第24話 私の心の薬箱


 突然私の名前が呼ばれて、たくさんの人の目が私に集中する。

 さっきまでの非じゃないほどに。

 だけどそんなこと気にならないくらいに、私の頭の中は今のこの現状を理解できていない。

 

 なに?

 この話の流れから私の名前が飛んでくるってどういうこと?

 私何かやらかした? まさか優悟君の如く公開説教!?

 考えてみても何もその理由が全く思い浮かばない。


 すると雪兎さんは壇から降り、戸惑う私の手を引くと、再び壇上へ私を連れて上がった。

 どう意図なのかわからないままにおずおずと雪兎さんを見上げると、雪兎さんが優しく微笑んだ。

 そのとろけるような甘い笑みを見た女性陣から黄色い声が上がる。


 それはそうだ。

 今まで眉間の皺がテンプレだった雪兎さんの笑顔なんて、職場では見られることが無かったのだから。


 そして────。

「……虫は、一掃しないとな?」

「へ?」

 私にだけ聞こえるような声でそう言うと、雪兎さんは私の手を取ったまま、その場に跪いた。

 そう、まるでおとぎ話の騎士のように。


 会場からは女性陣の悲鳴が上がり、優悟君の口があんぐりと開いたのが横目に見えた。


 「水無瀬海月さん。俺と、結婚してください」

 「!?」


 はいぃぃぃぃぃいいい!?


「な、今、ちょ……」

 混乱しすぎて言葉が出ない。

 まさかここでこんな言葉を向けられるなんて、想像すらしていなかったのだから。

 

 私の取り乱した応えに、鬼上司が声を張り上げる。

「返事ははっきりと!! イエスかノーか!!」

「ひゃいっ!! い、イエスです!!」


 はっ……!!

 勢いでそう答えてすぐ我に返った私の目の前には、悪い顔で笑う雪兎さん。

 そして────。


「!?」

 雪兎さんの形の良い唇が、私の手の甲にそっと触れた。


「未来の約束。ここに居る全員が証人だ。だから、不安がることはない」

「!! 気づいて……?」


 不確かな関係に不安になっていた私の心を見透かしたように紡ぎ出された言葉に、私は驚き目を見開いた。


「当たり前だ。……一生向き合ってやるから、覚悟しろ」

「~~~~~~っ」


 心に入っていた傷やヒビが、少しずつ、綺麗になっていく。

 雪兎さんの不器用だけど暖かい思いが、私を変えていく。


 これからも、きっと。


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