第22話

旅館から出て、昨日の夜に仲居さんから聞いたお店にスマホを頼りに向かう。

幸い道に迷う事もなく、すぐに辿り着くことが出来た。

僕等はお店の中で一度別れて、それぞれに服を選ぶ事にする。

僕は明らかにファッション上級者と思われる店員さんに話しかけられないように、早々に無難で地味なTシャツとジーンズを選んで早々に会計を済ませる。

ファッションの流行なんてわからないし、自分のセンスなんて全く信じられないそんな男子の強い味方モノトーンコーデである。

自分で言うのもあれだけど、幸い背丈がそれなりにある分モノトーンで揃えておけばオシャレではないけどダサくもない感じで悪目立ちせずに済む。

普段はネット通販でマネキン買いをすることで解決するけど、今回は予算の都合と店内のマネキンでそれをやると彼女にばれるので断念している。

流石に彼女にダサいと思われる事だけは避けたかったので、こんな事なら普段からファッションについて調べておけば良かったと後悔するが、今更だった。

着替えを済ませてから彼女と合流すると、彼女から呆れたような視線と一緒に「地味、面白みがない」とダメ出しをされた。

無難にモノトーンコーデでまとめたけど、彼女からは思っていたより辛口評価だった。

多分ファッションに疎くて無難にまとめたのが普段の行動からばれているのだろう。

そんな彼女の服装は、白のカットソーに、アイスブルーのフレアスカートに白のミュールと全体的に夏らしい装いで、銀色の髪も相まって涼しげな印象を受ける。

彼女の姿は華やかで何も反論の言葉が出てこない。

その代わりに一つだけ疑問が浮かんできた。

昨日の服装は、日焼けしないためもあるだろうけど、全体的に特徴的な髪や肌を隠そうとする感じで今日の服装と印象が真逆だった。

彼女は、僕を見てから「せっかくスタイル良いのに着飾らないと勿体ないよ? 今度一緒に服見に行こうよ」

そんな風に他人からスタイルを褒められたのは、初めてで照れ臭いけど悪い気はしなかった。

病気の副産物である体型を疎ましく思ってきたけど、今だけはその体型に感謝した。

僕は彼女に「考えとく」とだけ返す。

買い物を終えた僕等は、フェリー乗り場に向かうと無事帰りのチケットを買うことが出来た。

流石に、花火の翌日になると朝は人が少ないのかもしれない。

砂浜へ歩いて行く途中も人を見かける事は少なかった。

到着すると、早速海へと入ろうとする彼女に、疑問に思っていた事を尋ねる。

「そのまま海に入っても大丈夫なの?」

「流石にミュールは脱ぐよ」

「そうじゃなくて、その服で陽に当たっても大丈夫なの?」

体質的に紫外線にあまり耐性が無さそうな彼女が心配になって一応尋ねる。

「日焼け止めは塗ってあるし、今までは髪とか肌を隠す感じで服を選んでいただけで紫外線とかは体質的に苦手だけど短時間なら平気かなって。それに色々吹っ切れたから」

そう言って裸足になって海へと駆け出した彼女の後を追いかける。

裸足になって海へと入ると、久しぶりの海は冷たくて水が気持ちよかった。

水に濡れないように気を付けながら進むと、膝下まで水に沈んだ所でようやく彼女に追い付いた。

「結構遠くまで来たね」

「せっかくなら行ける所まで行ってみない?」

足元を見ると、僕より十センチくらい背の低い彼女は、膝上近くまで水に浸かっている。

この感じだと、あまり先に進めそうにない。

「構わないけど、服が濡れない所で引き返そう」

「そうだね、服が濡れるとフェリーに乗る時に困るし」

結局最初の提案通り、行ける所まで行く事にする。

波が来る度によろけながら、彼女に手を引かれてどうにか濡れないように歩く。

足元から伝わる感覚が段々と砂から岩に変わって滑るようになってきた。

そろそろ引き返す頃合いかもしれない。

先を行く彼女が「痛っ……」と声を出した。

僕が声を掛けると、彼女は心配する僕に笑って何でもないというように手を振った。

「多分少し岩で切ったくらいだから大丈夫」そう言って彼女は歩き出そうとする。

それでも心配になった僕は彼女に引き返すように提案する。

「怪我もあるし水に濡れそうだから引き返した方が良くないかな」

「そうだね、確かに服が濡れそうだし引き返すには丁度良いかな」

そう言った彼女は、膝上まで水に浸かっている。

案外簡単に引き下がった彼女に拍子抜けしながら、元来た道をゆっくり浅瀬へと引き返した。

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