第46話 もう1つの天刃流-弐-
「お前は……白山 獅郎……! 何故ここに……」
霊次は戸惑いつつ刃を引こうとするがまるで動かない。陽力を纏っている強化した手で素の刀を掴んでいる。だが霊次は怒りに呑まれてそんな初歩的な事に気がついていなかった。
そしてもう1人、響とのやり取りを見ていた事も。
「動くなよ。どちらも」
「どちら?……っ!」
霊次の視線の先。獅郎の左手は少女……空の陽力を解放した腕を掴んでいた。
「離して……! そいつは響くんを……!」
「その拳を振るえばその響も余波で無事では済むまい。冷静になれ」
「っ! ……は、はい……ごめんなさい」
空は獅郎の言葉を受けて冷静になり、その激しく波立つ陽力を収めていく。
「お前も刀を納めろ。上級生の話は聞いた方がいいぞ? 俺と戦り合いたいなら構わんがな」
「……分かった」
霊次の刀を握る手に力が抜けるのを見て獅郎は手を離す。霊次は大人しく刀を鞘に納めた。
「響と同じ天陽院生だろう? 先程、
「雛宮先生が……!? わ、分かりました!」
空は獅郎の見た目や聞いていた話とは異なる親切な態度に驚く。だが一刻を争う為すぐにその言葉に従った。
「フッ……ここで死んで貰うなどつまらんからな」
その後、空達の元へ雛宮が現着し響へ治療を施したのだった。
1時間後。
「ん、んん……? あれ……ここは?」
「っ! 響くん!」
「うおっ!? そ、空!?」
目が覚めた響はダルさを感じる体をゆっくりと起こす。するとその傍に座って居た空が飛び込むように抱き締めた。
「目が覚めて良かった……! あんな大きな傷だったから……!」
(……あ、そっか。俺斬られたんだった……秋雨 霊次に。俺と同じ天刃流の……俺の知らない奥義に)
心配する空の言葉で自分に起こった出来事を思い出す。
響が使う天刃流の真贋を確かめるとして技を打ち合った。そして一度は認められたものの、響の奥義を見るや否や激高して奥義『日輪』を繰り出したのだ。
響の天刃流には無かった奥義を……。
「響くん……?」
「うおっ! す、すまん……ボーッとしてた。心配してくれてありがとな」
物思いにふける響に、まだ調子が悪いのかと顔を覗き込む空。少々驚いた響は上擦った声を整えて柔らかに感謝を述べる。
「……あと、その……もう大丈夫だからさ?」
「?……あっ! ご、ごめん……! 目が覚めたの嬉しくて……つい……」
今の今まで抱き締めて居た事に顔を赤くする空。響もまた、長い時間柔らかいモノが触れていた事に恥ずかしくなるのだった。2人の間に少し気まずい空気が流れる。
「あら、響くん目が覚めたのね。良かったわ」
「雛宮先生……!」
そこに天陽院の保険医……
「先生が治してくれたんですね。ありがとうございます」
「どういたしまして」
響の深々とした謝罪を受け止める。そこにまたも訪れる者が居た。
「おや、目が覚めていたか」
「あ……こっちの校長……」
それは今朝も挨拶に伺った天陽学園校長の
「この度は2度もウチの生徒が手を出してしまった……本当に申し訳ない! なんとお詫びして言いか……!」
今朝以上に深々と頭を下げる晴義。響はその必死の形相や、1日に2度も偉い人に頭を下げられて寧ろ申し訳なかった。
「そんな……! あ、頭を上げて下さい……その、俺の方も悪かったですから……」
「……? 初めから話を聞いていた白山くんによると、君には何一つ落ち度は無さそうだったが……?」
訳を聞いていた空や雛宮に取ってもその言葉には疑問が出る。
「その、斬られる時……霊次は天刃流の奥義を使いました。俺が知らない奥義を。それがなんて言うか……凄くて、美しさすら感じて……見蕩れちまったんです」
その言葉に一同は更に驚いて口をあんぐり開ける。響はそんな中淡々と続ける。
「今にして思えば、陽力使ったら十分防げただろうし……それに、その剣は本当に凄かった。その域に至る迄どれ程研鑽したのか……同じ流派の俺にはちょっと分かるんです」
「……なるほど。我々では感じ得ないモノを君は感じたんだね」
「はい。だから、ちょっとムカついてますけど……その奥義がなんで俺の天刃流には無かったのか、なんでこっちの奥義はあいつの方には無いのかって事の方が気になってます」
そう言う響の顔に怒りの念は殆ど無かった。文字通りの疑問と、その答えを知りたいという好奇心が見える。
「はぁ……響くんは相変わらずだね。切られたなんて大事だし、普通もっと怒っていいんだよ?」
「い、いいだろ別に……過ぎた事だし。これを機に気になる事色々聴きてぇじゃん」
響は自分が受けた事ではあまり怒りの感情を見せない。いや、内心では怒っては居るだろうが、いつも何かと交換条件を付けて許すぐらい理性的だ。
(そう言えば、昔男子が教室で清涼剤でキャッチボールしてた時、頭に当たった上に漏れた液を頭から被る事件があったな……その時はお菓子奢らせるだけで済せてたっけ?)
空はお人好しな響の姿に呆れる。しかし……。
(響くんのそんな所が私は……)
密かな恋心を再確認し、空の胸が熱くなるのだった。
そしてまた校長の晴義が口を開く。
「コホン、奥義の事は聴取した時に彼も疑問に思っていたよ」
「そうなんですか?」
「あぁ……さて、秋雨 霊次くんには1ヶ月の謹慎、勿論交流会、授業と陰陽師としての活動も停止する処分を下した。君とも接触禁止だ。まあ、聴取の時は粛々としていたよ……彼の反省次第だが、問いたい事は謹慎後に色々と聞くといい」
「……はい」
(ホントは今すぐ聞きたいけどなぁ〜……ま、しゃーねぇな。先ずは交流会だ)
こうして2つの天刃流を巡る事件は一旦閉幕となった。響も疑問や好奇心を頭の隅に追いやり、明日も続く交流会へと想いを馳せるのだった。
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