第49話 空VS金色のお嬢様

転送直後。

天鈴 空は鉱山エリアへと飛ばされていた。


「ここは……鉱山エリア? 鉱石が剥き出しだ……」


そこは良くある鉱山では無く、鉄鉱石や金鉱石などの鉱物で構成された大小様々な山が存在していた。


(はっ!もう始まってるんだから、しっかりしなきゃ!)


陽光が金属鉱石を煌めかせる景色に一瞬見惚れるが、当初の目的を思い出して気を引き締める空であった。


その時、高らかな声が響いた。


「あらあら! 随分緩んだ姿ですこと!」

「っ!」


空が振り向くと、1つの山の上に声の主は存在した。


金髪をカールさせ肩から垂らし、赤いカチューシャを身につけた天陽学園の少女。尊大に腕を組み、嘲るような口元を隠して笑う姿は、口調と相まって如何にも西洋にかぶれた性格の悪いお嬢様である。


「天陽院の天鈴 空さんですわね? 私、天陽学園1年の城金しらがね エルザと申しますの」


空を見下ろし高らかに名乗りをあげる。まるで果し合いや決闘のようだと空は感じた。


「なんで私の名前を……?」

「私見てましたのよ? 昨日の訓練で貴方を。高い陽力の内包量に裏打ちされた風の術式も中々やるようですわね」

「あ、ありがとう?」


昨日の空の戦う姿をよく見ていたようで、その高い実力を評価しているようだ。


空は困惑しながらもその言葉を素直に受け取る。


「ですが……ですが! 私より目立つのは許せませんわ!」

「ええ!?」


突然エルザは声を荒らげる。ギョッとして身構える空。いつ攻撃が飛んで来てもおかしくないのでその判断は正しかった。


「ですから、貴方は私手ずから引導を渡したかったのですわ! そして神は私に微笑んだ! まさかこんな序盤に出会えるとは思いませんでしたわよ!」


陽力を全身から立ち上らせ刀印を結ぶエルザ。瞬間、足元より金色の杭が生え、一斉に撃ち出される。


「っ!」


空が飛び退くと、その場にあるどんな鉱石よりも輝く杭が突き刺さる。


「あら、私の『金鋭杭きんえいこう』を躱すとは……無礼ですわよ?」


手を振るうと次々撃ち出される杭。空は走り、屈み、飛んでそれらを避ける。


(早い……! 止まれば蜂の巣にされる!)


苛烈な攻撃の嵐に空は逃げ回るのだった。



観客席。

観客は響の次に空の戦いへ注目していた。


「おーっと! 天鈴 空さんの最初の交戦相手は城金 エルザさんです! 天陽学園屈指の実力者であり、その位階はなんと第陸位! 対する空さんは最下位の拾壱位で五つの差があります! 悠さんはどう思われますか?」

「位階の上ではそうですが、空の実力は少なくとも第漆位はあると思います。だから結構いい勝負するんじゃないですか?」


空は正式に陰陽師になってから位階の昇進をしていない。


推薦を受けた陰陽師は、監督役を付けて推薦された位階の難易度の任務を最低3回受ける。


その内容を監督役が総監部へ報告、審査の末に合否が決まる。


だが、制度として推薦中の陰陽師は他の推薦を受けられないし、その他任務の戦功での昇進もできない。


もし交流会で推薦中の位階以上の評価を取っても、それとは別に推薦が必要になる。


だからその二度手間を防ぐ為に悠が空の位階を上げないままで居たのだ。


「なるほど。だがそう上手くいくかな?」


遥が横から呟く。


「それはどういう事でしょうか? 我修院先生……」

「城金 エルザは問題児でもある。1日目にバカ共に説教はしたが、なまじ実力がある分聞く耳を持っていないだろうな。」

「あ……確かに。エルザさんは1日目も天陽院の皆さんやこっちの2、3年に次ぐ成績を残していますね……」


多くのエリート意識を持った1年は早々に出鼻をくじかれ実力を発揮できなかった中、城金エルザは変わらず好成績を出していた。


だが、それでも響達より1歩劣る。


「肥大化した自尊心、それを傷つける者への恨みは凄まじいものだ。そしてそれを晴らす為に奴は狡猾になる。普通は恨みを晴らす目的意識で陽力の質が上がろうが、冷静さを欠いて動きや陽力操作も悪くなるものなのだがな……」

「逆に凄いですね。同時にそれを向けられる対象になると考えると恐ろしい……」

「あの亥土 悠さんですら恐れるエルザさんの執念! 空さんはどのように対応するのか楽しみです!」



空は相変わらず鉱山エリアを駆け回り、エルザの怒涛の攻撃を避け続けていた。だがされるがままでは無い。


空は逃げながら杭の速度や威力を観察していた。そして反撃に出る。


「『風弾』!」


かざした掌から風の弾が撃ち出される。エルザの放った杭と接触すると、大きく炸裂して周りの杭をも吹き飛ばした。


(よし、この威力と炸裂範囲なら一気に相殺できる!)


立て続けに同じ術を2発、エルザへ向かって放つ。また迫り来る杭を弾き飛ばし、もう1発がエルザへと真っ直ぐ進む。


しかし、エルザはそれに眉一つ動かさない。山の頂上から華麗に飛び別の小山に降り立つのだった。


「まあ、これくらい出来なくては困りますわね」


相変わらず腕を組み、侮る姿勢を崩さずに空を見下ろす。


「……ならこれはどう? 」


再びエルザに向かって手をかざす空。今度は刀印を結び威力の底上げをする。


「『風征鶴唳ふうせいかくれい』!」

「っ!?」


そして暴風の弾丸が撃ち放たれる。その工程はあまりにもスムーズであり、発動前に潰そうとしたエルザは目を見開いた。


着弾と共に更に増した風が巻き起こり、土煙が舞う。


「よし!」


躱した様子も無く、手応えを感じる空。ジッと煙が晴れるの待つ。すると……。


「っ!」


煙の中から杭が飛び出して来た。咄嗟に『風弾』で迎撃して身を守る。


「オーッホッホッホ! その程度で私が傷つくとでもお思いで?」


煙が晴れたそこには、華美な装飾をあしらった金色の鎧……それに身を包んだエルザの姿があった。


「フフン、驚いてるわね? 城金家の秘伝術式『金剛磁鎧こんごうじがい』……この美しさに恐れ慄いているわね!」


得意げな顔で見下ろすエルザ。対して空は……。


「あ、うん……す、凄いと思うよ?」

「何よその反応!? 薄すぎない!?」


エルザが思っている以上に微妙な反応であった……。


当然、それに憤慨するエルザ。


「ほら! ちゃんと見なさいよ! 美しいでしょこの刻まれた華! 竜! 紋章! 輝く黄金!」

「えーと、装飾は良いと思うけど……パッと見美しいと言われるとちょっと……逆に金一色って下品じゃないかな?」

「はああああああ!?」


空はあくまで率直な感想を述べているだけで悪気は無いのだが、それが余計神経を逆撫する事となる。


エルザはまるで子供のように地団駄を踏む。


「こ、これだから庶民は!もう許さないわ! 『金剛磁鎧』の力! 得と味わうがいいわ!」


言うや否や、高く飛び立つエルザ。


『金剛磁鎧』は見た目以上に軽く、遥かに硬い。故に機動性の低下を大幅に抑えられる。


格闘家顔負けの回転を空中で繰り広げ、地上の空へ向かってキックを繰り出した。


すんでの所で転がるように空は避けたが、地面が砕ける程の衝撃で吹き飛ばされる。


(近接もいける……いや、元々憑依型なんだ……!)


今しがたの攻撃で本来のスタイルと見抜いた空だったが、そこに粉塵の中から閃くような蹴りが炸裂する。


「うぐっ!」

「そのような避け方みっともなくってよ!」


空は数回転げ回った後、姿勢を整えエルザに向き直る。


空の腹には鈍い痛みが走る。予め陽力で全身をガードしてなければこの程度では済んでいなかったであろう。


(やっぱり懐に入られると対処が遅れる……近づかせないようにしないと!)


「『風弾』!」


空は迫るエルザへと風の弾丸を、今度は細かく分割して順に撃ち出す。機関銃さながらの弾幕が黄金の鎧を襲う。


ガガガガガッ!


激しい金属音が響く。

鎧の強度は尋常ではないが、衝撃で確かにエルザの足は止まる……かのように見えた。


「この程度で止まる私ではありませんわよ?」

「なっ……!」


一歩一歩、余裕そうに黄金のお嬢様は空へと足を踏み出して行く。


五行の金の元素は木の元素を打ち倒す相剋の関係。空の風は木である為エルザの鎧への効果は大きく下がる。


「くっ!」


空は右手で撃ちながら刀印を解いた左手で次の術を準備する。しかし、性能を補助していた刀印が解かれた事でエルザの進行が早くなる。


(迎撃……間に合わない!)


エルザがもうすぐ空の目の前迫る。その時……。


ゴォォォッ!


「っ!」


猛火の波がエルザを覆う。

空はその隙を付き距離を置くと、その隣に1人の少女が現れた。


「危ない所だったね。空ちゃん」

「ふ、文香さん!」


巫女服に身を包み、御幣を手にしたくれない 文香だ。


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