第21話

結局、僕は仲居さんが片付けに来るまで何も弁解出来無かった。

彼女の顔が近くて、ドキドキして顔が赤くなったなんて言えるはずがなかった。

片付けを終えた仲居さんに改めてお礼を伝える。

「昨夜は色々とありがとうございます。仲居さんのおかげで大事に至らずに済みました。」

そんな僕の言葉に仲居さんは安心したように笑って、何処からか取り出したペットボトルを取り出した。

「これ、良かったら飲んでね」

そう言って、レモネードのペットボトルを二本渡してくれる。

昨日から色々とお世話になりっぱなしで、恐縮しつつ受け取ってから仲居さんにお礼を伝える。

同時に、何故この人はこんなに親切にしてくれるのか? という疑問が失礼ながら浮かんでくる。

そんな僕の顔を見て仲居さんは、困ったように笑う。

「私が色々お節介をしているのか気になっていますよね」

そんな風に言われて、疑問が顔に出ていた事に気付いた。

「色々と親切にして頂いたのにすいません」

僕は慌てて仲居さんに頭を下げる。

仲居さんは、益々困った顔になって少し考えてから何でもない事のように言う。

「良いのよ、私が貴方の立場なら同じように気になるでしょうから。でも本当に大した理由ではないの、貴方達と同じ年頃の子供が居たのよ」

仲居さんはそこで一度言葉を切って、懐かしそうに彼女の方を見る。

「あの子同じ境遇の子と思うと他人とは思えなくて、色々重なって見えて、それでお節介をしていたの」

その言葉には、深い後悔が滲んでいた。

仲居さんは、多くは語らなかったけれどそれで十分だった。

「少しでも貴方達の助けになっていたのなら良かった。」

そう言ってくれた仲居さんの優しさが嬉しかった。

僕は、改めて仲居さんに出会えて良かったと思う。

仲居さんが出て行った後、忘れ物がないか確認をしてから、チェックアウトの準備をする。

フロントで支払いを済ませて、お見送りに出てくれた仲居さんに別れの挨拶をする。

「それじゃあ仲居さん、本当にお世話になりました。」

「そういえば、名前を名乗っていませんでしたね。今更ですが伊瀬谷茉莉(まつり)と言います。」

僕等は順番に自己紹介をする。

伊瀬谷さんは、僕等を順番に見て「篁君も、姫柊さんも良かったらまた遊びに来てね。」

最後にそう言われて、僕等は見送られながら旅館を出た。

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