第19話 伝説の話
正直いうと現在、出来ることは限られている。金は尽きているし、果実を売るにも再び実るまで時間がかかる。
ならば、今やるべきことはなにか……
そう、旅だ。
一応だが、旅をすると言う口実で俺は家を飛び出している。だから、偶にはしないといけない気も……まぁ、しなくていいかと思うけど。
1番の理由は偶にはエレモンを外に出してあげたいと言うものだ。武者マルはよく出しているが他のエレモンは出してあげることが中々できない。
この世界では持っているエレモンは平均三体だし、俺は武者マルを持っていると最初に公言しているからだ。異様な数や種類エレモンを持っていると怪しまれる可能性がある。
ただ、行く場所を転々として、マスクを被りフードをかぶって見た目を隠せば、問題ないのではないかと最近考えている。
「よし、行くぞ!」
「イカン!!」
行かん!! と俺の言葉を否定しているわけではない。こいつはこう言う鳴き声なのである。
【イカファイター】
系統は水系、ウォーターエレモン系である。額に赤い鉢巻をしており、10本の足全て赤いグローブをしているエレモンだ。ランク【D】。
背丈はかなりあって、160センチはある。俊敏な動き、と言うより速攻のパンチが得意である。
イカファイターを連れて、どこかに行こう。
『待ちなさい! クイーンであるアタシを置いていくなんてあり得ないでしょう』
「あ、えと、でも……」
『人間の姿に化けるから問題ないわ』
やはりクイーンはついてきた。今日はテントで寝ていたから休ませてあげようと思っていたんだけども。
テレポートで移動をする! 着いたのは【
ここにきた理由の一つは人がとんでもなく多い事だ。すれ違う人が見た事ない人、一度すれ違った人は二度と会うことはない。だから、多少普段と違うエレモンを連れていてもばれない。
しかも、黒マスクしてジャージのフードを被っている。これならバレることはほぼない。と言うか、知り合いに会うことすらないだろう。
クイーンの人間姿だってバレることなどあり得ない。
クイーンにも俺のお下がりの黒ジャージを渡して、フードを被らせ黒マスクをさせている。
『へへ、アムダが着てたジャージ……ふふふ』
これで完全にバレることなく何事もなく、色んなエレモンを連れ回すことができる。今回はイカファイターだけども、次は別のもありだ。
さて、今回は最初に博物館でも行こうか。
「よーし、博物館に行こう!」
「イカン!!」
行かんと言っているが、ちゃんとイカファイターはついてくる。クイーンは俺の背中で服の裾を掴んでじっと黙ったまま着いてくる。
「おー、これが博物館ゲームでもあったな! なんか、どっかのイベントでガイア帝国に襲撃されて、占拠されるんだっけ」
「イカン!」
「確かにそれはいかん事態だ」
中に入ると受付のお姉さんが通してくれた。お金を払ってチケットをもらう。
「今回は伝承に伝わる【テラゴラム】に着いての展覧会になっております! 今サービス中でガイド役をつけることができますが、いかがしますか?」
「あ、えと、え、えと、一人で」
「そうですか! でも、この機会にぜひつけてください! どうですか! 私がやりますが!」
「え、ええ」
な、なんでこんなに押が強いのだろうか。
『ここでのガイドは新人の経験としてカウントされるらしいわ』
そ、そうなんだ、相変わらずクイーンの有益性がパねぇ。で、でも、普通にガイド役はいらない。
「どうですか!! 是非!!」
『この子供、押しに弱そうだから絶対にガイド役するって言ってるわよ』
あ、思い出した。この人、ゲームの時もイベントにいた人だ。ゲームでもガイド役を迫ってきて、『はい』と『いいえ』の選択肢を突きつける。
まぁ、『はい』を選ぶまで永遠と押し問答を続けるんだけども……
「あ、え、え、ええと。あの、は、はい」
「はーい! ガイド役任せてください! よっしゃ! それでは着いてきてください! 説明いたしますので」
うむ、無理やりでも聞かされるのか。ゲームだとテラゴラムの伝承について聞かされるんだよね。
「今回は【テラゴラム】と言われる伝承や古代の書物にしか記載されていない、【Lランク】エレモンの展覧会となっております」
「は、はい」
「テラゴラムは大地を創造する星の意志とも言われており、この地ノ国を最初に作ったのはテラゴラムとされています。テラゴラムにはライバルがおりまして、それが【ウミノゾア】アンモナイトのような形をしている巨大な海の化身です」
「は、はい」
両方持ってます……黙ってるけど
「この二体はとあるエレモンが星を作った後、別れた姿なのはご存知でしょうか?」
「スタードラゴ! です、よね」
「あ、はい。そうですね」
『あ、セリフ取られたって思ってるわよ、このガイド役』
あ、つい、言ってしまった。
「そう、スタードラゴ! 星を創造した彼は二つに分かれて、海と大地を作ったのでした! すごいですね! 御伽話と言われてますが、実はテラゴラムの存在を匂わす文献は多数あるのです!!」
「へ、へぇ」
「今回はあの天才【ラリラ博士】が関わっている展覧会なので、ゆっくり見ていきましょう!」
ラリラ博士って名前だけは知ってる。確か、ゲームだと学会を追放される人だったはずだ。
ガイド役から逃げることもできずに歩き続けていると、
「あら、イヴ? イブ様ではなくて!」
「あ、で、出た」
「出たとはなんですの! 人の顔を見て!」
原作主人公とも遭遇してしまった。うああぁっぁああああああ!! 居たのかぁああ!!
「もう! あれから全然会えませんの!」
「え、へへ、さーせん……」
「お知り合いですか?」
「はい、知り合いですの!」
「でしたら一緒にガイドを聞きませんか!」
「はい!」
俺何も言ってない……のに勝手に話が進んでしまった。モエは俺を見ると後ろにいる人に化けたクイーンを見て目を輝かせていた。
「か、可愛い!! 誰ですの!」
「あ、えと、い、妹」
「そうでしたのね! お名前は?」
「く、クイン」
「宜しくですわ! クイン様!」
クイーンはあんまり人と接するのが苦手だから、距離をとっているな。
「では、ガイドを続けますね」
「はいですわ! イヴ様、これが終わったら、あとでカフェでお茶でもしましょう?」
しないで、か、帰りたいです。なんか、次から次へと何か来てる気がするし……
「──我々はガイア帝国だ!!! 全員動くな!!!」
ま、まじか? 今日が襲撃してくる日なのか!? 全身が赤色の軍服を着た男女が大量、50人以上展覧会に乱入してきた。
「テラゴラムの資料は全て我々が頂いていく。抵抗は無駄だ、我々には【ガイア大将】が来ているからな!!」
「──ふむ、沢山のテイマーがいるな」
50人の中でも一際太った男性が一人真ん中に立っている。ゲームではガイア帝国の中でも【ネームドキャラ】だった一人。
【ガイア大将】ダルダ
「私達は平和的な交渉を望んでいます。テラゴラムの資料を全て頂ければ何もしません」
「何言ってんだ! いきなり出てきて!!」
「そうだそうだ!」
他のテイマー達が何か言ってるな……それを聞いたダルダは黒いエレフォンから【エレモン】を出した。
「ならば仕方ない。【ガイアソード】」
人間サイズの巨大な剣、それが現れて地面に刺さった。剣の真ん中には真っ赤な目が一つある。
「少し、脅してやりなさい。【ガイアロード】」
ガイアソードが放つ【ガイアロード】剣が宙に浮いて、一回転。その風圧で他のテイマー、それが保有するエレモンが全て吹き飛ばされた。
残っているのは俺と、モエだけだ。あとガイド役。
モエは姫マルが守っており、俺とガイド役はイカファイターが守ってくれたおかげで吹き飛ばされずに済んだ。
「ほう、少しは骨があるテイマーがいるようだ」
「貴方達なんてことをしますの!!」
「……おや、貴方は。なるほど最近我々に逆らっているテイマーですか」
そういえばゲームでは何度も戦うイベントがあったな。俺は知らんぷりしてたけど、ここに来るまでにモエは何度も主人公として戦っていたのだろう。
だから、【ガイア大将】ダルダが知ってるんだ。
「ふふふ、あのゴッドリーグテイマー【グレン】の娘ですか。どの程度か、見て差し上げましょう。他の隊員は【ラリラ博士】の資料などを全て回収しなさい」
「「「「「「は!!」」」」」」
ダルダだけが残って、他の隊員は散り散りになった。さて、モエとダルダが戦うらしい……
俺は……他の隊員を追ってボコボコにしておいた方がい、いいのかな?
あんまり、参入したくはないけども……
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