第12話 VS グレン

エレ市場の責任者である【サクマ】の元で売店の交渉をしていると、主人公の父親であるグレンがやってきた。


 彼は俺の武者マルを見て、じっと黙っている。




「……似ているな。俺の【極マル】に……。あいつがまだ【武者マル】だった頃に」

「むしゃ!」



 【極マル】は武者マルのオスの最終進化だ。そんでもって、その極マルの子供である武者マルを主人公に与える。俺は男版主人公で武者マルをゲームでもらった。女版主人公だとメス、男版だとオスをもらえる。



 モエは女の子だから、武者マルはメスのはずだ。




「……娘に武者マルを与えた。メスだが……娘と交換でもしたか……?」

「む、娘が誰かは知らない、ですけど……お、俺のはオスです……」

「……オスか。そうか、俺の極マルに似てると思ったが……子じゃないか」

「へ、へへ、違いますね。へへへ」




 まぁ、確かに似てるはずだよね。俺の武者マルもゲームでグレンからもらってるし。パラレルワールドの武者マルとも言えるしね。


 俺がいることでパラドックスが生まれている……!?




「……そうか、もしかしてお前が噂のイヴか」

「あ、うう、噂ですか?」

「娘が言っていた。武者マルを連れた男のテイマーと知り合ったと……」




 この間、偽名でイヴとモエに名乗ったけどその嘘がバレていないようだ。本当の名前はアムダだけどね。


 あんまり目をつけられたくないから適当に名前を言ったけど……や、やばい。目の前のエレ市場の責任者【サクマ】にはアムダと名乗ってしまった。



 こ、これ、怪しまれないかな?



「ほほほ、色々と事情があるからのぉ、人にはのぉ」




 うぁぁぁあ!! こっちの事情を何か察してくれている表情!?


 お、おい! このおじいちゃん気が利きすぎだろ! ありがとう! イケおじ過ぎて俺も60年後にはこうなりたいって思っちゃったヨォ!!




「……娘が言っていた。俺やホムラよりも強いかもしれないと」

「あ、え、えと、そ、それは……」

「……流石にそんなことはないとは思うが」

「いや、お、俺達の方が強いのは、ほ、本当です」

『あ、アンタ! 何言ってるのよ! そこは適当に流しておけばいいのに!!』



 く、クイーンはそういうけども……


 だ、だって、俺達は強いし。俺、お前達の事だけは嘘つきたくない!!



『そこは上手い事やっていくようにするの! まぁ、まだ子供だししょうがないとは思うけど……』



 う、うぅ、つい俺のエレモンは自慢したくなってしまうんだよ。あんまり目立たないようにしていこうと決めてるんだけど……



 で、でもぉ



『嬉しいけど……アンタ上手い事世を渡って行く術を覚えないとね。まぁ、前世から病室に居たのは知ってるし、この世界でもテイマーの資格勉強とかエレモンばっかで人付き合いを学んでないから、しょうがないと言えばしょうがないけど。アンタは王だし』




 王と言えるほどの器ないけど、でも、俺がテイマーならお前達が誇りだから、嘘はなおさら言えないっていうか!!




「……さっきから一人で百面相しているがどうかしたか?」

「あ、なんでもないでしゅ!」




 テレパシーの会話だから、周りには聞こえていないのか! うっかりしていた! エレモンのことだとつい、言ってしまうんだよな



「……この後、時間はあるのか」

「あ、え、えと、い、忙しくて」

「……そうか、時間はとらせん。一戦交えないか」

「え、えと」



 こ、ここで戦ったりしたら面倒になるよね。うん、これはやめておくべきことだ。



『そうよ、ダメよ、受けてはダメ』

「……自分のエレモンに自信がないから断っても構わんが」

「やってやるわ!! 自信しかない!! 俺のエレモン舐めないで!!」

『ばかぁああああ!!!』



 あ、つ、つい……




「そうか、俺は【極マル】を出そう。レベルは70だ」

「お、俺は【武者マル】」

「ほほほ、面白いことになっておるのぉ、審判はわしに任せてもらおうかの。市場から少し離れた場所にバーサスができる広場ある。どれ、ついてくるといい」




 サクマはワクワクしているご様子。う、うわぁ。こんな事態になってしまって……わざと負けるのも申し訳ないし。



『……はぁ、もう、それなら負けないでしょうね』




 勝てるな。




 とは言え先ずは相手のステータスを考えなくては。【極マル】レベル70か。


 ステータスは


【ステータス】

レベル70

「攻撃」340

「防御」342

「魔素」340

「俊敏」340

「生命」342


【パッシブスキル】

【極み剣士】

・【剣】と名前の入るアクティブスキル使用時、威力が2倍。ただし、使用魔素も2倍。

【装備】

・装備、専用装備【伝家ネーコ宝刀】全ステータス120プラス



 装備を持っているのが分かる。本来【極マル】は一本しか刀を持っていない。しかし、もう一本を持っておりそれには見覚えがある。


 それが【装備】だ。



 エレモンバーサスにおいて、エレモンには一つだけ【装備】を持たせることができる。ステータス向上、アクティブスキルの強化、色々と効果がある。細かいが装備にもレベルとかがあり、【厳選】をするのがネット対戦では必要だ。


 しかし、グレンはそこまではしていない。いや、できないのだろう。【装備】に振られているステータスは主人公以外に確認方法がなく、またそれができるようになるのもクリア後に宇宙に行く必要があるからだ。



 ゲームだと


 ──【伝家ネーコ宝刀】『レベル60』全ステータス120プラス



 だった。レベルが装備にも存在しているのはグレンも知らない。ただ、油断できない、アドバンテージがあるとしてもだ。





「いけ、武者マル。もう何度も俺達は極マルを倒したことがあるだろう?」

「むっしゃ!」






 広場に着くと、グレンは【極マル】をエレフォンより放出した。150センチ、黒と金の着物を着て、猫じゃらしの刀を持っている。金色の鯱鉾の兜をかぶっている。




「きわ……」

「むっしゃ!!」

「きわ、きわ……」



 きわと鳴きながら、武者マルを見てなんかを感じているのだろうか。まぁ、あの極マルからしたらパラレルワールドの息子みたいなもんだからね。




「極マル。行くぞ……」

「武者マル。勝てるぞ」




 互いに最初は動かない。グレンからすると先手は譲ると言いたいのかもしれない。さて、



 先ずはステータスの確認をしよう。







【ステータス】

レベル120

「攻撃」711

「防御」701

「魔素」704

「俊敏」723

「生命」713

【隠しステータス】

オール+99


【パッシブスキル】

・【奥義・サムニャイスピリット】

・火系の技を使う時、その技の威力を2倍にする




 装備は今はしていないが、勝てる。持っているアクティブスキルは……



【アクティブスキル】

「技名」【奥義・火の粉斬り】

「威力」300

「範囲」単体

「消費魔素」150

「追加効果」50%の確率で火傷にする

「命中率」90

「備考」

「系統」火

「覚えるレベル」1


「技名」【奥義・秘剣・刀返し】

「威力」0

「範囲」単体

「消費魔素」90

「追加効果」

「命中率」90

「備考」

・相手が【剣】と名のつくアクティブスキルを使用の際に、その攻撃を無効化。更に相手の攻撃力とその使用スキルの威力の合計値を1.5倍として相手にダメージとして与える。この時、相手の防御はダメージ計算に考慮されない。

・また、系統の相性もダメージとして考慮されるものとする。追加効果なども返ってくる

・防御分は引いてダメージを与える。相性もあり、植物系であれば二倍、水なら二分の一となる

「系統」火

「覚えるレベル」60


【アクティブスキル】

「技名」【奥義・秘剣・閃光】

「威力」150

「範囲」単体

「消費魔素」100

「追加効果」

「命中率」80

「備考」使用時、一度だけ俊敏がプラス150される。

「系統」火

「覚えるレベル」70


【アクティブスキル】

「技名」【奥義・剣の戦場】

「威力」0

「範囲」単体

「消費魔素」30

「追加効果」

「命中率」

「備考」5ターンの間、自分のエレモンは剣と名のつくアクティブスキルの威力を2倍にする。また【剣】の名前のつく消費魔素を半分にする。

「系統」火

「覚えるレベル」99






 これだ。正直、ゴリ押しでも問題はないけど、問題は【奥義・秘剣・刀返し】だ。



・相手が【剣】と名のつくアクティブスキルを使用の際に、その攻撃を無効化。更に相手の攻撃力とその使用スキルの威力の合計値を1.5倍として相手にダメージとして与える。この時、相手の防御はダメージ計算に考慮されない。

・また、系統の相性もダメージとして考慮されるものとする。追加効果なども返ってくる

・防御分は引いてダメージを与える。相性もあり、植物系であれば二倍、水なら二分の一となる




 ──相手も【秘剣・刀返し】、を持っている。【奥義】ではないが効果は大体同じだ。





 名前に【剣】が入るアクティブスキルを使うとカウンターを喰らう可能性がある。ならばどうするか……






「……武者マル、【一番】。様子見だ」

「むしゃ!」



【一番】は【奥義・火の粉斬り】の指示、武者マルが炎を纏わせた刀で切り掛かる。しかし、それを極マルは避けた。避けたのと同時に猫じゃらしの刀は地面に微かに触れ、その場所にクレーターと業火を撒き散らす。




「……これは……一筋縄ではいかなそうだ」

「きわ……」





 うむ、俊敏では優っていたはずだ。それにグレンも回避の指示を出していたわけじゃない。



 だが、避けた。こちらも様子見の指示ではあったけど、倒せるなら倒してしまっても問題はないと考えていた。



 ゲームならこれで終わっていたはずだろうけども……



「きわっ……!」

「むしゃ!」






 武者マルも様子見のアクティブスキルだったのだろう。避けられてもさほど焦っていない。



 しかし、よく避けたな……




『アムダ、どうやら極マルは武者マルの刀の振り方から予見して避けたらしいわ』

 


 へぇ、そんなこともできるのか。



『普通は無理ね。多分、アムダの武者マルが、グレンの極マルが武者マルだった時と似てるからでしょ。鏡見てるのと一緒で予想できたんでしょうね。一応パラレルワールドの親子なんだから、似てても不思議じゃないし』



 そ、そんなこともあるのか。パラレルワールドの息子だから、自分と似てて、剣の振り方も似てるから、予測して避けられた……ぱ、パラドックス過ぎて訳が分からない。



 まぁ、いい。



 どっちにしろ、【奥義・火の粉斬り】でゴリ押しが正しい判断だろう。避けられなくなるまで使い続ける……と言いたいけど、魔素が足りなくなる。


 かと言って他のアクティブスキルは全て名前に【剣】が入ってる。そうしたら、



【アクティブスキル】

「技名」秘剣・刀返し

「威力」0

「範囲」単体

「消費魔素」60

「追加効果」

「命中率」90

「備考」相手が【剣】と名のつくアクティブスキルを使用の際に、その攻撃を無効化。更に相手の攻撃力とその使用スキルの威力の合計値を相手にダメージとして与える。この時、相手の防御はダメージ計算に考慮される。また、系統の相性もダメージとして考慮されるものとする。追加効果なども返ってくる

(防御分は引いてダメージを与える。相性もあり、植物系であれば二倍、水なら二分の一となる)

「系統」火

「覚えるレベル」60




 これが返ってくる……俺の武者マルとは違い【奥義・秘剣・刀返し】に育っていないが効果はほぼ同じだ。



 下手に使ってカウンターを喰らうのは嫌だな。



 【秘剣・刀返し】を持っている武者マルや極マルだとこの読み合いが面白い。




 ──【剣】の名前が入っていると積極的に生命を削れる。




 ──だけど、【秘剣・刀返し】でカウンターを喰らうから使わないようにした方がいいのか?




 ──別のアクティブスキルで地道に削るか




 ──それともこちらが【カウンター】を狙うか。






「……極マルまだ、動かんぞ」

「きわ……」






 多分、グレンは四つあるアクティブスキル構成を、一つ以外は全部秘剣で埋めていたはずだ。


 その一個で地道に削りにくるかと思ったけど……それでは意味ないと思ったんだろう。俺の武者マルの先程のスキルよりも格段に威力が劣るから!!



 それに避けられる可能性があるから、下手に使って【刀返し】と使うのに魔素が足りなくなったら元も子もない。そうしたら俺の武者マル【秘剣】の餌食だしね。





「むっしゃ!」

「……武者マル! 攻めるぞ! この勝負!!」




 

 このままジリ貧で勝つこともできるだろう。アクティブスキルを使用しない【攻撃】の連打、秘剣ではないスキルを効果的に使っていけば……




 しかし、それは雑魚の思考だろう!!!!



 折角、バーサスをしているのだ。この世界で……ただ勝ちに行くのはテイマーとしての器が知れるというものだ。




 俺のエレモンは世界一。それで普通に勝利しても当たり前なのだ





「【四番】」

「むっしゃ!」



【奥義・剣の戦場】。【剣】の名前のアクティブスキル威力を倍にして消費魔素を二分の一にする。




武者マルの周りに多数の炎の剣が降りてくる。それが円形のように落ちると、リングのように互いを逃げられないように包む。




「……見たことないスキルだな」

「ほほほ、面白い若人じゃ」

「きわ……」




──ここで敢えて【秘剣】を使う!!!




「【三番】」

「むしゃ……」




【奥義・秘剣・閃光】武者マルの最速のアクティブスキルだ。


紅く光り、抜刀術のように武者マル刀を抜いた。そのまま閃光のように極マルに突進する。


武者マルに対して、極マルも刀に手を置いていた。




「極マル……【秘剣・刀返し】」

「きわっ……!」




 俺は指示を番号で言ったがこちらの使用したスキルをすぐさま、分析しカウンターを仕掛けるグレンの実力の高さが窺える。



 武者マルの発光したエフェクトとかで判断したのか……?



 武者マルの刀に合わせるように極マルが刀を向ける。猫じゃらしの刀身が互いに交差した際、武者マルのエネルギーを全て極マルの刀が吸収した!!



 武者マルのアクティブスキル【奥義・秘剣・閃光】はここで終了する。しかし、極マルの【秘剣・刀返し】は継続をしており、ここからカウンターに入る。




「きわっ!!」




 一回転をし、武者マルに刀が降りかかる。だが、それに対し……




「【二番】!!」

「──むしゃ」




俺達が選択するのは……【奥義・秘剣・刀返し】!!



カウンターされた攻撃を、カウンターで返す!!



ゲームではあり得なかったことだ。ターン制コマンドバトル。一度選んだ選択肢に対してフィードバックがあるゲーム。


要するにじゃんけんなのだ。


一度に出せるのは一つだけ。だから、アクティブスキルを出して、それに対してカウンター。そこまでしかゲームではあり得ない。


ただ、現実であるならばカウンターに対して、カウンターをもう一度する。じゃんけんを強制的にもう一度出すことも可能になるだろう。




『一か八かの賭けなのね』



いや、俺の武者マルならできそうな気がしたんだ!! 無法で無茶苦茶なことがな!!



 極マルの【秘剣・刀返し】に対して、【奥義・秘剣・刀返し】を行う。光輝く刀身が武者マルの刀と交差すると極マルの刀は輝きを失う。


 この時点で相手のスキルは効果を……失っている!!



 尚、武者マルのスキルは続いている





「……これほどかッ」




 グレンは負けを悟ったように呟いていた。極マルに武者マルのスキルが突き刺さり、数メートル吹き飛ばす。




「ふむ、勝負あったの。グレンもこの結果に異論あるまい」

「……あぁ、ないな。極マル、休んでくれ」




 エレフォンに格納された極マル。勝負が終わるとグレンはこちらに歩み寄ってきた。



「あ、えと、お、お疲れ様でした」

「……あぁ。名前はイヴか……随分と強いな。駆け出しか?」

「……か、かけか、駆け出しみたいな? あ、えと、は、はい」

「……俺は強かったか」

「ま、まだまだ強くなれるって思います!」




 確かに強いんだろうけど、まだまだって感じかな! 俺達の方が強いのは間違いないね!!




「ほほほ、面白い若人じゃ。ほれ、市場の許可証を後で店に受け取りに来るといい。わしは先に返っておるでの」




 おお! あとでもらいに行こう!




「……バーサスで負けたからな。小遣いをやろう。エレフォンを出せ」

「あ、ありがとうございます!」

「……よし。俺は帰る……娘もよろしく頼む。何かあれば力を貸してくれ」

「あ、えと、はい」




 グレンはそれだけ言うと去っていった。



 う、うむ、面倒にならなくてよかったのか?


 あ、勝った賞金10万円……ゲームでも勝った時10万貰ったけど……。さすがはゴッドリーグのテイマー。


 こんなのすんなりあげれるのか……帰りに種子を買っていこうかな




『アムダ。アタシに王冠買ってよ! クイーンだし! さっきいい感じのを見つけたの!!』

「むしゃ!」

『武者マルはカッコいい刀が欲しいって! さっきいいの見つけたって!』

「よーし! お前達のためなら買っちゃうぞ!!」






 は!? あっさり貢いでしまう!? こ、これがエレモンの可愛さか!?
















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