第22話 空に迫る魔の手
影世界。
「殉羅、早い者勝ちで良いのだな?」
「ああ……あの来朱 緋苑の言を信じるならば、かかったのは陰陽師だろう。陽力もそれに見合った量取り込めると見ていい。私に譲ってくれても構わんぞ?」
「冗談を言うな……我が貰う」
どちらも獲物を譲る気はなく、激しい視線をぶつける。
「ならやはり早い者勝ちだ。私は西側、伽羅は東側だ」
「それでいい。ではな」
2人はそれぞれの方向へ向かって夜の町を飛び出して行くのだった。
現世。
先程の現象を調べる為に陰陽師達が結界の中にゾロゾロと入る。
「秋! 空はどこに連れてかれたんだ!?影世界なのか!?」
響は陰陽師に続いて入ってきた秋に問いかける。
「落ち着いてよ。焦っても事態は好転しないよ」
「うっ……そ、そうだな……。んで、空はどこに消えたと思う?」
秋の言葉を受けて平静を取り戻す響。軽く息を吐いて改めて質問をする。
「あの門……僕らが現世と影世界を行き来するのに使う暗門に似ていた。それに中から出てきた影も奴らが人を攫うのに使うものと同じだ。だから影世界に連れてかれたと見ていいと思う」
秋はあの短い時間に発生した現象をよく見ており、秋の持つ知識に基づいた見解を述べる。
「なら行こう。ここにも暗門あるんだろ?」
「うん。だからさっき開門の準備を頼んだ。救援の要請もね」
「いつの間に……!?」
抜かりのない行動に、秋の陰陽師として積み上げられて来た経験を感じる響。
2人は暗門のある部屋まで足を運ぶ。部屋の中心に結界。その中に門は浮くように存在し、全体を光る鎖のようなもので封じられている。そして陰陽師がその封印を解く為に祝詞を唱えている。
「響くん、秋くん!」
「陽那! 来てくれたのか!」
開門を待っている間に響達の前に陽那が駆けつける。
「僕が喚んだんだよ。緊急を要する場合、最低でも第
「偶々近くで任務だったから。他の人にも要請は届いてると思うけど、あたし以外の人はすぐには来れないと思うよ」
「なるほど。じゃあまず俺と秋と陽那で行くしか無いって事か」
「そういう事! 絶対空ちゃんを助けようね!」
暗門の解錠は進んでいく。そしてその間に空の救出の手筈を話すのだった。
影世界。
門から出た影に呑まれた空は伽羅達とは別の場所に立っていた。
「ここは……影世界……!」
(前は響くんが居たけど、今は私1人……どうしよう……)
静寂が包む夜の世界に独りきりの空。胸の内を不安が襲う。それでも元の世界に帰る為に何か手は無いかと思考する。
「あっ……!」
思いついた空はスマホを取り出す。以前から持っていたものでは無く、入学時に与えられていた陰陽師専用の端末の方だ。
「あ……でも、電波が無い……」
当然のように電波は無く、アンテナは1つも立っていない。どうしたものかと途方に暮れていると、手の中でスマホが大きく振動する。
「わっ! な、なに!?……ん? えーと、 『電波がありません、陽力を流して陽力モードを起動できます』……?」
スマホにそんな通知が入る。恐る恐るそれをタップすると、電池のマークが大きく表示される。
「陽力を流せ……? とりあえずやってみよう……!」
空は陽力を練って手からスマホに陽力を流す。すると画面の電池マークの中が満たされ、陽力モードが起動した事を告げる。
「これなら連絡は……できるけど、通話もチャットも距離が離れてたらダメなのかぁ……」
空は陽力モードで何ができるのか気になりスマホを弄っていく。1つずつ試していき、次はマップアプリを試してみる。
「あっ!」
マップアプリも起動する事を確認する空。空が現世で居た神社の名前を入力する。
「ナビは使えないけど、ここから神社の方向は分かった! これなら……!」
空はコンパスのように方向を示す画面を見ながら道を走り出す。孤独はまだあった。しかし、やるべき事と手段が決まり、動き出す空の心には少しゆとりができる。
(──警戒しながら進まないと。もし見つかっても大丈夫。弱い『影』だけど倒せたんだもん。習った事を活かせばきっと……!)
確かな希望を胸に空は影世界を駆けるのだった。
暫く月明かりが不気味に照らす町の中を走る空。ここまで幸運にも『影』に見つかる事も無く道を進めていた。
「どれぐらい近づいたんだろ? 距離が分からないのって不便だなぁ……」
如何に普段使っている文明の利器が偉大かという事、そしてそれが通じない影世界という場所が如何に異質かという事がひしひしと伝わる。そんな事を思いつつ引き続き道を行くのだった。
すると、目の前に道の先に影が1つ見えた。
「見つけたぞ」
「っ!」
空の進行方向を塞ぐように立つのは、毛先が白い紺色の長髪の『影人』……殉羅だった。
(人、じゃない……!『影』と同じザワザワするの……陰力っていうのだよね。でもあの子に取り憑いてたのよりずっとずっと不気味……!)
空は一目で目の前の殉羅の異質さを感じ取る。
「恨みは無いが……糧となれ。女」
そう述べた殉羅の左手に炎が現れ、それは弓を形作る。そして右手からは炎の矢が生まれた。ギリッと引き絞られる弓。狙いは空の心臓だ。
「くっ……!」
空は全身に陽力を纏う。そして矢を避ける為に全神経を集中させる。だが……。
バシュッ!
(──早っ……!)
放たれた矢の速度は空の予想を上回る。空の脳に死の予感が過ぎる。
「っ!?」
瞬間、家をぶち破りその場に現れるヒグマ。それは瞬く間に空と矢の間に割って入り、爪を振るって矢を叩き落としたのだった。
「え? 何!? 熊!?」
空も預かり知らない出来事に戸惑い一歩下がる。すると穴の空いた家から響が飛び出す。
「空!」
「響くん!」
「無事で良かった! 行くぞ!」
「えっ!?」
再会を喜ぶのも束の間、響が空の手を握り殉羅と反対の方向に走り出す。
「逃がすか……!」
それを見逃す殉羅では無い。瞬時に右手に二の矢を生み出し2人の背に射る。だがそれもヒグマによって阻まれた。小さく舌打ちをする殉羅。
「っ!」
そこに頭上から秋が強襲する。脳天へ叩きつけるように振り下ろされる雷を纏った直刀。それを殉羅は弓を盾にして防ぐ。
「くっ……! アレはお前の式神か!」
「残念、あたしのだよ!」
殉羅の背後。風を切りながら陽那の鞭が迫る。殉羅はそれに気づくや否や、秋を弾き飛ばして大きくその場を飛び退いた。
「他の陰陽師か……思ったよりも早かったな」
地面に着地した殉羅に秋と陽那、そしてその式神のヒグマが立ち塞がる。
「どうも。一応聞くけどあの変な門の術師? 何を企んでいる?」
「……答えるとでも?」
「まあ言わないよね〜。それじゃあ体に聞いちゃおうかな?」
予想通りの答えが返ってきた事に何ら躊躇いもない秋と陽那。陽那がピシャリと地面を鞭で叩くとヒグマが大きく唸り威嚇する。
「サディスティックだな。まあいい……2人まとめての方が効率がいいからな。射抜かせて貰う」
殺意を向けて弓を構える殉羅。
静寂と夜闇が支配する世界。ここにまた人と『影』の戦いが始まるのだった。
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