第30話 天陽十二将-酉-
突如響と悠を覆う暗い影が落ちる。それに気づいた響が上を見上げると、巨大な何かが降ってくるのが分かった。それは地鳴りのような揺れを起こして響たちの目の前に降り立った。
「な、なんだ……!?っ!」
それは、巨大な鶏だった。
「で、でっけぇ……鶏……!?」
「おっ待たせぇ!」
「喋った!?」
何故か空から降り立った鶏に驚く響だったが、振り向いた巨大な鶏が良く通る女性の声を発した事で更に驚嘆する。
「違う違う! ここ、ここ〜!」
また鶏から声がしたと思えば、その背の羽毛がモゾモゾと動く。そしてその中から人が生えるように現れた。
陽力で強化された体は夜目もかなり強化されているので響にもその姿はよく見えた。
出てくる時に乱れたであろう明るい茶髪。その毛先は赤く、一房のポニーテールに纏めた女性。彼女は十二家会議にも出席していた
「ぷぅ……おっ? 案外元気そうだね! 良きかな良きかな! 期待のサンプルが無事なら私も戦いに専念できるってもんよ〜」
ゆづるは響達の傷の具合を軽く見て判断し、迫ってくる『影』へ向き直る。
(酉……?)
ゆづるの白衣風の羽織……その背に書かれた『酉』の字が響の目に入る。
それこそ彼女の所属とその実力を指す証だ。
「んじゃ、悠くん2人任せたよ。いってきまーす!」
怒涛の如く話したと思えば、今度は一直線に『影』へ向かってくゆづると巨大な鶏。
「ちょっ! 先生! 止めなくていいんスか!? あんな数の巨影やら相手に1人は流石に……」
「大丈夫さ」
響が彼女を気遣った言葉を遮るように悠は呟く。悠は依然落ち着いた声色だ。
そんな2人を背にゆづるは『影』へ近づいていく。
「1、2、3……あぁ〜! 数えるのめんどい! 全部倒せばいいよね!」
「コケッ!」
その言葉に元気に返事をする鶏。そうして『影』の軍勢と会敵する。
戦いの火蓋を切って落としたのは鶏の蹴り。強靭で鋭い爪が数体の『影』を蹴散らす。『影』たちはたちまち体を綻ばせて消えていく。
左右、背後からも飛びかかってくる『影』をものともせず翼、爪、クチバシで迎え撃つ。攻撃の手はまだ緩まない。上空からも複数体の羽ばたく『影』が迫る。
「上からならいけると思った?」
だが上は背に乗ったゆづるがカバーする。右手に陽力が集まり、それは突撃銃の形を成す。
ダダダダダッ!
構えた突撃銃の銃口から陽力を纏った弾丸が次々と撃ち出される。飛んでくる『影』たちはそれを受けて穴だらけになり、地面に落ちる前に霧散していく。
次々と消えていく『影』だが、200を超える数が居るだけあって次々と襲いかかって来る。
「あぁ〜! もうめんどくさいなぁ〜! 時は金なり! 一気に決めちゃおっ!」
「コケケッ!」
そう言うや否やゆづるは鶏の頭に飛び乗る。そして鶏冠を掴んで体を固定する。鶏が合図と共に頷くように首を下に向け、そこから一気に振り上げる。ゆづるはその勢いを利用して天高く跳躍した。
「オペレーションFB!」
『オペレーションFB了解。標準補正スタート』
そう唱えると同時に右耳にかかったイヤーカフ型ユニットが音声を認識する。すると赤いメガネのレンズに四角い照準マーカーが浮き出た。それは視界内を忙しなく動き、『影』たちに赤いマーカーをつけていく。
その間にも地上の鶏へと『影』は迫るが、鶏はその巨躯を勢いよく回転させてそれら吹き飛ばした。そしてロックオンも間もなく終了する。
『最大ロック完了』
「おけ! ユニット展開!」
機械音声がそう告げると共にゆづるの左手に機関銃が現れる。背中にはバックパックが装着され、そのアームが持ち上がり両肩越しにそれぞれミサイルユニットが顔を出す。右手の突撃銃と合わせて完全武装となったのだ。
「
瞬間、一斉に撃ち出される弾丸とミサイル。それらは目標へ絨毯爆撃のように降り注ぐ。ゆづるは撃ちながら体を捻り、次々と目標を変えてそれを浴びせていく。
(巨大な式神だけじゃない……確か首都防衛で最近配備されてる銃やミサイル……だよな? でも陰陽術じゃないと『影』は倒せない……つまりあれも陰陽術で!? すげぇ……!)
離れてそれを見守る響は今までの常識では測れない陰陽術に圧倒される。
そして彼女が再び鶏の背へ降り立った時、そこにはドーナツ状に破壊された地面が残るだけだった。
「よしよし、いい感じだったね」
一息着くと共に銃器が光となり霧散していく。
「あなたもありがとね♪」
「コッケ!」
共に戦った鶏にも労いの言葉をかける。それに答えるように一鳴きすると、同じように光となり消えていった。
地面に降り立った彼女が響たちの元へ歩み寄る。響はあの数の『影』たちを全滅させた一部始終を見て目を丸くしていた。
「あ、あなたは……」
「私は天陽十二家が1つ、
「十酉……ゆづる……」
「そっ! ゆ〜づ〜るっ♪」
自己紹介をして両手の人差し指で自身の顔を指差しニパッと笑うゆづる。
悠の亥土家に並ぶ『陰流陰陽師』の名家にして、陰陽師最強の戦闘集団である天陽十二将の1人だという事を響はありありと理解させられた。
「ゆづる、他の陰陽師は?」
「みんなは式神を先行させつつ龍を追うように指示し……あ、ちょっと待って?」
悠の問いに答えたその時、短く電子音が響く。丁度連絡が来たのだ。ゆづるは左側のイヤーカフ型ユニットに手をかざし通話に出る。
「ゆづるだよ。……うん……うん、了解。戻っていいよ。こっちは私1人で大丈夫」
通話を終えたゆづるが響達に向き直る。
「うちの部隊が追ってたけど、先行させてた式神を全部やられたみたい。空を飛べる程だからもう離脱しただろうね」
「そっか。だけどこうして生き残った。今はそれでよしとしよう」
ゆづると悠の会話から響も状況を飲み込む。
「さ、戻ろう? 君たちの傷も癒さないと」
「は、はい……助けて頂きありがとうございます」
「いいってことよ! じゃあお礼に今度私のラボに来て欲しいな〜?」
「ラボ……?」
「こう見えて研究者だからね! 色々噂に事欠かないっていう君の事、実は気になってるんだ〜! ねぇねぇ実験させて! 弄らせて! いいでしょいいでしょ〜!」
「実験!? ……ってちょっ! 近い! 圧強ぇよ!」
目を爛々と輝かせて響の顔に迫るゆづる。響は思わず体を仰け反らせて顔を引く。
「はいはい、そこまで。研究の事になると相変わらずだなぁ……まずは帰る事優先だ」
「あっはは〜……ごめんごめん。では改めて戻ろう! さっきの返事はまた後で! 」
「お、おう……」
強さだけでなくその積極性にも圧倒される響であった。かくして響たちは危機を乗り越え無事に帰還したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます