第40話 影の同盟

影世界某所。


相も変わらず静謐が支配する影世界。その闇の中にそびえ立つ山の中を行く和装の影が3つ。


1人は紺色の毛先が白い少年伽羅から。2人目は長髪の黒髪の毛先が赤い殉羅じゅんら。そして赤髪を逆立てた来朱 緋苑くるす ひえん


3人は獣道を歩いていた。


「……おい、いつになったら着くのだ」

「……」

「聞いているのか来朱 緋苑」


殉羅が先頭を行く緋苑に愚痴を吐く。それを無視して悠々と歩くので、黙っていた伽羅も口を開いた。


「ちっ……うっせーな。なんだよ?」

「まだ着かないのか? それに、そもそもどこに向かっている?」

「そうだ、俺たちも暇じゃない。何時までも目的も場所も隠されては溜まったものでは無い」


2人は緋苑に突然「行く場所があるから着いてこい」と言われ、半ば強制的に龍に乗せられたのだった。


そして山の麓に着いたと思えば降ろされ、こうして傾らかな山道を延々と進んでいたのだ。


「目的は同盟相手との接触、んで場所はこの山頂にある社だ」

「同盟だと……? 何故?」


億劫そうにやっと目的と場所を話した緋苑。だが答えを得た事でまた新たな疑問が生まれる。それ故に間髪入れずに伽羅は緋苑に問いかけた。


「現状各地にマーキングしてはいるが、そもそもそれを活かす戦力が無い。局地的なテロなんぞ長い目で見たら大したダメージが無いんだよ。いずれ先細りになってすり潰されるだけだ」

「……つまりその戦力を確保する為に同盟を組む訳か。なるほど、一理ある」


緋苑の長期を見た視点に伽羅と横で聞いていた殉羅も納得する。


「では、相手はどのような者なのだ?」

「それは見てのお楽しみ。もう着くしな」


一行は遂に山頂に到着する。所々ひび割れた石造りの鳥居があり、その奥には同じように寂れた社があるのだった。


「ここか……」


伽羅達がそれらを珍しそうに眺める中、緋苑は社へ足を踏み入れ戸をあける。すると中に広い空間が広がっていた。


「暗いな……こんな所に同盟の相手が?」


そこに光源は無く真っ暗闇であり、僅かに隙間から差した月明かりが照らすだけだった。


「へぇ、もう着いたんだ〜?」

「「っ!」」


突如広間に響いた声に伽羅と殉羅は身構える。すると壁に着いた松明に火がついて行き部屋を照らす。そして中央の闇の中に存在していた燭台にも火がつき、そこに1人の『影』が立っていた。


「ようこそ」


袴に身を包んだ、黒髪に赤い瞳の中性的な少年。腰には漆黒の刀を差している。左側だけ黒く濁っている眼球が特徴的だ。


「初めまして、僕は如羅戯ゆらぎ。君たちはなんと言うのかな?」

「生憎、そう簡単に名乗る名は無い……特にこちらを侮る相手にはな」

「……へぇ」


伽羅は如羅戯の内心を見透かしたかのように言ってのける。それに不気味な薄ら笑いを返す如羅戯。


「私も伽羅と同じだ。お前はきな臭い」

「……あ、伽羅って言うんだ?」

「おい……」

「……すまん」

「チッ」


バシッ!


「うっ!すまんと言っているだろ……」


うっかり伽羅の名を述べてしまった殉羅は軽く尻に蹴りを入れられるのだった。


「2人は仲良しみたいだけど、僕は嫌われちゃったみたいだ……それじゃ交換条件と行こう」

「交換条件だと……?」


依然として穏やかな表情で語りかける如羅戯。伽羅と殉羅は引き続き警戒したまま次の言葉を待つ。


「今から2人でかかって来てよ。勝ったら僕が君らを顎で使えるって事で」


大胆な提案を述べる。要するに同盟ではなく下に着けという事だ。当然そんな利がない提案を呑む訳はなく、2人はそれに抗議する。


「上から目線だと思っていたがここまでとはな……天狗にでもなったつもりか?」

「そんな条件では私や伽羅どころか、そこの赤毛も呑まない」

「おーい、なんか俺も巻き込まれてるけどもう如羅戯とビジネスパートナーだからな? お前らの為に来てるんだからな?」

「酷い言われようで僕傷つくんですけど……」


如羅戯と緋苑は不本意そうな顔で言葉を返す。


「あ、もしかして伽羅くんは怖いのかい? 僕に負けるのが」

「舐めるな。交換条件がフェアじゃないという事だ」

「と、言うと……?」

「こっちが勝ったら貴様ら一派は我らに従え」


伽羅の言葉に一斉に息を飲む気配が広間全体から生じる。


「へぇ……ここに僕1人じゃないって気づいてたのか」

「舐めるなと言った。この程度で我々を測れると思わない事だな」


伽羅と殉羅の感の良さを見せられ、さっきまで侮っていただけの如羅戯の目に興味の色が見えだした。


「いいよ。じゃあ負けた方が勝った方に全員従うだね」

「それでいい。ではやろうか」

「ああ、2人同時でいいよ? 2回もやるのめんどくさいしね」

「ほう……私と伽羅を同時に相手をとな? 後悔するなよ」


了承し戦闘態勢になる3人。それぞれの陰力が空間を震わせるようにみなぎる。


「さて……お手並み拝見だな」


緋苑は壁にもたれかかり、値踏みするようにその戦いを見守るのだった。




数10分後。


不気味な月が照らし出す山頂。その上にあった、傷だらけでも社の体を成していたそれは見る影も無く崩れ落ちていた。


「ぐ、うぅ……!」

「クソ……!」


社だった物の前。砕けた石畳には傷だらけで倒れ伏した伽羅と殉羅の姿があった。


「おめでと〜! これで君達は僕の下に着けるよ! やったね!」


対面で拍手をしている如羅戯は小綺麗なもので、愉快そうに言葉をかけている。


「たく、派手にやるなっつの……あ〜あ、一張羅が汚れてらぁ……」


緋苑は袴に着いた埃を払いながら3人の間へ出てくる。そして伽羅と殉羅を相変わらずの軽薄な顔で見下ろした。


「勝負ありだな? ま、俺と居た時と大して変わらないだろうから安心してろ」

「……!」

「睨むなよ〜? 怖くてトドメ刺しちまうかもしれないぞ?」


緋苑は忌々しげな2人を見て満足したのか如羅戯に向き直る。


「さて、契約成立だな。次の作戦はそっちに任せるぜ」

「はいはーい……てな訳で、これから2人と仲良くしてあげましょうね〜。 ね? 僕の20人の部下達?」


闇夜の山頂に各々自由に並び立つ20の影。その目的は未だ不明であるが、その手が人に悪意を持って振われるのは明白だった。


如羅戯はゆっくりと赤い月を見上げる。


「あぁ……僕の中の陰力が疼く。早く君に会いたいよ……響ぃ」


響の名を呟いた如羅戯の口は、夜空の月より怪しい三日月に歪むのだった。

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