第36話 臣也と響の任務
「はぁ……はぁ……ど、どうしてこうなった……!」
響は廃鉱内の道で大きく息を切らしていた。
「さあな……いや、報告と比べて滅茶苦茶『影』が多いが……」
響の虚空に投げた問いに答えるのは1つ上の先輩に当たる天陽院2年
2人は任務で廃鉱へ来ていた。
1時間前……廃坑入口付近。
「クライアントは、閉山したここを個人的に日本酒やワインの貯蔵施設にしたかったみたいね。で、業者がチェックに入ると『影』が居たみたい。『陽流陰陽師』が斥候で派遣されて複数のそれを確認。で、君ら2人はその討伐って訳。1匹残らずやっちゃいなさい。よろしくね?」
スーツ姿で大人の色気漂う柊の女性が概要を簡単に説明し、響らを車から下ろす。
2人が廃坑入口へ歩いて行くと、陰陽師が貼る結界が目に飛び込んできた。その合間に任務について話す。
「廃坑に複数の『影』……か」
「いや〜大変だな。こりゃ落とすのは骨が折れるぜ」
「落と……? まあ、結構広いですからね。穴とかあっても利用できるかは……」
「いやいや、任務じゃなくて柚子さんの方」
「そっちかい!」
話がすれ違った上に内容に思わず響はズッコケる。
臣也が言ってるのはさっき話していた柊の女性……
彼女は金髪に白い肌、ルージュが情熱的であり……足を組み髪を耳にかける仕草は見る男性を魅了するだろう。
響自身、タイプとは違うが少しドキッとしてしまっていたのは確かだ。
そして臣也は割と遊び人だ。面が良い上に愛嬌も見せるのが上手い。
休みの日はナンパで年上の女性とお茶もよくする。
だから彼女に惹かれるのも道理であった。
「サッと終わらせてデートのお誘いしねぇとな!」
「いいですけど、俺が帰ってからにして下さいね。その場に居るのは気まずいんで」
「ありゃ? そう? じゃあ今度直ぐに使えるナンパテク教えるぜ」
「じゃあとは……? 持ち帰って検討しまーす」
「それ絶対通んないヤツ!」
騒がしい臣也と素っ気ない響。いつもなら文香に抑えられるおチャラけは増すばかりであった。
そんなやり取りを交わしつつ、2人は陰陽師に結界を開けてもらい廃坑へ入る。
そして道なりに進み、弱い『影』から強力な個体までを倒していったのだが……。
1時間後。
「陽力大分使ったッスね」
「それなー。ま、無事倒したからOKよ。後は帰るだけってね〜」
「そうッスね。そうだと良いですね」
「おっと、油断大敵ってな。流石後輩だわ」
「臣也先輩は緊張感持った方が良くないッスか?」
自分で言ってまるで秋みたいな事を言っていると思う響。
「でも……ありがとうございます。臣也先輩のおふざけのお陰で休めてる感じあるんで」
夜目が常人より効くとは言え暗い道を長時間歩き、戦闘も行っている訳で疲労は精神にも来る。
だが臣也は経験豊富なだけあり響より余裕があった。ふざけている様に見えるが、実際にはちゃんと警戒もしている。
そして響はその明るい言葉をかけられる事で心が休まり、結果として集中が続いたのだ。
「いいって事よ。それにさ〜? こっちは陰陽師歴10年以上よ? ちったぁ先輩風吹かせろよ。ルーキー?」
「……はい、頼りにしてます!」
(俺も負けてられねぇな)
先輩の大きな背中を見て響もやる気に満ち溢れるのだった。
「ま、そんな張り切んなくてもすぐ出口だぜ?」
「帰るまでが遠足って奴ッスよ」
「それもそうか! んじゃ、油断せずに行こう!」
慎重に進む2人。響が気配を感じ取り足を止める。
「っ! 『影』居ます! この先!」
「マジか! この先は通ってきた広間……そういや片方埋められてる道あったな。そん中に湧いて出てきたのか?」
「何はともあれ、行ってみましょう……」
2人はゆっくりと広間へと足を踏み入れた。すると……。
小さな黒いモヤに目玉が浮かんだような『影』が中央に居た。
「ちっさ!」
「マジで小さい……でもまあ『影』は『影』だ。倒すぜ響!」
「はい!」
響が刀を構えながら駆け、臣也は術を発動しようと刀印を構える。
対する『影』は……。
突如としてその体を膨張させる。
「いっ!?」
「はぁ!?」
響と臣也は瞬く間に壁のように膨らんだ『影』を見て攻撃を中止、一旦下がり様子を見る。
そして、『影』の膨らんだ体からおびただしい数の眼球が生まれる。
「「キッショ!?」」
そのおぞましい姿に2人は驚嘆せざるを得なかった。
「チッ……! でも的はデカくなった! やるぞ!」
「はい!」
臣也が刀印を構え陽力を練る。すると地面から無数の岩の手が拳を握り、『影』に向かって伸びて行く。
「グギュルルル!」
全て命中し、『影』は苦しそうな声を上げた。
「はあぁぁぁッ!」
響は怯んだ隙に接近し、轟々と燃え盛る刃を振るう。そして黒い巨体は真っ二つに焼き切られた。
「おし!」
臣也がガッツポーズで勝ちを確信した。
だが……。
「っ!」
パァンッ!
まるでポップコーンのように『影』は破裂。いや、正確に言えば眼球1つ1つを中心に分裂したのだ。
「チッ!」
響はすんでのところで後退し無傷だが、状況は悪くなる。
「分裂能力か!」
「そうみたいッスね。前にも分裂するやつにあったけど、ここまで細かくなるとは……」
群れとなった『影』は縦横無尽に広間を駆けまわり、様々な角度から2人に襲いかかる。
響は刀を振るい、臣也は岩石の手で迎撃する。
だが如何せん、数が多い。その上……。
「なんだ……!?」
響が何体目かを切り裂くと、『影』達は一箇所に集まり出す。
そしてやがて1つになり膨張する。
「まさか……」
臣也が冷や汗を書きながら最悪を予想する。そしてそれは当たっていた。
パァンッ!
最初にしたように『影』は分裂する。数もまた振り出しに戻る。
「めんっっっどくせぇ……!」
響が悪態を着くのも仕方がない程のクソゲーが始まった。
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