サイコロを振る、カレンダーを進む。
冬野 向日葵
第1話
「
朝方、寝ぼけた私の耳に何か入ってくるけど気にしない。まったく、正月くらいダラダラさせなさいよ。
「ねーちゃん! せっかく来たんだから相手してよー」
親戚だからって頻繁にうちに来てさぁ、少しは相手する側の気持ちも考えなさいよね。
「こうなったら―― えいっ」
その瞬間、あっためてくれていた布団は向こうへと飛ばされて、冷たい風が私を襲う。
「もう!
思わず飛び起きてしまうも、当の本人は反省していない様子。
「へっへー、あそぼーぜ!」
「全くさぁ……男の子って活発よねぇ……」
「だ・か・ら、あ・そ・ぼ!」
小学生とは思えない高圧的な声が、私を襲っちゃってさぁ。私が相手しないと彼の両親に怒られるから、しぶしぶ相手してあげるのはいつもの流れ。まったくもぅ……
起き上がった私は、改めて尋ねる。
「ハイハイわかりましたよー、今日は何して遊ぶの?」
「今日は正月だからさ、定番のアレでしょ!」
私には何をしたいのかわからなかった。賽人が来るまではお正月にみんなで遊ぶなんて文化は
「定番って何よ」
「そりゃぁ、人生に決まってるでしょ!」
人生……? あぁ、あの双六ゲームね。
「賽人? あのゲームはね、うちにはないのよ」
「えぇ!? みんなで遊べて楽しいのに!? 人生損してる!」
人生損してる、なんてよく言われるけどたいていアテにならないよね。
「はいはい、私は人生ソンしてますよーだ」
だから、私も適当に返事するの。
「なら、泉ねーちゃんも一緒にやるべきだよ! こんな楽しいゲームあったんだって、感動しちゃうかも?」
今更双六ごときで感動すると思ってるとか、何言ってんのって感じだわ。
「でも、ゲームはないよ? あきらめることね」
そうやって脅してみたらなんか意外とドヤ顔で、男の子ってわけわかんない。
「ふっふー、なかったら作ればいいんだよ!」
「はぁ!?」
「ボードと駒、そしてサイコロがあればいいんだ。簡単簡単! ほら、ねーちゃんも手伝う!」
結局無茶苦茶に振り回されるんだから。いつもいつも……
「結局完成まで付き合っちゃったわ……」
「なにいってんのねーちゃん、ゲームは今からだよ!」
もうアンタの相手でお腹イッパイなんですけどぉ。
「しゃーないわね。さっさと初めて、さっさと終わらせるわよ」
賽人はぱぁっと笑顔になって、床に紙を並べ始める。私が乗り気だと思われてるなんて、不名誉なことね。
「ということで人生ならぬ『一年ゲーム』! 今日、一月一日からスタートして先に十二月三十一日に着いたほうが勝ち!」
そう、ボードの代わりにって私の部屋のカレンダーが使われたの。せっかく新品だったのに一月ごとにバラされちゃって、もう。
「そんなわけで早速スタート!」
賽人め、聞いてないわね……
「お! いーなー、一気に七日まで進んでるじゃん!」
そう言いながら賽人は私の
一月が終わるころに気が付いた。
「このゲーム、つまらないわね……」
だって、本家と違ってマスに何か書いているわけではないんだから。ただただサイコロを振り、時を進めていくだけの運ゲーじゃないの。
「えー、そうかな? 僕は面白いと思うけどなぁ」
アンタみたいなお子ちゃまには分からないわよ。そう思いながらも相手を続けていくのだった。ほんと賽人ったら……
二月、三月――着々と時は進んでいく。
特に目立った進展、なし。そりゃそうよ。サイコロを振るだけなんだからさ。
「なんか、私の人生みたいね……」
ふと口に出た言葉に、ハッとする私がいた。
ダラけて、勉強して。またダラけて…… 先の見えない今をなんとなく永遠に過ごすこの感じ、まさにこのゲームとピッタリだわ。本当の人生は山あり谷ありの本家じゃなくて、こっちのゲームだったのね。
賽人に付き合ってゲームをしてからどのくらい時間が経ったんだろう。もう十二月までやってきた。
「おっ! オレ調子いいじゃん!」
ここにきて続けて六が出る賽人。ようやくゲームとして差が出てきたってところ。私はもう、何も考えずにサイコロを振る。
「泉ねーちゃん、また一じゃん。オレの勝ちだな!」
二十一日にいる私と、三十日まで到着している賽人。
「いいもん、私はクリスマスをゆっくりと楽しむんだから」
なんて洒落たことを言ってごまかしてみる。クリスマス前の週末だから、きっとパーティーの買い出しを楽しんでるのかな、なんて少し思っちゃった。
結局、そのまま賽人に大差をつけられてゲームは負けたんだけど、
「せっかくだからねーちゃんもゴールするまでやってみて!」
なんて言われたからゲームを続けるハメになって、サイコロを振り続ける。
出た目、二。到着したマス、二十三日。いよいよ
次の目は六、二十九日に到着したんだけど……
「クリスマスはどうなったの! パーティーはどうなったのよ!」
つい暴走しちゃってさ、賽人にケタケタ笑いながら
「人生っていうのはそういうものだよ」
なんて言われた。まったく生意気な子ね。
でも、あながち間違っていないのかもしれない。
人生は双六みたいに、何が起こるかわからない。それを楽しむのが人生の本質なのかも。
なんて思っていたら、
「おーい、泉、賽人。お昼ご飯できたわよー」
なんて呼ばれたものだから、
今年一年は、もう少しだけ大切に過ごそうかな。
サイコロを振る、カレンダーを進む。 冬野 向日葵 @himawari-nozomi
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