第22話 漂流者
「う、うぅ」
ここはどこ……僕は確か大津波で流されて……
「あの、あの、め、目が覚めましたか?」
「え?」
目を開けると黒いマスクをした少年が目の前にいた。一体全体、何が起きたのか。まさか、死んでしまったのだろうか。天国……?
「あれ君は……」
「え、えと、この島の主なんです。あ、貴方はここに船で流れ着いてというか……」
テントの中なんだろう。それなりに柔らかい布の上に寝かされていて、額には冷やしたタオルが置いてある。
「えと、僕は」
「自分が誰か、わかりますか?」
「【ラリラ】。確か博士をしていたと思う」
「あ、えと、さ、最年少で博士、になった、天才の?」
「そうそう! 僕は天才の博士だった……」
「そ、その、博士さんがなぜ、海に?」
なぜって……それは確か……
「あぁ、【ガイア帝国】って奴らの仕業だ。僕って天才だから【テラゴラム】の遺跡を調べてたんだ。それでね、テラゴラムが実際に存在したエレモンだと確信をしたんだ」
「なるほ、ど」
「それで、狙われてね。研究資料が盗まれたりもあって……それが学会で責任追及とかされてねぇ……僕は天才だから、最年少ってのもあって疎まれててねぇ」
ふむ、よく考えると僕ってとんでもない災難美少女天才博士なのでは? 看病をしてくれた彼は、オドオドとしているがちゃんと話は聞いてくれている。
「はぁ……参ったねぇ。テラゴラムも色々と分かってきてたのにこんな事態になってね」
「そ、それで?」
「まぁ、色々あって気分転換に海にでも行こうかなって思ってら……津波が起きてここにいたんだぁ」
「な、なるほど」
彼はじっと聞いている。
「えっと、ど、どのあたりを船で移動してました?」
「えっと」
地図を見せられて僕がどのあたりを進んでいたのかと求められたので、説明をしておいた。
そうすると、彼はむむむと唸っていた。
「この辺りは……なるほど、そう言うことか」
なにか分かったのだろうか。ある程度考えた後に、彼は一言つぶやいた。
「あ、ありがとうございます、し、質問に答えてくれた、お礼に家まで送らせて貰います……」
「え、あ、うん」
正直、家になんて帰りたくないなぁ。最近、学会でも研究施設でも浮きまくりだったしなぁ。
ガイア帝国とかのせい……いや、単純に人間関係が上手く行っていなかった。
──生まれた3歳で僕は自分が天才で美少女であると悟った。どう考えても美少女で天才だった。
17歳だが、童顔で小学生みたいと言われるが美少女であることには変わりない。そして、天才だった。エレメンタルコードは18個全て集めたし、ゴッドリーグには行っていないがいけたとも思っている。
ただ、僕はエレモンについて知りたかった。伝説と言われる【Lランク】のエレモン、伝承でしか聞いたことのないエレモンの謎を解明したかった。
圧倒的な才能を持つ自分と、周りとの温度差……を感じていた。
でも、その温度差を埋めようとしなかった。その結果がこれかぁ。
──家に帰りたくえねぇ……
「あ、えと、どこの町に住んでますか?」
「あ、うん……き、記憶が混濁してて」
黄銅の街だけど、もうちょいこのままでも良いかな。このテントの中は居心地良さそうだし。
「多分、黄銅の街ですよね?」
「あ、え?」
なんで、この子、知ってる?
「え、あ、えと、前に、何かで、見た気がして……有名な天才博士、だから」
「あ、そういうこと」
びっくりした【心でも読まれたのか】と思った。
「その、この島は、俺の島、で、帰って欲しいです」
「し、質問答えたらすぐ帰らせるの! も、もうちょい休みたいって言うか、お腹も空いてるし」
「え、えとじゃ、果物渡すので、食べたら帰ってください」
すごい帰らせようとするこの子、さっきまですごい心配してたのに!?
「と、とりあえず、日を浴びないとね」
気まずくなってきたので僕は外に出た……すると本当に無人島だった。どこだ? こんな島あったかな?
多分、船でいた場所から流されたとしたら……僕が予測する場所にこんな島はなかったような気がするけども。
「……ねぇ、この島なんて名前?」
「……名前は特にありません」
「そう、なんだ」
妙だこの島……少し見ただけでは何も言えなけども、絶対に何かおかしな部分がある。何を言うことはできないけども……
「え、えと、はいデカイチゴ。食べたら、か、帰ってください」
「う、うん」
デカイチゴね。あれ、随分と美味しそうな見た目をしているな。一口……あ、あれ?
「め、めっちゃ旨い?! なんだこれ!? で、デカイチゴ、こんなの食べたことないよ!!」
「あ、そうですか」
「反応薄ね!! 君!」
う、うん、それにしてもこれ旨いな……。僕感動してるぜ!! ここで育ててるのかな?
てか、この子、何者……おかしくない? この島所有物ってことだよね? こんな少年が?
「あんまり詮索、しないで、帰って、貰って……」
「あ、うん……」
この島……チラリと横目で見ると島には木々が何本が並んでいた。苗木なども埋められているが見える。
この島を開拓してるってことか。
やっぱり、改めて見渡したけど……【地図上】にこんな島存在するか? 少しだけ、エレフォンを見た。
GPS機能で自身の居場所を確認した。そこには、見たことのない場所が
「あ、えと、その、この島を……」
「す、すごい!! 地図にない島って!!! あり得ないよ!!! 急にこんな島が現れたってことは!!! 自然に作られたものじゃない!! ってことは!! 【テラゴラム】だ!!! 伝説にある、伝承に伝わる、テラゴラムが作ったんだよ!!!」」
「あ、えと、デカイチゴ食べたし帰る準備を……」
「ちょっと調査させて!! お願い!!」
「む、無理」
くぅぅぅぅ、こ、この島を調査したい。これはきっと【テラゴラム】関連だ!! この巨大な島を現代の科学力で作れるはずがない!!!
この島がバレないのはなんで? 多分、出来たのは最近だ。昔からあったら、バレてるし。
そもそも、もっと発展してるはず。木々を植えたりしてるのが窺える。だから、この島を開拓したいと思ってるんだ、ならなんでそこまで進んでいないのか。
答えは【最近出来た】と考えるのがしっくりくる。他にも彼はテラゴラムの力に関係しててとか、伝承の一族とかで特別な島を守っているとか。
どちらにしても、知りたい!!! こんなワクワクするのは久しぶりかもしれない!!!!
「ねぇお願い! なんでもするから!」
「で、でも。ここは」
「お願い! ねぇ! お願い!! なんでもする! お金も払うし! 全部あげる! 全部! 僕の全部あげる!」
「う、ううん。でも、その」
「エレモンの知識も、研究結果とかあげる!! 全部あげる! 調べたら真っ先に報告する!!」
彼は最初は拒絶をしていたが、リターンを提示すると少しだけ軟化したような態度をとった。
「知識……例えばエレモンって病気になったりしますか?」
「あるよ。僕ワクチンとかも作ってたんだ!」
「ここで、作れます、か?」
「材料とかあれば……そう言う免許持ってるし」
「……じゃあ、GPS機能を切って、お、俺の言うことに絶対服従なら」
ショタの男の子に僕すごいこと言われてる。絶対服従かぁ……いやぁ、安いね!!!
全部あげるぜ!! この島はきっとテラゴラムに通じてる!!! これを知りたくて、誰よりも知り尽くしたくて、ぼっちだったんだ!!
仲間? 友達? 恋人? 家族?
全部捨てた、全部。それほどまでに……テラゴラムを、エレモンを知りたかったから。
いざ!! 新たなる知識に!!!
「……まぁ、ワクチンとか、病気とかの最先端の医療もあるならいいかな」
「うん! 僕役に立つよ! 全部あげる! 可愛いから恋人にもなってあげる」
「……それは、いいです。お金は、くれです」
「あ、うん。生意気なショタだな……」
でもまぁ、テラゴラムについて知れるならいいか! いつか……僕は【テラゴラム】の謎にたどり着くんだ!!!!
これは生涯をかけてでも絶対に調べてやる!
「──あの、これがテラゴラムです、二体います」
僕の生涯の謎はショタ男子にあっさりと解決された。
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