第12話 嘘だろ……!?

「うぅ、すみません主任。ご迷惑おかけして……」

「いや。お前がこんなに酒に強いとは、想定外だった。おかげでそれを口実に連れ出す予定が遅れてしまったな」


 え、まさか私の酔い待ちだった!?

 やっぱりこの人、鬼畜だ……!!


「着いたな」

 タクシーが旅館に到着し、扉が開いて主任が降りると、私の方へ手が差し出される。

「ほら、手」

「~~~~っ」

 こういうところ、本当にずるいと思う。


 さっきまでのチクチクもやもやしたものが消えていく。

 代わりに心を満たすのは、温かい感情。


 ──あぁ、やっぱり。

 気づきたくなかったけれど、気づいてしまった。


 私は──主任に惹かれてる。


 駄目だ。


 私と主任じゃ釣り合わない。


 第一、こんな、顔も良くて何でもできてスパダリ属性の男性が、私のこと好きなってくれるわけがない。

 こんな、罰ゲームで告白されるような女なんか……。


 この気持ちは、もう一度自分の中の奥深くに沈めてしまおう。


 気づかれないように。


 今まで通り。


 真面目に仕事をこなしていこう。


 せめて迷惑にならないようにひっそりと、傍で仕事を支えていく。


 それだけで、十分じゃないか。



***




「嘘だろ……」

「えぇ……」


 旅館についてすぐ、信じられないことを聞かされた私たちは、受付で固まってしまった。

 なんと、部屋が二人部屋の一室しか取れていなかったのだ。


「きちんと二部屋取っていたはずだが?」

「それが……こちらの方で間違えていたようで……」

「ならもう一室今から部屋の用意を──」

「申し訳ございません。あいにくと本日は満室で……」

「……」


 まさか部屋が一部屋、しかも二人部屋しかないだなんて……。

 しかも満室。

 あぁ……主任の眉間の皺がすごいことに……。

 女将さんも申し訳なさそうにしてるし……うん、ここはもう仕方ない。


「あの、大丈夫です、このままの部屋で」

「水無瀬?」

「主任、部屋がないよりマシです。このまま泊まりましょ」


 先ほど自分の気持ちを認識したばかりだし、意識してしまうのは仕方ない。

 だけど主任が私を意識するわけがないのだから、大丈夫。

 まぁ、私が一緒っていうのは申し訳ないけれど、部屋が無いのだから仕方がない。


「お前……。……わかった。ではこの部屋のままで頼む」

「は、はい。それではお部屋にご案内いたします」


 女将さんの後を付いて行こうとする私の手を、大きな手がとる。

「行くぞ」

「へ!? ぁ、は、はいっ」

 私は主任に手を引かれながら、女将さんのあとに続く。


 早くなる鼓動の音が聞こえていないだろうかと気になりながら、私はつながれた手を握り返した。


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