第11話 エレ市場

 大量のデカイチゴを仕入れることができたのだが、それを全て消費するのではなく、売買することでお金を手に入れることが出来るのではないか俺は考えた。


 そこでゲームではとあるイベントがあったのを思い出した!!



【エレ市場】



 これはエレモンに使う道具、装備、秘伝書といったものを売っている場所。ここには勿論、果物も売られていた。


 ゲームでも果物は【エレスイーツ】に変えてエレモンに食べさせることで様々な効果を発現できた為、必要だった。


 故にゲーム内でも商人が売っていたのだ。


 その売っている場所が【エレ市場】。この世界にも存在自体があるのは【エレネット】で確認済みだ。



「むっしゃ!」

「昔、ゲームでもエレ市場はよく使ってたな。これゲーム本体時間で朝しか開いていないから……ゲームの時間ずらして使ってたわ」

「むっしゃ!」

「流石にこの世界でそんなことはできんけど」



 武者マルは俺の周りを回っている。朝から随分と機嫌がいいようだ。



「武者マル、嬉しそうだな。もしかして、俺と一緒にエレ市場の視察に行くのが楽しみなのか?」

「むっしゃ!!」

「俺もだ!! うぉぉぉ! 何か美味しいのがあったら一緒に食べようなぁ!」

「むしゃ!」

『ちょっと待ちなさい。クイーンであるアタシを置いておこうとするなんて……どう言うつもり?』




 はっ!? 気づくと頭の上にクイーンが乗っている……だと!?

 


『クイーンであるアタシを置いていくなんて……どういうつもり? 王としてどうなのその行動は』

「寝てたし、起こすのも悪いかなって……」

『起きるわよ! アンタとエレ市場行けるなら! てか起こしなさいよ! ギリギリで起きたのよ! ちょっと目を開けたらアムダ居なくて焦ったのよ!』

「む、武者マルは何も言わずに起きてたし……」

『む、武者マルとアタシ、どっちが大事なの!?』



 いや、両方大事だけど……。武者マルもまぁまぁ、みたいな感じで宥めてる。


『武者マルはいいわよね! 最初から一緒だし! アタシなんてクリア後の終盤からなんだから!』

「むっしゃ!」

「なんていってるの? 武者マルは」

『最初から一緒だなんて特別感あって嬉しいみたいな感じね! 喧嘩売ってるの!【Lランク】エレモンの強さ見せてやるわよ!?』



 あぁ、朝から騒がしい。でも、エレモンと一緒に騒ぐだなんて病室でずっと寝ていた頃とは考えられないから嬉しいな!!


 もっと騒ぎたいな!!




「でも、クイーンはレアのエレモンだから、連れてけないよ。だって、バレたら大騒ぎだし……」

【ふふ、忘れたのかしら? クイーンフォックス、アタシには変化能力が備わっていることを!】



 あ! フレーバーテキストに乗ってた! クイーンフォックスは変化をすることが出来るって! ゲームだと無理だったけど現実だとこんな事もできるか!




【ふふどう? 話すことは出来ないけど人間の女の子に化けてみたわ!】

「おお! 凄いな!」



 金髪に蒼瞳、大体7歳くらいの女の子に早変わりだ。服は黒のジャージ、俺と一緒である。



「そのジャージどうしたの?」

【アンタの部屋から持ってきたの、どう? 似合ってるでしょ! 王であるアンタが着てるジャージなんだから、クイーンであるアタシに似合わない訳ないわ】

「似合ってる! でも、やっぱり普段のクイーンフォックスの方が俺は好きだよ!」

【分かってるじゃない! こっちよりも狐姿の方が可愛いんだから!!】



 うむ、人間の方も可愛い女の子ではあるけどね。本人も狐の方の姿が気に入ってるようだ。




「それに人間の姿でも話せないんだよね?」

【そうね。テレパシーはできるけど……まぁ、アンタも口下手な訳だし、妹って設定にしておけば無口でもおかしくないでしょ】

「なるほどね」

【ほら! 行くわよ! エレ市場は朝限定なんだから! 島を発展させるにもちゃんと調査しなくちゃ!!】



 ノリ気だ……そ、相当行きたかったんだ。いや、これくらいの勢いが大事なのかもしれない!!



 俺はテイマーなんだ! 俺が発展させて、沢山盛り上げてエレモンを率いなければ!!!




「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ファイトぉぉぉぉ!! エレモン一発ーーー!!!」

『おもんないわね』

「むっしゃ!」

『え? 武者マルはこんなのが好きなの? 面白いって?』

「流石武者マル! 俺のことをそういってくれるお前は大好きだよ!」

『あ、アタシも面白いって思ってたんだけど!』



 やはり武者マル。一番長いこと俺と一緒に居ただけはある。俺のセンスをわかってくれるなんて……


「むっしゃ!」

「武者マル最高!」

『あ、アタシもめっちゃ面白くてセンスあるって思ってたんだから!!』




 そんなこんなでエレ市場にテレポートで向かった。ホーリーマジックモンにはいつも転移でもお世話になっている。



「えっと、手を繋ぐか。妹だもんね」

『あ、うん』

「むっしゃ!」



 武者マルが先陣を切るように歩き、俺がクイーンを連れて後を歩く。



 エレ市場は朝だが活気がある。採れたての果物とか、特別な道具とか色々売られてる。




「ううむ、売店の人は皆んなそれなりの年だな」

『そりゃそうよ。子供で果物育てたり、装備沢山持ってたりするわけないじゃない』

「うん、確かに」

「──そこの坊主! 朝採れたての魚あるけど食ってかないか!」

「あ、え、えと、だだだ、大丈夫、でしゅ」

「そうかい!じゃあ嬢ちゃんはどうだ!」

『…………』

「あ、こ、この子も大丈夫で……」



 あぁ、急に話しかけられてびっくりした。



『王であるアンタがあんなのにビビるんじゃないわよ』



 で、でも、やっぱり人間と話すのは緊張するし。やはり人は緊張する。だ、だが、こんなことで負けるわけにはいかない!!



 チラチラと辺りを見渡しながら市場を調査し続ける。うーむ、ゲームであった時の店の配置が一緒だ。果物とか道具とかこんな順番で売られていた……




「あ、え、えと、その肉串二つ……」

「はいー! まいど! 後ろの子は妹かい?」

「そ、そうです」

「ハハハ! 坊主の背中に引っ付いて可愛いじゃないか

!! 仲がいい証拠だ」

「あ、ありがとご、じじゃいます!」



 や、やべ噛んだ……。しかし、クイーンは他の人間が苦手なのかズッと背中に隠れて誰とも目を合わせようとしていない。



「あ、これ、お勘定」

「あいよ! これおつりだ!」




 金銭は日本と似ている。【円】と言う単位だし、効果や札も同じだ。強いて言うなら、お札の人物が1000円札は人ではなく【スタードラゴ】と言うエレモンになっている。


 5000円札と10000円札もそれぞれエレモン、5000円は【テラゴラム】、10000円は【ウミノゾア】が書かれてる。



 どれも【Lランク】のエレモンなのだが全て過去の伝説なのだ。現存はしないと今の所はされているので、遺跡の壁画をもとに絵が描かれたらしい。


 まぁ、全部俺は仲間に居るけど……



 【テラゴラム】は大地を創造したとされて、【ウミノゾア】は海の母と言われてて、【スタードラゴ】はこの星の原点と言われてる。


 流石はLランクスケール感が段違いというか……まぁ、そのうち星座をモチーフにしたエレモンとかも次回作で出てきたり、神や悪魔、天使とかモチーフになったり、スケールもインフレしたりするけども。


 だとしても、大地と海。それを持ち合わせる星そのものがエレモンであるのは中々だ。そりゃ壁画にも残って伝説になるわな。




「はい! クイーンも武者マルも食べて!」

『あら、嬉しい。素敵なエスコートね、流石は王ね。ありがとう』

「むっしゃ!」




 クイーンと武者マルに肉串をあげた。あげるとすぐさまクイーンは串をこっちに向けるし、武者マルは口に串を咥えながらこっちに向ける。



『王が先に食べるべきってアタシは思うわ! 武者マルは単純に分けてあげるってスタンスらしいけど』



 な、なんて嬉しい! こいつら、タラシだろ! 惚れてしまうだろぉ!!



「あ、ありがとうございます!」

『王なんだから、そんな軽く頭下げないの! 他の人間とかに舐められるわ! それにこれは元はアンタが買ったのでしょう!』

「むしゃむしゃー」




 肉串は美味しかった。さて、偵察の続きになるが……


「えっと、果物とか」

『アムダ、大体相場は分かったわ。売る場所を確保した方がいいんじゃない?』

「だね!」




 とは言ってもゲームだと売買は出来たがあくまで市場に来たプレイヤーとしてだ。


 売る側で店としてやってた訳じゃない。プレイヤーとしての売値だとどうしても安くなってしまう!


 ファームモン、ガーディモン、武者マルも沢山手伝ってくれたデカイチゴを安値で売るわけにはいかない!!


 少しでも高く売らなければ……これはテイマーとしての義務だぜ!!




「……何かないか……あ!」

『何かあったの?』

「聞けばいいんだ!」

『ん?』

「むしゃ?」



 売店してる人もどうやったらお店を出せるのか、聞いてみればいいじゃないか!


 俺もお店側になればいいじゃない!



 さっき買った肉串屋さんに聞いてみよう




『アンタ、話すの苦手なのに』

「で、でも俺がやるよ!」

『……ふふ、かっこいいじゃない。流石は王ね!』

「むっしゃ!」




 よ、よぉし、先ずは売店のおっちゃんに話しかけるぞ!!



「あ、あの、お、お肉美味しかったです」

「おお、そうかい! ありがとうな!」

「あ、えと、お、俺も、店、出したくて」

「店? 子供なのにか? まぁ、出したいならこの市場の責任者である【サクマ】さんに頼べばいけるぞ。ただ、ここでの売り上げの一割を渡すようだったり、一定以下の売り上げだと場所を剥奪されたりはするがな」



 な、なるほど。一応、売り上げの一部を上げたりしないといけないのか。



 それにしても【サクマ】って名前はゲームでも居たな。確かに市場の責任者として説明があったし、自身でも秘伝書とかを売っていたな。





「どこにサクマさんが居るのか、分かるか?」

「は、はい」

「……ほう、知ってんのか」

「お、おす!」



 確か、特殊な場所に居るらしい。隠れ名店で限られた人だけが秘伝書を買いにくるみたいな設定だったはずだ。



「よし、行くか!」




 クイーンと手を繋いで武者マルと一緒に市場の路地裏に足を踏み入れた。



 えと、ここを曲がって、ここを曲がって……確かこのぼろっちい部屋を潜ると……




「ほほほ、いらっしゃい。若人がここに来るとは珍しいのぉ」

「へ、へへ、若者です、へへへ」

『笑い方! 王がそんな媚びるような笑い方をしない!』



 あ、クイーンに注意されてしまう笑い方をしてしまった!



「ほほほ、緊張するのも悪くあるまい。それで、秘伝書を買いに来たのかい?」



 秘伝書。アクティブスキルをエレモンに覚えさせるのに使う道具だ。本来なら覚えないのも限定で覚えさせることができる。



 でも、俺の今回の用事は違う。



「あ、え、えと、ば、売店、を、し、したくて」

「ほう? 市場に店を出したいと?」

「あ、そ、そうです。あの、果物とか売りたくて」

「どういう物を売るつもりなのかい?」

「こ、このデカイチゴを」




 そう言って俺は島で育てたデカイチゴを差し出した。一応、売り出す商品だから持ってきておいたんだ。



「ふむ……デカイチゴ良く出来てるのぉ」

「え、えへへ、俺のエレモンのおかげです、へへ」

「ふーむ、色と艶も良い。これは……苗まではファームモンで育てて、そこからをガーディモンが育てたのかのぉ?」

「そう、です。で、でも、そうでないデカイチゴもあ、あります。そ、それは分けて育ててやつでして……」

「ほぉ、感心じゃのぉ。ファームモンは種子から苗まで、そこから実がなるまでガーディモンに育てるのが良いのは意外と知られてないからのぉ」



 今回は全てを分けて育てることができなかった。ただ、一本だけの木は分けて育てられてた。


 やはり、ファームモンとガーディモンで育てる順番を決めたデカイチゴとそうでないデカイチゴには出来の良さが違った。



 これはゲームと同じ仕様だった。



「……こ、こっちが順番を決めずに育てたイチゴでして」

「ふむ、ほほう、こっちも悪くはない……ふむ、お主、名前は?」

「……あ、えと」




 偽名を言った方が面倒ごとは避けられるかもしれない。でも、今回は売店を出したいとお願いする立場だし。



「あ、アムダ」

「ほう、アムダ君かい。宜しい。市場の一箇所を貸そう。その代わり、一割の売り上げをもらおう。ほれ、少し待っておれ」

「は、はい」




 秘伝書を買う以外でこのお爺さんと話す機会があるとはね。クイーンと武者マルはズッと二人で何か話してりしてるみたいだ。




「ほほ、お主中々のテイマーじゃの」

「え、えへへ? そうですか、へへ。エレモンは良いのが揃ってますぜ……へへ」

「ほほ、若いのに変わった話し方をするの」



 へへ、緊張して変な話し方になってしまったぜ。【サクマ】は俺の武者マルを見ている。



「ほほ、面白い武者マルじゃの。【グレン】の武者マルに似ておる」

「ゴッドリーグのテイマーの?」

「そうじゃ。偶にここに来るんじゃよ。昔から強さを探究する男での。よく秘伝書を見ておったわ。自分の小遣いと睨めっこしながらの」




 武者マルが似てるのは当たり前だな。【グレン】は主人公の父親の設定だし。主人公に最初に武者マルを与えるイベントがあるし。


 グレンの育てた、武者マルの最終進化エレモンの子供を主人公にあげるからね。

 

 別世界線のグレンのエレモンの息子とも言えるからな。




「ほほ、噂をすれば……」

「……久しぶりだな。じいさん」





 おや、グレン君がここにやってきたようだ。すげぇ、顔とかシルエットも同じや。


 あれ? 一応主人公としてゲームをしていた俺もパパって呼んだ方が……いや、そんなわけないか。



 ゲームでも時折グレンがここにやってくるんだよね。低確率だけど、遭遇すると主人公にお金とかくれるんだよ。


 今日は何円もらえるか……あ!! 俺もう主人公じゃなかったわ!




「……ん? その武者マルは」




 あ、グレンが俺の武者マルに目をつけた。なんか、面倒ごとに巻き込まれそうな予感がする……









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