第2話 不穏な雲行き


「優悟君、お弁当──」

「あー、ごめん、今日は外回りで食べることになってて──」


「優悟君、今度のお休み──」

「ごめん海月。母親が倒れてさ、しばらく休みの日は実家に行くことに──」


「優悟君、一緒に帰──」

「ごめん、別の奴と呑んで帰る約束してるんだ」


 撃・沈……!!

 付き合って最初の一ヶ月は、本当に夢みたいだった。


 毎日作って来たお弁当も一緒に食べてくれたし。

 お休みの日はデートもした。

 私が残業なしで帰れる日は一緒に帰ってくれたし、本当に、幸せだった。


 初めての彼氏。

 優しくて、かっこよくて、楽しくて。

 最高の彼氏だ。


 それが最近は一緒にいられる時間が極端に減った。

 いや、減った、というよりも、皆無だ。

 LIMEだって、最近は返信がほぼないか、「了解」「お疲れ」みたいな一言だけ。


 忙しいのかな?

 お母さんが倒れたって言ってたし……。

 私に何かできることがあればいいんだけど……。


 

「よしっ……!!」

 悩んでいるよりも直接聞いてみよう!!


「水無瀬」

「!! 和泉、主任?」


 意気込んでいるところで後ろから声を掛けられ振り返ると、私は思わず息を呑んだ。


 ──この部の鬼主任、和泉雪兎いずみゆきと主任。

 仕事の鬼でスパルタで、自分にも他人にも厳しい主任は、顔は間違いなくこの部署で──いや、この会社で一番の美形だが、誰も近寄ろうとはしない。


「あ、あの、何でしょう?」

「今日も仕事、残るのか?」

「ぁ……はい」


 私が今教育係としてついている新人の佐倉さんは、今日は午後は休みの届けを出している。

 病院通いしているおばあ様の付き添いだそうだ。


 新人期間も明日で終わり、個人に仕事が割り当てられはじめた時期。

 彼女のできなかった仕事は、教育係の私がすべて終わらせることになっている。

 じゃないと、明日の会議に出せないから。


「……そうか。俺はこれから打ち合わせがある。できた資料は俺の机の上にでも置いておいてくれ」

「わ、わかりました」

「それから、締めのある仕事は早急に終わらせてから休むように注意するのも、教育係の仕事だ。しっかりしろ」

「っ、は、はい……」


 それだけ言うと、主任はたくさんの資料を抱えて部屋を後にした。


「今日もド迫力……」


 だけど私がしっかりしていないのも事実。

 ちゃんとしないと。

 そのまえに──。


 私は立ち上がると、定時帰りの優悟君を待ち伏せるため、会社の出入り口へと急いだ。


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