第1話 いつもの帰り道に落ちる悪意
私はいつも、同じ時間に同じ道から家に帰る。いつからそうなったのかはわからない。気がつけばそうなっていたのだ。
私は大手企業の受付をしている。17時には受付を閉じるため、18時にはビルを出て帰路につく。
この仕事を始めて3年が経つ。正直稼ぎはよくないが満足している。いつも決まった時間に仕事が終わり、プライベートの時間もしっかり確保することができる。
不満を1つ挙げるとすれば通勤時間が長いことである。会社から自宅まで60分かかる。電車で40分、徒歩で20分。見栄を張って都内での勤務を選んだ自分が恨めしい。
仕事が終わり、徒歩5分で最寄り駅に到着する。電車は乗り換えなしで自宅の最寄り駅に到着する。駅を出るとすぐ100mほどの商店街がある。休日はよく買い物に来るが、仕事帰りに寄ったことはほとんどない。商店街に入って40mほど歩き、右折をする。そこからはまっすぐ歩くだけで自宅に到着する。
この道を歩くときに1つ気になることがある。路地に入ってすぐ大きな資材が左端に寄せられている。この道を使い始めて3年間ずっと。これがなければもっと歩きやすくなるし、わざわず右端によって体を建物の壁に擦り付ける必要もないのだ。
資材をよけて歩くとすぐ街灯がなくなり両脇を高い塀が囲む。ここだけ両壁の圧迫感のせいか少し狭く感じるのは気のせいだろうか。もし反対側から誰かが来たらすれ違うのもぎりぎりなくらいだ。幸いこの道で誰かとすれ違うことはない。
しばらくして自宅のマンションに到着した。家賃6万円の1DK。一人暮らしには十分すぎる大きさである。今日も1日の疲れをごはんとお風呂で癒され、布団でスマホを操作をしているうちに眠りについていた。
目が覚めると朝になっていた。
目覚ましの音が鳴る前に起きることができた。今日は朝からいい調子である。
朝ご飯を久しぶりに食べ、いつもより2本も早い電車に乗れそうだ。
朝の通勤は裏道を使わずいつも大通りを使っている。朝はゆっくり歩きながら会社に行くまでに気持ちをつくる。世間は在宅で仕事ができる時代になっているのに受付の仕事はそうはいかない。眠い顔で仕事はできない。
会社に到着し、いつもの制服に着替え同期と談笑しながら現場に向かう。
昼休憩。1時間という限られた時間で私はしていることは、ご飯を食べながら同期との愚痴話だ。特に私たちの話題に上がるのは上司の和田さんである。毎日受付に来ては私たちに説教話をしてくる。内容も大したものではない。「声が小さい」、「猫背だ」、「やる気がない」などの、今ではハラスメントとなる発言ばかりだ。
私たちは最近、和田を内部通報した。業務中のハラスメント行為についての報告である。
翌日から和田が受付に来ることがなくなった。おかげでストレスも減り、定時まで気持ちよく仕事ができるようになった。
定時。仕事を終えて更衣室で着替えを済ませる。
今日は木曜日である。あと1日頑張れば2日間の休日がやってくる。
電車に乗り40分、最寄り駅に到着し商店街へと入る。そしていつもの路地へと入る。いつもどおり大きな資材が左端に置かれている。右側に寄って資材を避ける。
次の瞬間、景色が突然一変する。
頭には激痛が走り、体がうまく動かない。全身に痛みが広がっていく。
景色は真っ暗なままだが、私には分かる。私の頭からは血が流れている。手や足からも流れている。血を流し過ぎたせいか、痛みのせいか意識が薄れていく。
薄れていく景色の中、頭上を見ると月明かりがあった。そしてそこには人影が見える。助けて。
月明かりはゆっくりと消え、視界には何も映らなくなった。私の意識は消えていく。
「本日のニュースです」
「東京都〇〇区○○で女性の遺体が発見されました。
「遺体はマンホールの中で見つかり、空いていたマンホールの穴に誤って落下したして警察は捜査を進めています。」
僕が知る5つの事件 たくほ @takuhoo
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