灯した火が照らす先

夜間燈

序章

 雪に覆われた夜の森で、一人の少女が座っている。少女の真後ろには緋色の木が立ち、赤い胡桃に似た実が枝先を覆っていた。

 数刻前に、少女は母親によって森の中に連れてこられた。ここで待っていてね、という母の言葉を信じ、少女は待ち続けている。

 少女はその赤い髪を触ると、青い目を細めながら月を見る。

 少女は背中を触る。その背中は着物で見えないものの、赤く爛れていた。

 数日前に母親に背中を焼かれたのだ。母曰く、神に近づくための儀式らしい。ただ――少女からしてみれば苦痛しか分からなかった。

 こんなに痛いのなら、お母さんの近くにいられないなら――神様になんてなりたくない。そう少女はぼんやりと思う。

 少女は目の前を見た。そこでは、先ほど生まれたばかりの竜が立っている。大きさは子犬と変わらない。

 少女は竜を見るのは初めてだった。

 少女の髪に似た、炎よりも少し濃い赤色の鱗に覆われ、少女と同じ透き通った青色の目をしている。前足と同化した翼は小さく縮み、足の先には小さいながらも鋭い爪が生えていた。

 竜は少女を見る。そして、びぃと鵯の鳴き声よりも高い声で鳴いた。

「ともし……いっしょに、いて……」

 トモシ、と呼ばれた子竜は少女に近づく。

「わたしは……さゆ」

 トモシはさゆの横に座ると、嬉しそうに口を開けた。

 しばらく経った頃、ふと声が聞こえてさゆは顔を上げる。

「あぁ、良かった。めっけえそこのお嬢さん、こんなとこで寝たらいかんよ」

 さゆの目の前には、一人の男が立っていた。緑色の髪をしたその男は、少女に優しく微笑む。男の横には、青い鱗を持つ竜が立っていた。

「お母さんはどうしたの?」

 さゆが首を傾げると、男は優しくさゆを抱き上げた。

「寒かろう? お母さんが見つかるまで、一緒に待とうか。……僕はね、青丸って言うんだ。彼はエンム」

 青丸はさゆに微笑んだ。

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