第15話 市場

 出店の準備は夜が明けないうちに始まった。周りでも店を準備している大人が沢山居る。


 俺以外は全員ベテランが多いようだから、テキパキ準備が進んでいる。


 俺は、武者マル、シールラッシー、フラフィモン、そして女の子に化けた俺の妹設定のクイーン。



 箱を並べたり、デカイチゴを映えるように置いたり、後は俺のエレモンが可愛く客を引くように配置したり忙しかった。



『結局、デカイチゴは基本70円、質がいいのは100円にしたのね』

「あぁ、これなら買ってくれそうだからな」

『どう考えても価値に見合った値段ではないと思うけど……まぁ、いいわ。これも投資というやつなんでしょ?』

「うん!」

『そう、王の決断に異を唱えるのもおかしいわね。わかったわ』




 クイーンは値段の設定が低すぎると言いたいようだ。確かに美味しさで言えばもっと値を張る代物だろうけども、今回は取り敢えず知ってもらうのが大事だ。




「さぁ、武者マル、シールラッシー、フラフィモン! お前達が大事だ! あざとい可愛さで客の眼を釘付けにしてくれぇ!!」

「むしゃ!」

「らし!」

「ふらふら!!」



 アイドルをプロデュースするのはこんな気持ちなんだろうか? 時間が過ぎていき、夜が明ける。



 すると少しずつであるが人が増え始める。




「肉串一つ」

「あいよー!」



 うむ、あっちの店では既に初客を掴んでいるようだ。やるじゃねぇかぁ!! だが、俺達の本領が発揮されるのはまだまだこれからだ。



 人が沢山現れた時、俺達は真に力を発揮する。俺のエレモンが可愛いのは事実。まだ、見つかっていないだけなのだ。



 見つかればすぐさま、可愛さで騒ぎになるのは間違いないぜ。見つかるには人の目に触れらることが大事だぜ!!





「ふふ、沢山の人がいればそれだけ眼を触れる機会が増える。そうすれば俺達の勝ちだぞ」

『ふーん、まぁ、良いんじゃない』




 さて、ここからが本番だ。徐々に人が増え始めている、この瞬間!!




「武者マル! あざとい客引き!」

「むしゃ!」




 武者マルに命令すると、台の上でそれなりに大きな鳴き声を発する。くっ、可愛いぜ!! 愛くるしい顔つきを前面に押し出し、台の上でゴロゴロしている。




「きゃあああ!! 可愛いー!!!」

「抱っこして良いですかー!!」

「どどど、どうぞ、へへ」




 うむ、最初に武者マルに釣られたのは女性二人テイマーみたいだ。武者マルを触ったりしている。



「むっしゃ!」

「えぇ! この武者マル手を振ってくれてる!」

「きゃああ! 超可愛い!」




 おいおい、ファンサービスもちゃんとしているじゃないか!



「あ、あの、ここい、イチゴの店で……あ、味見してきませんかぁ?」

「うーんどうする?」

「まぁ、試食なら……でも、買う訳じゃないよ」

「へへ、もちろんですぜ……へへ」




 そう言いながら一口サイズに切られているデカイチゴの皿を出した。爪楊枝が刺さっているうちの一つ。



 それを彼女達は口の中に入れた。





『勝ったわね、そして、買ったわね』

「あぁ、俺達の勝ちだ」





 この二人は、デカイチゴを買うッ!!! 




「え、へへへ、めっちゃ美味しい!!! 笑顔になっちゃうんだけど……!?」

「酸味が絶妙。甘さがの方が勝ってるけど……甘さがくどくないようにされているような……旨いんですけど!!」

「か、買っちゃおうかな!!」

「へへ、うちのデカイチゴ一人、限定5個までです」





 限定、という言葉に人は弱い。俺もエレモンの映画特典が期間限定だったので早起きをして獲得に向かった過去がある。



 まぁ、病弱だから映画館で気絶したけどね。看護師と医者に注意されたけど、限定秘伝書やエレモンが配布されるたびに気絶をしてしまった。



 限定。という言葉には人を動かす何かになる




「うーん、5個までかぁ! なら、5個貰うよ!」

「私もお土産でもらう。この市場って偶にすごい掘り出し物出るから好きなんだけど、ここのは過去最高だね」

「めっちゃ思った! 最高、過ぎるうまさ!!」



 へへへ、いきなり10個売れてしまったぜ!! 可愛いエレモンとデカイチゴのコンボ強過ぎだろ!!




「シールラッシー、フラフィモンも頼む」

「らっし!」

「ふら!」

「あぁ! 可愛い!」

『あんたが可愛さに釣られてどうするのよ!』




 はっ、しまったクイーンの言う通りだ。今は店主の俺が釣られてしまってどうする!!


 こっからは忙しくなるぞ!! エレモンの可愛さは先程の二人で認知された、そして、デカイチゴの美味しさと限定、安値も既に知られた





「デカイチゴ、試食して良いか?」

「ど、どうぞ」

「……い、五つ貰おう」

「へへ。毎度あり」

「あと、武者マルと写真撮って良い?」





 へへへ、こっから流れは加速するな。続々と客足がこちらに向かっているのがわかる。



「シールラッシー可愛い過ぎ!!」

「フラフィモンって、こんなふわふわなんだぁ!!」

「デカイチゴって、こんな旨いのか……!」

「これ、さっきネットでちょっと話題になってたイチゴだよな?」




 一人限定5個にしたのは沢山の人に買わせて、口コミを広がらせるためだ。本当は限定10個にしようかと考えたが、5個にして正解だった。



 10個だと少し、口コミが広がらないかもしれない。かと言って流石に1個だけだと売れ残ってしまう。


 5個がちょうど良い。




「5個くれ」

「へ、へい」

「5個ちょうだい! あと、俺妹と弟と兄と姉がいるから、その分も買いたい!」

「え、えと、ご本人様しか買うのは出来なくて……」





 お、おお、ちょっとした行列になってるじゃないかぁ! それに武者マル、シールラッシー、フラフィモンの写真を撮っている人も居る。




『アタシだって可愛いわよ!』

「し、知ってるぜ!」





 クイーンは自分も可愛いと言われたくてむすっとしている。今は人間の姿だから、俺のサポートをしてくれている。


 しかし、クイーンにのおかげで本当に助かっている。人が来るのが思っている以上に速い!!



 行列だからと言って油断はできない。回転率をあげないといけないからだ。事前に袋詰めや箱詰めにはしてたけども……でも、間に合わない。


 お金……今度から電子マネー販売にすればもう少し、回転率上がるかもしれないな。



「あの、これお土産用の袋とかってないんですか?」

「すす、すいません。これしかなくて……」




 お土産用の袋とかも用意しないといけないのか。お土産としてのクオリティは十分以上あったけど、そんな袋まで気を使っていなかった……袋のクオリティを上げて、包んで高値で出すのもありか……?



 袋の表紙に武者マルとかを描いて……って、そんなことを考えている暇はない!!



「え、えと、つ、次の方……」

「5つくれ!」

「は、はい」

「あ、武者マル可愛い!!」

「フラフィモンこっち見た!!!」




 あ、すごい人気だ。




「きゃあぁあ! こっちの可愛い!!」

「なにこの、狐姿のエレモン!!」

「え!?」




 ちらっと見ると、クイーンが自身の本来の姿【クイーンフォックス】として店前に佇んでいた!!!



 おいおいおいおいおいおい!!! お前は図鑑登録もされていない世界で一匹の【L】ランクエレモンなんだぞ!!!



 上澄みも上澄みのエレモンなんだぁ!!


 

 こんなのグレンとか博士とかに見られたら騒ぎどころじゃない。幸いここには詳しそうなのがいないから良いけど!!!




「す、すいません、この子はちょっと訳ありで」

「写真は?」

「ぜ、絶対ダメ!!」




 そさくさとクイーンを隠した。店の後ろにだ。




「ちょい! ダメでしょ! クイーンはすごい珍しいのに!!」

『アタシだって可愛いって言われたい!』

「後で俺が1000回言うから!! に、人間の姿で手伝ってください……」

『ならいいわ、約束だからね』




 そう言って再び、人の姿に戻る。俺よりも小さい女の子だ。そして、再び店番に戻った。




 こうして、忙しいまま時間は過ぎていった。



 結論から言うと、デカイチゴは全て売れた!!! 客も満足している様子だった。



 がっぽりお金も入ったし……こっから、島を発展させる為に使うぞ!!!!!!



 

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