が途切れて気まずい沈黙にならずに済んだ事にホッとする。

彼女に気付かれていない、このお店を選んだ理由がそれだった。

うどんなら注文してからの待ち時間短くして済むし、いつも頼むのである程度の待ち時間の目安もつくので会話が途切れて沈黙する確率を限りなく低くする事が出来る。

少し前までの僕なら彼女といてもそんな事を全く気にしてなかっただろう。

些細な事に一喜一憂して、こんなにも臆病になるなんて思いもしなかった。

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