第20話 陰に潜みし死神
下っ端の隊員は全員【イカファイター】で倒しておいた。正直いうと、俺達には全然敵わないからさ。
さーてと、モエの方はどうなっているか見に行ってこようー
「……」
「ふむ、こんなものですか」
モエが両手を地面について頭を地面に落としている。あ、これ負けたのか?
『負けたみたいよ。一体も倒せなかったみたいね』
あ、そうだったのか。しかし、随分と派手にやられたみたいだな。
「グレンの娘……なるほどこんなものですか。並のテイマー以上ですが、想像以下でしたね」
そう言うのはガイア帝国、【ガイア大将】ダルダ。彼は【ガイアソード】と言う名前のエレモン。巨大な剣の形状をしている。
それが宙に浮きながら大きく動き、原作主人公であるモエに刃を向けるような動きをした。
「あ、え、えと、どうするんですか……」
「おや、他の隊員から逃げてこれたのですね。どうするのかと言われたら、そりゃ殺しますが?」
あ、え、こ、殺すって……言ったか? 嘘だろ、これゲームの時なら対象年齢10歳くらいからだし……。
だけど、現実ならこう言うことなのかな? 邪魔するなら消す……ってことか。
「え、えと、な、なら、俺ともバーサスして、くれませんか?」
「……ふむ? 君と私が?」
「は、はい。お、俺が勝ったら貴方を処刑、します」
「はい?」
『ちょっと物騒じゃない! まぁ、処刑ならしてもいいと思うわ、そいつなら。なんだったら、全員してもいいわ』
物騒だな俺のエレモンは……ダルダは俺の処刑宣言に目をぱちくりさせている、こいつは何を言っているのか意味がわからないと言った表情だ。
「え、えっと、処刑をされたくなければその、モエの処刑を取り消して欲しいって言うか」
「ほう? なるほど処刑の権利を打ち消すために、私を倒して処刑の権利をとってから放棄すると言いたいわけですね」
「そ、そう、です」
「ふふ、勝ったならね」
「それまで、処刑は、待って、ください……、処刑の権利前借り、みたいな?」
自分で言ってたなんだけど、処刑の権利前借りってなんだぁ?
『処刑の権利の前借りってなによ』
クイーンが心の中にツッコミを入れてくれて助かった。自分でボケて自分で突っ込むほど寒いものはないからなぁ。
「では、私が勝ったら君の処刑の権利も貰えるのですね。さて、なら君も処刑してしまいましょうか」
「それは、考えなくていいです、みたいな? 勝つの、俺達だから、勝てないのに、勝った時のことを考えるのって、脳の無駄というか……」
「自信過剰ですね。しかも腹も立つ。他隊員から逃げてきただけなのによくいえますね」
「……あ、他の隊員なら全部倒しました……」
少しだけ、空気がピリッとした感じがする。でも、この間焼いたウインナーはパリッとしていた。
『そういうのいいから』
やはり心の中まで突っ込んでくれるクイーンの存在は希少。
「まさか、50人は居たはずですが?」
「えと、だから、全員、倒してます」
「……A班応答を……B班……C班は……。まさか、本当に?」
ダルダはエレフォンで電話をかけているようだが、電話が繋がるはずはない。
「あ、あの、全員に繋がらないと、思います。エレフォン全部、取り上げてまして」
袋の中に詰めておいた、ガイア帝国の隊員全員のエレフォン。それを床にぶちまけた。
「……うっそ」
モエはずっと下を向いていたが、現状はちゃんと認識していたようだ。
「すげぇ!!」
ガイド役の女の人は驚愕で声が大きい。
『当然ね』
クイーンはさも当然という感想。人の姿に化けてずっと、俺の裾を掴んでいるつまりはかわいい。
「──こんなテイマーが居るとは聞いてないのですがね。良いでしょう、勝負です」
「う、うん。えと、ハンデ欲しいですか?」
「いらないですよ。舐めてるガキ一人分からせるのに、そんなもんはね」
あ、俺って人のことを舐めているガキだったのか。自覚なかった。
というかどっちかと言うと謙遜している如何にも日本人って感じだと思っていたんだが。
「ガイアソード」
「イカファイター、行こう」
ガイアソードか、レベル30ちょっとだろう。ゲームの時とそれほど変わりない気がする。
地系、アースエレモン系だ。俺は水系、ウォーターエレモン系。相性、ダメージ倍率は等倍。
ただ、エレモンの質が違うだろ。
「ガイアソード。【ガイアブレイク】」
巨大な剣が、地面から溢れ出した土塊を取り込んでさらに巨大になった。それがイカファイターにぶつかりに行く。
質量では完全に負けている……と思うじゃん?
ガイド役もモエも全員が俺の勝ちを疑っている。だけど、そうじゃないんだよね。
【イカファイター】
このエレモンは実は【アクティブスキル】は一個しか持っていない。それは理由がある。
【パッシブスキル】
・覚えているアクティブスキルの数が、少ないほど攻撃力が上昇。最大攻撃力3倍。
これだ。それ故に敢えて少なくしている。
【アクティブスキル】
【イカパンチ・奥義】
・わざわざ説明をする必要はないだろう。威力は最強だ。単体性能なら【D】ランクのエレモンの中でイカファイターが1番強いかもしれない。
その証拠に武者マルと【イカファイター】は何度も戦っている。
だが、相性関係もあるだろうが武者マルは一度も勝てていない。
「【一番】」
「イカン!!」
赤いグローブをした触手一本が伸びた。しなる触手が鋼鉄のように一本の筋と化した。
それが、強大な大地の剣を打ち破る、打ち砕く。
「……マジか」
「だから、い、言ってます、勝てないって」
「一匹程度で勝ったと思わないほうがいいです。【ナイトナイト】!」
黒い兜、黒い鎧、全身鎧姿の騎士。剣を持っており、盾も持っている。【Cランク】、闇系、ダークエレモン系か。ナイトナイト、夜騎士って意味だったよね
「【ナイトナイト】、【ダークタックル】!!」
「【1番】」
イカパンチは【Dランクエレモン】の【アクティブスキルで】最強!!
黒い鎧を打ち破るのは、白き触手から繰り出されるパンチなのだ。
「……まさか、ナイトナイトが一撃で? 【ダークタックル】には防御を上げる効果もあると言うのにッ」
「え、えと、次で最後ですよね?」
「えぇ、そうですとも。ガイアキング!」
地系、アースエレモン系、【ガイアキング】。【Bランク】だ。全身が岩で構築されている全身2メートルの巨人。
目や口は存在しておらず、頭には岩で作られた王冠が載っている。だが、その王冠はハリボテだよ
「【1番】」
歯を食い縛れよ大地の王、イカのパンチはとんでもなく響くぞ。
「……あり得ない。バカないや、あり得るのか!? あり得るのですか! こ、このようなエレモンが存在するなど!! た、ただのイカファイターではないと言うのか!!」
「じ、実力が違いすぎましたのね……それに比べてワタクシは」
「す、すっげぇ!? なんなのショタくん!? 君テイマーとして優秀すぎでしょ!!」
ふむ、どうやら勝ってしまったな。まぁ、分かっていたんだけども。そんなことを考えていると、ガイア大将ダルダは肩を震わせながら何かを口走った。
「こ、こんなことは許されない……わ、我々の計画のノイズになることは確定でしょう……ふ、ふふ、大人を本気にさせましたね。これはそのお礼だ!!!」
バン
何か……煙くさいような、大きな音が聞こえたような。よく見るとガイア大将ダルダの手には【拳銃】が握られていた。
あれ、もしかして、撃たれた?
ふと、肌を触る……いや、撃たれてないな?
あれ? 銃口はこっちに向いているのに……
『やっぱり、アムダの影に【潜ませていたのは正解だったわね】」
「え?」
突如として突風が起きて俺は瞼を閉じてしまった。目を開けると、そこには【Gランク】エレモン。
【イクリプス・ファントム】
が立っていた。【Gランク】は上から数えて二番目、クイーン達【Lランク】の次にランクが高いエレモンだ。
これをまさか、俺の影に潜ませてたのか
「……」
「ありがとう。イクリプス」
「……」
骸骨のお面から微かに見える青い瞳、終始無言だがお礼は受け取ってもらえたと思う。
さて、どうするか。
「……なん、だ。それ、は……? え、エレモンなの、か?」
「なんですのッ、それは!!」
「やっべぇ!! 超怖いんですけど!!」
ガイア大将ダルダ、原作主人公モエ、ガイド役の女の人。3人に見られたけど、どうしようか、これ……
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