近づく距離

第11話 出張と胸のチクチク

「はっはっはっはっはっ!! ほなら、これからの共同事業の成功に!! かんぱーい!!」


 ……あぁ、これで何度目の乾杯だろうか。


 無事京都支社との会議を終えた私と主任は、今、支社の偉い方々との飲み会に参加している。

 まぁ、接待というやつなんだろう。

 高そうな祇園のお座敷で美味しい懐石をごちそうになる贅沢。


 ただ、このノリだけはついていけない。

 元々部署内でも孤立していたし、大人数で飲みに行くという習慣がない分、どうも気疲れしてしまう。


 それに──。


「和泉さん、ご結婚は?」

「していません」

「えー、彼女はいらっしゃりまへんの?」

「いません」

「じゃぁ私立候補したいですー」


 ハーレムだ。

 ハーレムが出来ている。


 何故コンパニオン呼んだ?

 お座敷といえば舞妓さんじゃないの?


 主任は取引先の呼んだコンパニオンのお姉さんに取り囲まれてハーレム状態。

 方や私はおじさんたちに取り囲まれて浴びるように酒を呑む。


 なぜだろう。

 主任のハーレム状態を見ていると、胸がチクチクする。

 呑みすぎた?

 それとも、いっちょ前に嫉妬してる、とか……?


 いやいやいやいや!!

 相手は鬼の主任よ?

 そんなわけが……。


 

「水無瀬さんは彼氏とかおりはるん?」


 確かこの人は、おじさんたちの中で唯一若い取引先のエース木谷さん。

 同い年位だろうか。

 優しそうな雰囲気で爽やかイケメンな彼は、きっとうちの主任のように部署でもモテているのだろう。

 まぁ、主任の場合は顔は良いのに怖いから誰もアタックはしないんだけど。

 観賞用、というやつなのだろう。


「えっと……い、いません」

 いたけど罰ゲームでした!!

 と口から出かかったけれどさすがにみじめすぎるので酒と一緒に呑み込む。


「おらんの!? そんなかわええんに」

「ならうちの木谷とかどうや? 将来有望やで!!」

「せやせや!! 美男美女でえぇやんな」

「まぁのみなのみな」


 おじさんたちがわらわらと一斉に木谷さんを勧めてくる。

 酒と共に。


 ひぃぃい!! も、もう限界だからっ。

 勘弁してぇぇえっ!!

 ニコニコしながら心の中で叫んだその時。


「すみません、会社に報告をしなければならないんです。水無瀬ももう限界のようですし、私達はこれで。」

 主任がそう言って私の手を引き立ち上がらせると、私を支えながら座敷を後にした。







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