第19話

部屋に戻る前に一度深呼吸をして、襖を開けると彼女はベランダの方に出ていた。

僕もベランダに出て彼女の隣に行く。

こんな時、どう声を掛けたら良いのかわからず、自分の対人経験の無さを痛感してしまう。

こんな事なら日頃から人と関わっておくべきだったと今更ながらに思う。

僕は何も言えないままただ時間だけが過ぎて、二人の間に重い沈黙が流れ、波の音だけが聞こえる。

それからどれくらい時間が経ったのか、辺りを見回すと周りの明かりはほとんど消えていた。

そろそろ部屋に戻ろうと声を掛けようと考えていた時「ごめん……」と波の音に消えてしまいそうな声で彼女はそう言った。

それが何に対してのごめんだったのか僕にはわからない。

それでも、彼女が謝る必要が無い事だけはわかる。

その事を、上手く言葉に出来ないけど、伝えないといけない。

そうしないと彼女の中で大切な何かが壊れてしまう。そんな予感だけがあった。

恐らく原因と思われる先程の騒ぎの事については、こちらに落ち度は無いし謝罪の必要は無い。

その事をそのまま言葉にする。

「さっきの騒ぎの事? それなら君が謝る必要はないよ」

彼女は僕の言葉に納得出来ないように首を横に振る。

「違う、そうじゃなくて……」

「私は、みんなと違うから」

「私と一緒に居ると君まで奇異の目で見られるから」

大粒の涙を流しながら、嗚咽混じりにそう言って彼女はそのまま黙ってしまう。

僕は彼女の言葉を聞いて、やっと彼女がごめんと言った意味を理解出来た気がした。

彼女はこんな時でも自分の事より他人の事を気に掛けていた。

そんな彼女に僕も不器用でも伝えたいと思った。

「みんなと違ったって良い、他人になんかどう見られても構わないから君と一緒に居たい」

「だから君が謝らなくたっていい、僕は君に笑っていて欲しい」

これが今の僕に伝えられる精一杯の気持ちだった。

少し時間が経ってから恥ずかしさと沈黙に耐えられなくなって、恐る恐る彼女の方を見る。

彼女はまだ少し泣いていた。

それでもさっきまでの涙とは少しだけ違う感じがする。

僕が困惑していると、彼女は囁き声で「ありがと」そう言って泣き笑いのような表情を浮かべた。

僕が安堵していると、彼女は「そろそろ寝ようか」と言って僕の手を引いて部屋に戻っていく。

二人分の布団を並べて横になると、彼女が隣に居るのに不思議と最初に感じていたような気恥ずかしさもなく落ち着いていた。

目を閉じているとすぐに睡魔が訪れたので、そのまま睡魔に身を任せる。

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