第16話

花火が終わり僕等はフェリーに乗って帰る為に、人混みの混雑に巻き込まれる前に足早にチケット売り場に急ぐ。

僕等は失念していた。花火の後に確実に乗る為には、予約をしておくべきだった。

既にチケットは完売しており、キャンセルも望み薄だろう。

すぐに島を出られないと今日中に岡山まで戻るのは無理だろう。

それどころか明日の朝までどうするのかも決まってない。

下手に朝までこの辺りで彷徨う事になれば、警察に補導されてから親に連絡されて迎えに来て貰う事になるのだろう。

学校にも連絡されて相応の処分は確実でそれだけは絶対に避けたかった。

僕らは効率を考えて仕方なく、一度別れて直接ホテル行って確認をする事にして、三十分後に彼女と電話でお互いの結果を報告する。

「ごめん僕の方は全部予約でダメだった。」

ホテルはあるにはあったが、それは高校生が二人で泊まるには不適切なホテルでとても交際関係にない女性と泊まるのは憚られる所だった。

もちろん高校生でも男女で泊まったという話が聞こえてきた事はあるけど、僕にはその度胸が無かった。

「私の方は古い旅館だけど一軒だけ部屋があって泊まれる場所があったよ」

「ここで決めて良いかな?」

彼女の声には少しだけ躊躇いが含まれていた。余程古い旅館なのかもしれない。

でも贅沢を言える状況でもないし、見つかっただけ幸運なのだからそれ以外の選択肢はない。

僕も覚悟を決めて彼女の躊躇いが消えるようにと思い「どんな旅館でも大丈夫見つけてくれてありがとう」と言って了承の意を伝える。

彼女は少し安心した様子で「ならここにするね、電話一回切って旅館の場所を地図送るから現地集合で」と言うと、そのまま通話を切った。

直後に彼女から地図データが送られてくる。

地図を頼りに旅館に向かうと、そこには控えめに言ってかなり古く年季の入った、良く言うと趣のある旅館があった。

戸を開けて、受付へ行くと彼女が鍵を手に僕を待っていた。

彼女は手を振りながら僕の方へと歩いてくる。

僕は「お待たせ、などなかなか趣むきがある旅館だね」と言い彼女を労う。

彼女の様子を伺うと、何故か少し表情が固い。

彼女は一度深呼吸してから意を決したように、「電話で伝えそびれたけど部屋一部屋しか取れなくて相部屋なの」などと、特大の爆弾を投下してきた。

僕は衝撃と共に思考がフリーズする。

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