第14話 農家王
さて、エレ市場に店を出す前日になってきた。
「出す直前、ここでデカイチゴのおいしさを再度確認しておきたい」
『そうね。どこが美味しいのか、色々確認しておきたいわ』
「デカイチゴがどこが素晴らしいのか、店主側が知っておかないと問題だよな。そこで……色んな町の買っておきました!」
一応だが、ちゃんとした食べ比べは初めてだ。
他と比べてどの程度のおいしさなのかは非常に気になるところだ。俺のファームモンやガーディモンはレベルが120の個体がいる。彼等の力を使ってこの果物は完成した。
ゲームだとレベルが高いほど生産するスピードが上がるんだけど……。
「多分だけど、レベルの高さが育てた果物の旨みに直結する可能性もある」
『へぇ、そうなのね。確かに見た目からアンタの方が美味しそうね』
今現在、俺達のデカイチゴと他の農家が作ったデカイチゴを見比べている。
見た目的にも俺のデカイチゴの方が赤く水水しい感じがある。大きさも俺のイチゴの方が一回り大きい気がするな。
「ううむ、一口……こっちのも旨いな」
『これ、どこの農家なのよ』
「こっちのイチゴは結構有名なとこの農家らしい。一個300円」
『ふーん、高いわね。今回アンタの何円だっけ?』
「ファームモンとガーディモンで区分けして育てたのは一個100円、区分けせず全員で育てたのは70円かな」
『なるほどね……うん、確かに300円は高いけど、不味くはないわね』
クイーンは俺が買ってきた別のデカイチゴの食べている。確かに高いところだと一個300円、高いけど不味くはない。
他のスーパーとかだと120円とかそこら辺になる。
『……そう、アムダのエレモンが育てたのを食べさせて。区分けして育ててない方のやつ』
「ほい」
『うーま! 旨いわねぇ!! ファームモンは苗まで、苗から先はガーディモンで分けた方のも頂戴!』
「はいはい」
『これ旨いわ! すごすぎね! いやぁ、旨いわねぇ。ふふクイーンであるアタシが食べるに相応しい果実よ』
これ、育つ果物の美味しさって、やっぱりエレモンのレベルも関係があるのだろうか。ゲームだと、育てるエレモンによって味が変わる……みたいな設定はあったけど、設定だけだ。
なんと言うか【純度5】の【デカイチゴ】みたいな表示がされる。【純度1】が低くて、【純度5】が一番高い。今はゲームじゃないから、【純度】がどの程度高いのか低いのかわからん。
ただ、俺が知っているのはゲームでの設定だけ。実際にここまで美味しさが変わるのか……
それに、以前ファームモンとかも言ってたらしい。種の品質によって、土の質によってもまだまだ上の味を出せるのだ。
『ファームモンはこれ【純度】で表すなら【5】って言ってたわよ。ただ、土とか種子とか拘ればもっと上に【6】にも出来るかもってね』
「【純度6】なんてゲームになかったなぁ……流石に土や種子に拘るなんてしたことなかったし……」
【純度6】は聞いたことないし。知らないなぁ。ゲーム以上の概念を持ち出すことが現実では可能ってことか。
「まぁ、そこまで拘る必要があるのかと考えるとまた話が違う気もするなぁ。現時点の【5】でもとんでもなく美味しいからな!!! 俺も一口……くっ、旨いな。他の店には悪いが俺のが圧倒的にダントツで一番旨い!!」
『……そう言えば【サクマ】って人間にしか食べさせたことがないんじゃなかったかしら? 他の人間の意見も聞いた方がいいんじゃない?』
「そうだな、絶対美味しいと言うだろうけど……母親に食べさせてみるか」
なんだかんだで感謝してるしな。
「島から脱出!!」
ホーリーマジックモンにテレポートで家に連れて行ってもらい、家の前にやってきた。
家の前には家札があって、家名が描かれている。
この世界にも家名が存在している。姓が先ではないが、異世界貴族みたいに名前の後に姓が来る。
──俺なら、アムダ・エレデュンって名前だ。
「ママー」
「あら、また旅から帰ってきたのね。どうしたの?」
なんだかんだで旅に出る!!! と高らかに宣言したが結構な頻度で帰宅しているから母親からは帰ってきても驚かれない。
俺はそんな母にデカイチゴを十個ほど袋詰めしたのを渡した。
「あら、どっかのお土産?」
「いや、俺が育てた」
「えぇ!? た、旅してるんじゃないの!? なんで農家みたいなことしてるの!?」
「間違えた。【俺達】が育てた!!」
「むっしゃ!!」
武者マルが俺の横で高らかに吠えた。すると母親は頭を抱えた様子だった。
「旅って、エレモンを鍛えたり、エレメンタル・コード集めたり、仲間やライバルと出会うが普通なんじゃ……」
「それはもう、やったことあるし、ゲームで」
「意味わからないこと言わないで! ま、まぁ、デカイチゴは私もお父さんも好きだから良いけども……」
そう言って母親は台所で果実を切っている。お皿に適当に盛り付けするとテーブルに置いて一口食べた。
「えぇ!? 旨い!? えぇ!? いや、ええ!?」
「美味しいだろ」
「えぇ!? え、えぇ!? 旅に出たのに農家に!? えぇ!? の、農家に!? 一流の農家に!? ちょ、お父さーん! 農家になって帰ってきたきちゃったんだけど!?」
「ママ、落ち着いて。俺はテイマーだよ」
母親が大声で父親を呼ぶと彼もリビングにやってきた。
「どうした!」
「これ食べて! アムダが、私達の子供が作ったデカイチゴ!」
「アムダが作ったのか? お前旅してたんじゃ……」
「そうなのよ! 私もびっくりちゃって! 凄く美味しいし!」
「──騒ぎすぎた。旅しながら、片手間に作ったデカイチゴがそんな騒ぐほど美味しいわけがないだろ」
父親はそんなことを言いながら、一口サイズに切られたデカイチゴを手に取った。
「あなた! 食べてみて! 凄く美味しいわ!」
「そんな騒ぐほどか? 瑞々しい見た目だが……俺は果実には厳しいぞ」
「あなた! 前フリが長いのね!!」
「流石にそんな美味しいわけじゃないだろう。母さんがどうしてそんなに騒ぐのか、わからんな」
「前フリが長いわね! 美味しいって言うまでの前フリが長いわね!!」
『こんなのが美味しいだと? 子供が作った果実だぞ?』みたいな、全くもって馬鹿馬鹿しいっとかなり長いこと言いながら、父親はデカイチゴを食べた。
「えぇ!? えぇ!? 農家!? えぇ!?」
「あなた! 全く同じ反応ね!」
「お前、アムダ! 旅してたんだよね!? なに!? 農家してるの!!!? てか、美味しい! 旨いけど!! テイマーとして凄くなって欲しかったのに! でも農家でも良いな! 才能あるよ! 農家の!!」
「私もそう思ったわ!」
「母さん、これ凄く美味しいぞ! 知ってたか? アムダは農家の才能があるぞ!」
「私はさっきから言ってたわ!! 美味しすぎて記憶が飛んでるみたいだけど大丈夫!?」
すっごい騒いでる。うむ、我が家は一般家庭だから。一般家庭に美味しいと思われたのが分かったのが大きいな。
正直に言えば、原作主人公【モエ】やその父親【グレン】に美味しいと言われるよりも、俺の両親から褒めてもらえる方が嬉しい。
「いやー、俺達の息子が農家の才能があるとはな。俺も昔は、麦わら帽子かぶって農家王に俺はなるって! 言ってたな!」
「まさか、私達の息子に才能があるとは。私も昔は麦わら帽子かぶって農家女王に私はなるって言ってわ!!」
モエやグレンはお金持ちの上流階級の人間だ。上流階級は【一般階級】、【凡家庭】よりも数が少ないからそう言われるのだ。
──つまり、一般家庭の方が数が多いなら、そっちの人の舌に合う方が大事だし、沢山売れる!!
エレ市場は安さが売り、デカイチゴも高く売るのもありだけど……。それはある程度信頼などを得てから【ブランド品】として売るべきだ。
信頼を得るには一般家庭の沢山の人に買ってもらう必要があるだろうしな。口コミは内容もだが、数も大事だ。
今回俺が売りたい層は【一般階級】の人間だ。だから、嬉しい。一般の人の舌に合っていることがわかった。
「いや、やるじゃん。アムダ。旅に出した親として複雑な気持ちだけど……だとしても農家は向いてるのは嬉しい! 農家王になれ!!」
「アムダ、美味しかったわ。てっきり、旅してると思ってたからびっくりだけど……でも、農家が向いてるね! 才能があるのは素晴らしいことよ! 麦わら帽子は持ってる? 買ってあげるわ」
ありゃ、両親に褒められるのも嬉しいもんだ。ふーむ、前世ではこんなに褒められたことなかった。ほほー、嬉しいもだねぇ
「麦わら帽子は欲しいな。でも、一緒に作ってる仲間が居るから、仲間の分も欲しい。パパとママ、融資して!」
「いいぞ! 母さんいいよな!」
「勿論よ! 何人くらいいるの?」
「人っていうか……まぁ、ファームモンとかガーディモンとか他にも居るし。取り敢えず200個くらい」
植物系にも色々居るけど、農家として活動するのは大体これくらいだろう。
「えぇ!? アムダ、お前もう農家王になってるよ!!!」
「娘なら農家女王だったわね!」
農家王ってなんだろう……知らない単語だ。
なんやかんやあり、デカイチゴを市場に売り出す日がやってくる。よっしゃ! 沢山売ってやるぜ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます