天陽学園交流会編

第41話 天陽学園

7月1日。

東京から東へ凡そ500km。豊かな自然が育まれている大和国。


かつての都があり、陰陽師の前身……占術師に縁のある地であるので、今も何かと陰陽師と関わりがあるのだ。


中部の桜野という土地からやや下った南部の山奥。

その中心には都会にあるのが相応しいような、広大な学園の敷地が広がっていた。


普段は一般人用に人払いの結界、そして視覚、機器からも見えなくなる結界で隠匿されている。


そこに1台の車が訪れた。


「ここが天陽学園……天陽院もこういう綺麗な感じだったけど、こっちはめちゃくちゃ広いな」


天陽院より来た響達一行は車を降りて校門前に降り立つ。いの一番に目に飛び込んできたその壮観な校舎や広大な敷地を見て響は感想を漏らす。


「んじゃ、取り敢えず挨拶するから学園長のとこ行くぞ」


悠が校門の横のセンサーにスマホをかざすと、門が自動で開いて行く。そして一行は芝が側に生え噴水まである舗装された道を進んでいく。



校長室。


「ようこそ天陽学園へ。私が校長の土御門 晴義つちみかど はるよしです」


出迎えたのは初老くらいの歳のスーツを着た男性。


(土御門……陽流陰陽師の名家だ。そっちの畑出身か?)


響は目の前の男の苗字から素性を推測する。


「ご無沙汰しております。晴義殿」

「そんな固くならなくていいよ悠くん。長旅ご苦労であったな。皆もそこにかけて楽にしてくれ」


晴義の言葉に用意された椅子にかけて肩の力を抜く一同。


500kmを車で来たとはいえ、最低限車道が通って他は野晒の道は多かった。道中、当然のように夜中は妖が出るのでその対処を、途中で休憩などを挟みつつの移動で所要時間は合計12時間程かかっている。


なので晴義の気遣いは非常にありがたかった。


「……それより先日は災難であったな。良くぞ皆生き延びてくれた。これも悠くんの指導の賜物かな?」

「いえいえ、一重に生徒達が優秀だったお陰です。俺はその後押しをした迄ですよ」


晴義は気さくな笑顔を浮かべ、挨拶も早々に話しかける。悠もそれに力を抜いた声色で返す。


内容は影世界に飲み込まれた事件の事だろう。


「ああ、そうだ。響くん、臣也くん、文香さんには言わなければならない事がある。この度は3年白山 獅郎の無礼、誠に申し訳なかった……学園を代表して謝罪する」


話題は更に直近の事件に。


深々と頭を下げて謝罪する晴義。学園の生徒が学園外での蛮行に責任を感じていたのだった。


「あ、いや……俺はもう気にしてません。何にせよ、交流会で負かすだけです」

「私も響くんと同じ意見です」

「あ、俺も。俺も右に同じです〜」


響の言葉に同意する文香と臣也。借りは交流会の中で返すと決めていたのだった。


「そうか……3人の寛大な心に感謝しかない」


晴義はその言葉を聞いて更に深々と頭を下げる。謝罪が終わったのを見て悠が口を開く。


「晴義殿。そろそろ……」

「ああ、色々準備もあるからこの辺にしようか。最後に……我が天陽学園の生徒も中々やるぞ? 天陽院の諸君らの奮闘にも期待している」


やや挑発的な激励を送られ学園長への挨拶は終わりとなった。


「穏やかそうに見えて中々面白い校長だったね〜。ね? 空ちゃん?」

「うん、優しいおじいちゃんって感じだったね」

「あの方も第肆位の陰陽師だから油断しない方がいい。しかも陽流でだ。学園長自ら生徒に授業をする時もあるらしいし」

「第肆位……すげぇな」

「うへぇ〜そうなのぉ? 絶対スパルタだぁ……」


控え室までの道すがら響達は話す。すると正面から走り寄る人影があった。


それは凄まじい勢いで迫っていた。


「おっ! 兄ぃっ! 様ぁ〜!」


ガバッ!


まさに弾丸。

秋へ目掛けて一直線に飛び込んで来る1人の少女。秋は身構え、陽力で体を強化して彼女を受け止める。


「危ないから飛び込んで来るなっていつも言ってるよね?」

「だってぇ〜! お兄様に会えて嬉しいからぁ!」


秋は彼女を窘めるが効果は薄く反省の色がまるで無い。


「秋がお兄様? って事は……」

「うん、この子は武見たけみ 澄歌すみか。僕の妹だよ」


秋の妹と紹介される少女……武見たけみ 澄歌すみか。天陽学園のブレザーに身を包み、秋と同じ金髪をボブカットに揃えている。そして茶色の瞳を爛々と輝かせていた。


「初めまして! 天陽学園1年の武見 澄歌です! 皆様の事もお兄様から常々聴いております♪」


可憐な笑みを浮かべ丁寧に響達に挨拶をして頭を下げる澄歌。


「秋くん〜! こんな可愛い子が妹なんて聞いてないよ〜! なんで教えてくれなかったのぉ?」

「そうだよ。お人形さんみたいで可愛いのに〜」


可愛いものが好きな陽那と空の2人に詰められる秋。


「言ったら面倒くさそうだからさ……特に陽那」

「あ、あぁ〜……」

「ひどい! 澄歌ちゃ〜ん!君のお兄ちゃんがいじめる〜!」


妹の存在を伏せられた理由を聞いて大袈裟に驚く陽那。空は何処か納得している様子。陽那はそのまま澄歌へとダル絡みをしようと近寄る。


「むっ! あなたが尾皆おみな 陽那さんですか……」

「ん? そうだよ! 初めまして! 仲良くしよ〜!」

「私を抱きしめていいのはお兄様だけです! そして陽那さん! あなたにだけは負けませんから!」

「うぇっ!? どゆこと!?」


抱きつきに行く陽那だったが、それは思いがけない言葉で制止される。口から素っ頓狂な声が出てしまう。


「それと! 白波 響さん!」

「お、おう」

「あなたもお兄様の足を引っ張らないようにして下さい! いつもお兄様が色々教えてるって聞いています! いつまでも優しく教えて貰えるとは思わないように!」

「ええ……?」


いきなり矛先が代わり困惑する響。


「お前どんな風に俺の事伝えたんだ……」

「いや、普通に助けた人を僕が先生みたいに色々教えたりしてるって言ったけど……なんかこうなったみたいだね?」

「他人事みたいに言うなよ!?」


秋を見て抗議するが、諦観した声で返し目を逸らされた。


「あっ! お顔を見るだけの筈が長々と話し込んでしまいました……すみません。それではお兄様、また交流会で会いましょう♪」


まるで嵐のように澄歌はその場を去って行ったのだった。


「ねぇ〜? なんであたしあんな拒否られてるのぉ?」

「俺みたいに絶対変な伝わり方になってるだろ……」

「うーん? 陽那の事は付き合って長いって言ったよ?」

「「「え?」」」


爆弾発言が飛び出て一同は今日何度目かの驚きを見せた。


「ちょっとぉ! 絶対それ〜! あの子ブラコンみたいだし、陰陽師として付き合い長いのをはしょりすぎて誤解されてるよ〜!」

「あ、そっか……そう取るか。ごめん」

「もぉ〜!」

「この天然め……」

「あはは……陽那ちゃんご愁傷様」


真面目だがどこか抜けている秋の一面と澄歌のブラコンぷりが悪い形にかち合ってしまったようだった。


「こらこら1年ズ。そろそろ控え室行かねぇと遅れるぞ〜」

「そうよ。女子は私が案内するわね」


臣也や文香が声をかける。1年4人はそれに従いまた歩き出すのだった。




男子更衣室。

一同は男女それぞれの更衣室で準備を整える。響は右に小物を、左側に鞘を収めるようにできた特注ベルトを着用しながら秋に話しかけた。


「いよいよか〜。どんなやつが居るんだろうな?」

「さぁ? って、君緊張するタイプじゃないっけ?」

「ん〜? まあそうだけどさ、任務に比べりゃ全然だわ。それに……」

「それに?」


響は言葉を区切り想いを馳せる。母との記憶、そこに映った少年の妖しい笑みを……。


「それに、こんなとこで止まってらんねぇからな。位階を上げる……その為の交流会だ」

「……そうだね」


響の真剣な表情と力強い語気から並々ならぬ感情を読み取る秋。同じように強い覚悟を胸に2人は支度を進めた。


「そう肩に力入れなさんな2人とも〜!」

「うおっ!?」

「し、臣也先輩……!」


そこに臣也が明るい声をかけ2人の肩を組む。


「交流会が踏み台ってのはいいけど、勉強も鍛錬も楽しんでやるのが一番身につくって俺は思うぜ? 天陽学園の奴らの術を見れるいい機会と思って楽しもうじゃねぇか!」

「確かに、それはちょっと気になってたッス」

「まあ、そういうのもいいかもしれませんね」

「そうそう! どんなかわい子ちゃんが居るか気になるしな!」

「やっぱ女子の方が気になってる!?」

「交流会中にナンパしないで下さいよ?」

「へぇ〜い。って、もうすぐ時間か。行こうぜ後輩ちゃんズ?」

「おう!」

「はい!」


冗談を言いつつ準備を終えた男子3人は更衣室を後にする。




場所は変わって女子更衣室。


「ふぅ……」

「そ〜らちゃん♪ 緊張してるね〜? ならあたしが解してあげよう!」


そう言って着替え中の空の肩を揉みほぐす陽那。


「わっ! あ、すご……気持ちいい〜……陽那ちゃん上手だぁ〜」

「そうでしょ〜? お客さん凝ってますなぁ?」

「なんか声がおじさんっぽいよぉ〜」

「えぇ〜? そう? あははは!」


陽那の気遣いで空の硬い表情は解されいつもの笑顔になる。それを確認して陽那は嬉しそうに頷く。


「うんうん、いつもの空ちゃんに戻ったね♪ これなら大丈夫そうだ!」

「ありがとう陽那ちゃん。がんばろうね!」

「2人はとっても仲良しなのね。ちょっと羨ましいかも」


そこに準備を終えた文香が柔らかく微笑む。


「えぇ〜? 文香さんも仲良しだよ〜? 響くんと空ちゃん来るまでは結構一緒に鍛錬しましたし〜」

「そうなんだ?」

「そうなの。2年も私と臣也の2人だし、1年は秋くんと陽那ちゃんしか居なかったから……組手の相手が一辺倒になって変な癖つかないように合同でやってたりしたの」

「そうそう! それで先輩の実力は折り紙付きだから、今日も頼りにしてます♪」


先輩の実力を肌で感じていた事で強く信頼を置く陽那。それに少し文香は照れくさそうに笑う。


「みんなに良いとこ見せられるように頑張るね! さ、時間だし行きましょ? 男子達もきっともう待ってるわ」

「はい!」「は〜い!」


元気に返事をして女子も校庭へと向かって行くのだった。

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