第2話 食事
部屋に戻ろうとしていた道中。雨が強まり、雨宿りの為に一橋は、雨宿りの為に廃ビルに入っていた。
吹き抜けた階段の踊り場。手摺の格子に背を預ける一橋は、ここなら地面の毒ガスも届かないと、マスクを外した。
割れた窓から差し込む街灯の僅かな灯りを頼りに、白髪の男から受け取った食事の入った箱を、音を立てない様に慎重に開ける。
麩菓子の様な短い棒状の乾パンが6本。分厚いオブラートに包まれた
貴重な食事に思わず頬が緩ませ、誰にも取られない様にしなければ…と辺りを注意深く見渡し、一橋は音を発てない様に気を付けながら、それぞれを一つずつ取り出した。
味のしない乾パンを口に含み、涎でふやかし。柔らかくなり始めると噛みながらペーストのスティックも食べる。
薬品的な甘味のペーストは、溶けないバターの様な食感。そこに粉っぽい乾パンが合わさり、粘り気のあるバターを食べている様だ。
一橋は、そんな慣れた不快感を無理矢理、流し込む為に水カプセルを一つ噛み飲んだ。
ズズ…
「っ!?」
上の階層から何かを引き摺る様な音に、一橋は慌てながら氷砂糖を口に入れて、すぐ横に置いた鉄パイプを手に取り、音のした上階の階段を見上げた。
そこには、手摺に掴まる今にも倒れそうな女性が一橋を見つめて居た。
長い髪の隙間から覗く瞼が無い様に見開いた焦点の合わない目。ボロボロの服は、殆ど裸にしか見えず、床に引き摺る骨と皮だけもう片手には、血の付いたガラス片が握られていた。
餓えた悪魔の様な女性の姿に、一橋は目を逸らさない様に気を付けながら、手摺と鉄パイプを使いながら立ち上がった。
しかし、女性は釣り糸が切れた操り人形の様に手摺から手を離して、階段から転げ落ちて来た。
手摺伝いに女性に近付いた一橋が、その頭を鉄パイプで小突くも、動く事は無く。死んだと思った時。
女性が虫の息で何かを呟いてる事に気付いた。
「こ……には…」
パラパラと降る雨音が騒音に思えてしまう程に小さな声だ。
コイツは時期に死ぬ。それより、この騒ぎで他が来たら厄介だ。と一橋は食料の箱を持って階段を降りようとした。
「───かぁか?」
「っ!」
階段の上からの子供の声に、一橋が驚いて振り返る。そこに立っていたのは、血塗れの子供だった。
一瞬子供が怪我をしてるのかと思ったが違う様で、子供は、幾つもの
睨む一橋に構う事無く、子供は踊り場に倒れてる女性を見た瞬間、持っていた腕を落として階段を駆け下りた。
「か、かぁか…?かぁか! かあかあ!!」
必死に女性の体を揺する毎に、焦りと哀しみ帯び始める子供の声に、一橋は「っせぇなぁ、ガキが」と言って、子供に近付き始めた。
頭上からの声に子供は、涙を流す怯えた目で、鉄パイプを振り上げた一橋を見上げた。
「ソレと一緒にしてやるから黙ってろ」
そう言って、子供に目掛けて鉄パイプを一気に振り下ろそうとした、途端───ドォオオン!!
ビルが揺れる程の地響きと共に爆発音が外から轟いた。
ズズズゥン!
「っ!? うぐっ…!」
振り下ろした鉄パイプは子供に当たらず、片足の一橋はバランスを崩して、その場に転んでしまった。
咽び泣く子供は、頭を必死に抑えて震えながら失禁していた。
何が起った!?と体を起こして、手摺に掴まりながら急いで立ち上がる一橋は鉄パイプを突きながら、見晴らしの良い上の階を目指した。
◆
階を上がる毎に廃ビルの窓の外を見る住人が増えて行き、一橋は人混みを押し退けて窓の外を見上げた。
点々とした街灯の灯りが頼りの暗闇の中。ビルや民家の建物の奥の空が明るくなっているのが見えた。
不安と困惑でどよめき出す周りの人達に対して、一橋は一人だけ緊張に顔を強張らせて息を飲んでいた。
その爆発が起きたであろう方向は、あの車のある場所だったからだ。
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