プリンツ・オイゲン一代記
相ヶ瀬モネ
小話:プリンツ・オイゲン一代記:1
※テレジア奇譚からの抜粋なので、こちらを先にお読み頂きました場合、なぜ、テレジアとオイゲン公が、こんなに仲良く? となりますが、本編のテレジア奇譚の『マリア・テレジア』は、なんだかんだあって、こっそりオイゲン公に、様々な授業を受けている設定で、その授業のあとに、彼の人生を聞いている体で、このお話が進んでいます。
※お話の都合上、テレジア奇譚の本編とは、オイゲン公の年齢が合いませんが、こちらが実は、オイゲン公の史実の生まれ年です。(そして、本編よりも史実寄りでありながら、細かくはフィクションは、相変わらず入っています。)
***
「その不細工な赤ん坊を、早く連れて行って! 見たくもない!」
後のプリンツ・オイゲンこと、オイゲン・フランツ・フォン・サヴォイエン=カリグナン、未来の『欧州の影の皇帝』は、1663年10月18日、フランスのパリで生まれた。
そして、生まれながらにして、実の母からこの言われよう、醜いアヒルの子、それ以下の扱いであったことが示すように、彼は、御伽噺の王子さまには、なれそうになかった。
両親はフランス王の臣下ではあったが、ふたりともイタリア系であり、母のオランピア・マンチーニは、
母は強烈で熾烈な競争を勝ち抜き、
ちなみにオイゲンの身長は、成長期が終わっても、そう高くはならなかったが、
妹はふたりいたが、五人目の息子、男子の中では末っ子なので、将来は「軍隊へ仕官」or「聖職者」であろうというのが、想像できる未来予想図であった。
【それから10年後、1673年の親子の会話】
「う――ん、まあ、今更なんですが、僕の父親は……実のところ、どうなんでしょうか?」
「気にしていたのか? まあ、男が細かいことを気にするな! それに、お前は五男、別に誰もとやかく言ってはこない。わたしの息子でいいだろう! 決定済なんだから! わたしだって、長男ではないからな。長男以外の真相は、神のみぞ知る。それでいいんだよ!」
「はあ……」
「お食事の準備ができました」
「あっ、そう! オイゲン、食事にしよう!」
母にイタリア時代から付き添っている侍女が、庭を散歩していたふたりに、そう伝えにやって来たので、オイゲンの出生にまつわる話は、それっきり終わってしまい、父は久々に自分の子どもたち(おそらく)と、食事を供にしていた。
珍しく家に帰っていた父は、前出のごとく、実に大雑把というか、時代に合った鷹揚な性格であり、その日も
「あんなに元気な父だったのに……」
真相はやぶの中、やはり神のみぞ知ることであったが、それからまた7年後の1680年、母が毒薬調合に関わっていたことが発覚し、王の寵愛を失った母は、有り金をかき集めて、全てを投げ出し、ベルギーのブリュッセルへ逃亡し、オイゲンは、父方の祖母、マリー・ド・ブルボンの勧めというか、圧に負けて、パリで、「サヴォイア神父」と呼ばれる身分になっていた。
「くそ——、頭の天辺がスカスカする!」
オイゲンは、当然のことながら、剃髪をしていたので、頭の上を丸く、ツルツルに剃られてしまっていたのだ。(トンスラである。)
「ま、でも、母のこともあるし、しばらくは大人しくしておかないとね……」
***
【時代はマリア・テレジアが六歳の頃に戻る】
「それからそれから!?」
「今日はここまで! 殿下、また明日にいたしましょう。課題が終わっていたら、続きも話して差し上げますよ」
「いいところで終わるわね……」
密かにマリア・テレジアに、授業を行っているオイゲン公は、そう言うと、窓から見える、屋根から下がっているロープを伝って、姿を消していた。
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