第48話 バトルロワイヤル開始
そうしていると時間になり、生徒達はそれぞれ転送陣に立ち開始の合図を待つ。
遥が左手の時計を一瞥し、生徒達に向き直る。
「それではスタートの合図と共に一斉に転送される! 各々の健闘を祈る!」
「3……2……1! スタート!」
遥の合図と共に転送陣が眩く光り、生徒達を結界内へと送り届けるのだった。
「さあ始まりました! 交流会2日目の訓練プログラム、バトルロワイヤル! 実況は引き続き天陽学園2年、我修院 唯華が担当しまーす!」
1日目同様に屋外テントの観客席には実況の唯華を初めとした教師や天陽学園の2、3年生数人や非番の陰陽師がまばらに座る。
そしてその前に幾つかのモニターが用意されており、配置された式神と視界を共有したものが映つされていた。
「そして解説は天陽学園からは我修院 遥先生、天陽院からは亥土 悠さんが務めます!」
「よろしく」
「ども〜よろしくお願いします」
唯華の右横へ並んだ遥と悠が短く挨拶を済ませる。
「さて、それぞれ転送が済みましたね! そして既に交戦も開始しております!」
「お、うちの響がやってますね」
悠が注目する右端のモニターには響が戦っていた。
少し遡りスタート直後。
「ここは……水上エリア!」
響は気がついた時には浅瀬の川に立っていた。近くには少しの木々や岩で殆ど遮蔽物が無い。そして……。
「っ!」
響が何かを感じ取り大きく飛び退くと、さっき迄居た場所に石つぶてが降り注ぐ。
上空へと視線を向けるが、青い空が広がっているだけでそれを放った術師は居ない。
代わりに気配を察知したのは後方。短い黒髪の少年が居た。転送位置が近かったのだ。
「『石弾』!」
少年は刀印を結び、右手で響に向かって術を撃ち出す。
響はそれを身を傾けて躱し、流れるように少年へ向けて駆け出す。
「早っ……!」
少年は驚いた顔で固まる。そこへ響は刀を鞘走らせながら一気に接近した。だがまたも上空から術が降り注ぐ。
「おっと……!」
斬るのを中断し飛び退く響。それを追うように幾つもの『石弾』が降り注ぐ。
「──天刃流『
響が陽力を纏った刀を振るうと、石つぶての1つ1つが風に流される雲のように軌道が逸れる。
それは対飛び道具用の防御の技。最小の力で矢や投石を捌き、最短距離を詰めて射手を討つ事を目的とした技だ。
「陽力だけで……!?」
黒髪の少年の別方向から驚嘆する少女の声。視線を向けた木の上に少女は居た。
茶髪をおさげにした少女。どうやら最初の『石弾』は彼女のものであった。
「ナイス援護!」
響と距離を置きそこに駆け寄る少年。
「あの子は要注意人物だからね!ここは手を組みましょう!」
どうやら2人は1日目で派手に暴れた響を倒す為、一時共闘するようだ。
「2対1か……っ!」
そう呟く響の右横から拳が迫る。木製の手甲の一撃を刀で受け流す。
拳圧で響の横に激しい風が巻き起こり、水を抉るようにして川底を一瞬露出させる。
「3対1だ」
巨漢と言うべき恵まれた体格をした男。響へ敵意を剥き出しにして笑う。
「そうかよ!」
響は距離を置く傍ら、水が僅かに足を取るがあまり支障が無い事を確認する。
「成瀬か! 味方なら頼りになるぜ!」
「うん、一気に叩きましょう!」
加勢に喜びつつ2人は散開。響を3人で囲うようにポジションを取る。
「『石弾』!」
「『石弾・追』!」
少年と少女がそれぞれ7、8つ程の弾丸を放つ。
真っ直ぐ迫った少年の『石弾』を響は躱すと、その先へ少女の『石弾』が追う。
(追尾か……!)
響はまた刀を振るい1つ残らず弾丸を逸らす。
(なるほど。最初のは上に放ってから降ってくるようにしたのか)
木の上に居たとは言え、彼女の最初の攻撃はほぼ真上から降り注いだ事に疑問を持っていた響。それの正体が弾の仕掛けだと気づく。
そこへ巨漢の成瀬が迫る。
その巨躯から放たれた拳は、受け止めようとした響の足元……浅瀬の川底を叩く。 力任せのゴリ押しに見せかけてのフェイントだ。
水飛沫が舞い上がり、響の視界を隠す。
それと同時に木製の手甲はステージの水により強化される。五行の
そして水飛沫を隠れ蓑にアッパーカットが放たれる。響はすんでの所で首を傾けそれを避けた。
そしてまた距離を取ると、すかさず少年達が『石弾』を放ち牽制する。
遮蔽物が殆ど無い場所では響は一方的に撃たれる。そしてそれに合わせてまた成瀬が接近戦。その繰り返しだ。
味方を撃たないようにする少年少女と、術を放って無防備な2人にヘイトが向かないよう近接攻撃をする成瀬。
かなり熟達した連携だと響は感嘆する。だが響はそれらをヒラリヒラリと躱し、或いは受け流す。
「な、なんでこれだけやってダメージ無しなんだよ!?」
連携攻撃で決められない事に愚痴と驚きの混じった声を漏らす少年。
「ボヤいてないで撃つ!」
「お、おう!」
おさげの少女はそれを叱咤し再び『石弾』を準備する。成瀬が響と離れたタイミングで放つつもりだ。
「アンタらやるな。でもこっちも負ける訳にはいかねぇんで」
「なに……? ガッ……!」
刹那。紅き炎が閃いた瞬間……響の前に居た成瀬が呆気なく倒れ伏す。
「成瀬!?……っ!」
声を発したのも束の間、振り返った響の目は少年を次の標的とする。その瞳はその場に残光を残る程高速で動き、瞬く間に少年の目の前に響が迫った。
「石だ……!」
術を発動するよりも早く、炎を纏いし刀は少年の腹に入る。
「ぐあ……!」
「『石弾・追』!」
そこにやや角度を付けた少女の術が迫るが、『風雲』によって逸らされ響には当たらない。そして……。
「あぐ……!」
少年と同じように距離を詰められ、腹部に刀を受けて倒れ伏した。
「安心しろ。峰打ちだ」
(……ちょいカッコつけすぎか)
つい出てきた言葉に内心自重気味にツッコむ響。しかし瞬く間に3人を攻略して見せたのだった。
直後、倒れた少年達の懐が輝き、陽力が漏れ出す。やがてそれは黒子と大きなカラスの式神を形作った。
黒子はそれぞれ生徒を担いでカラスに乗ると、羽ばたきと共に結界の外目指して飛んでいく。
「あぁ、あれが回収用の式神ね」
それは事前に渡された護符。陽力を流してマーキングし、その術者が気絶するかリタイアを宣言すると具現化、術者を外まで運び出す役割を持つものだ。
今度は響の持つ護符が淡い光を放つ。ケースから取り出すと、そこには37/40と数字が書かれていた。
「お、減ってる減ってる」
それも事前に渡されたもので、残り人数を示す護符だ。回収用式神の護符と連動してリアルタイムで更新される優れもの。
「うし、んじゃ行くか」
一連の流れを確認した響は改めてバトルロワイヤルへと臨むのだった。
観客席。
「おおー!天陽院の白波 響が怒涛の連携攻撃をいなし、見事3人を撃破ー!」
実況の唯華が興奮した声を上げ、観客席も感嘆の声に包まれる。
「教え子が活躍している悠さん! 先程のぶつかり合いはどうでしたか?」
「そうですね。響は最初は3人の手の内を探る様子見をしつつ、しっかり攻撃を受け流してましたね」
冷静に振り返る悠。
「うんうん。あっ! そこで疑問に思った事が1つ! 陽力だけで捌いていたように見えたのですが、刀に纏ったのと彼らの術とでそこまで陽力の差が無かったと思われます。でもそれって可能なのですか?」
唯華の言う通り、本来同じ量の陽力を扱った場合、陽力そのままよりも術にした方が威力がある。
「よっぽど陽力の差が無い限り術が有利なのはそうですが、それは正面からぶつかった場合。響は角度を調整して術を逸らしてましたね。あいつの剣の技量なら十分有り得ます」
「な、なるほど! 柔よく剛を制すという事ですね! 響さんの技量恐るべし!」
繊細な技巧に驚嘆の声を漏らした唯華。続いて遥へ天陽学園の3人の講評を問う。
「そうだな……格上相手に数を揃え挑むのは良かった。しかし温存し過ぎたな」
「と、言いますと?」
「天陽学園は基本となる術……憑依型ならば術を纏う『
『憑○』……五行を身に纏う憑依型の基本の術。
『○弾』……五行を撃ち放つ放出型の基本の術。
天陽学園の生徒は皆、癖の少ない共通の術式を教わり各々の五行で扱っていた。
「そして生徒らは陰陽師の家系らしく秘伝の術を持っている。しかしそれは学園で教える連携には組み込まれていない。家系によって概要が異なるしな」
破壊力のある代わりに陽力や体力の消耗が激しい大技であったり、相手の行動を阻害したり、時間をかけて呪ったり、基本的に隠す事が特定条件であったりとその実態は様々。
個性豊かな秘伝の術は、秘匿されている事もあり対策が取りずらく強力ではある。逆に言えば遥の言うように家によってバラバラで癖が強い。
故に連携ではシンプルで共通の術の方が何かと便利であるのだった。
「だからあの3人は秘伝の術を封じた状態で挑んだ訳だ。しかし、結果として連携は通じず、各々の秘伝を使う前にあっさり敗北した訳だ」
「そうですね。今回は敵の数が多いですし、組んでも利害が一致しただけ。共通の敵を倒した後の事も考えなければいけないですから……全力を出すタイミングなど見誤ってしまうかもしれませんね」
遥の言葉に付け加える悠。決められた制約の中、背中を預ける者へも注意する必要があるのは判断と行動を難しくさせる。
「なるほど! 状況をより早く正確に判断し、時には作戦変更も即決しなければならないと言う事ですね!我修院先生、悠先生、解説ありがとうございます!」
解説を聞く生徒達は感嘆し、陰陽師達は同意するように静かに頷いていた。
そんな中、良いスタートを切った響は移動を開始。五行が不利な水上エリアから利用できる森林エリアへと向かう。
昇格を賭けたバトルロワイヤルはまだ始まったばかりであった。
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