第6話:天明超

 明超には二度も助けてもらった。

 二度めは本当に死ぬところだった。

 さすがに恩人に礼を尽くさずに追い返す桑縁ではない。せめて夕餉をご馳走するから泊まっていってくれと明超を自らの家に招待することにした――のだが。


「家に入る前に、ちゃんと体を洗ってください!」


 自らに降りかかった血はそこそこに拭い、桑縁は湯を沸かして家の外で明超に沐浴をさせている。家には母もいるし、臭うまま家の中に入れたなら、そのまま臭いが染みついてしまいそうだ。面倒臭がる明超の背を無理やり押して、沐浴の介添えをしている。泥を流し丁寧に浴巾で洗い、ゴワゴワの髪の毛が絹糸のようになるまですすぎあげた。努力のかいあって、岩のような髪がいまでは嘘のように滑らかだ。


「本当に几帳面だな、お前は……」


 呆れた声の明超は、桶の縁で頬杖をついて桑縁にされるがままになっている。彼曰く、「会いたい者もいなくなったから、自分の見た目など、どうでもよくなった」のだそうだ。

 彼がどんな生き方をしてきたのかは分からないが、それはそれで寂しいものだと桑縁は思う。


「天……天大侠にいさんがあまりにも頓着がなさすぎるだけです」

「天大侠にいさん?」

「そう。天大侠にいさんには二度も命を助けていただきましたから。もう他人でもないでしょう」

「ふうん、天大侠にいさんか。悪くないね」


 よほどそれが嬉しかったのか、目を細めて明超は肩を揺らした。その拍子に黒髪から滴が滴って、逞しい彼の肩から滑り落ちる。入念に洗ったおかげで、先ほどまで汚れて黒ずんでいた肌は地肌の鮮やかな色が見えている。不思議なことに、それなりに日に焼けた肌であるはずなのに、血色がいいとはいえない。けれど、それを差し引いても彼――明超は人を惹きつけるような美男だった。

 母の箪笥たんすから拝借した香油を、明超の髪に馴染ませながら桑縁は問う。


「ところで、どうして義鷹侠士を名乗るんです?」

「そりゃ、そう呼ばれていたからさ」

「怒られますよ、本物に」

「だから、俺が本物だよ」


 確かに彼の剣技は素晴らしかった。それに、まるで物語から抜け出たようなあの身のこなし。間違いなく彼の剣術や動きは義鷹侠士のそれと、とてもよく似ている。


「義鷹侠士は死んだんです。……確かに天大侠にいさんの剣技は、本で読んだ義鷹侠士の動きにとても近いと思いましたけど」

「信じろとは言わないが、俺がその義鷹侠士 天明超なんだよ」

「ですが、天大侠にいさんの見た目は僕とそう変わらないように見えますが」


 百歩譲って血縁のものならありえる話。しかし本人は……そう桑縁が言いかけると真面目な顔で明超が桑縁を見た。


「どうしてなのか、そこは俺にも分からない。ただ、死んだあとは見た目なんざ幾らでも変えられるみたいだ。まあ、死んだあとまで自分の年齢に縛られるのは御免だしな」

「死……」


 まさか、という気持ちともしや、という気持ち。二つの相反する気持ちが桑縁の中でざわついた。先ほど彼の身体に触れたとき、妙に冷たかったことに気づいたのだ。それに、日に焼けているのにどこか血色の悪い肌。気になるほどでもないが、間近で見るとやはり違和感があった。


「そうだなあ……こうすればどうだ? 分かるだろ?」


 いきなり明超が桑縁の手を掴み、自分の胸に押し当てる。突然の行動に桑縁はぎょっとしたが、一拍おいて冷静になった途端にあることに気づく。


「心臓が……」


 鼓動がない。

 この男の心臓は、動いていないのだ――つまり、死んでいる。


「な?」


 軽い口調の明超とは反対に、桑縁は言葉を失った。

 義鷹侠士だと名乗る凄腕の侠客。

 偽物だと思っていたが、先ほどの戦いを見れば彼が偽物を名乗る必要がないほどの実力を持っていることはすぐに分かる。八十年前の人間が生きているはずない、そう思って彼を偽物だと決めつけていたが、彼がもし死人であるならば、その問題すら解決される。


(でも……)


 目の前で屈託の無い微笑みを見せる人懐こい男。義鷹侠士であるのか騙りなのかは脇に置き、彼が死人であるなど思いたくはなかった。


「信じられないなら信じなくていい。……まあ、一応言っておくと、いまの俺は、冥府から来た幽鬼だ」


 明け透けに『冥府から来た』と言う幽鬼がいるのだろうか、という疑問は脇に置き


「仮に天大侠にいさんの話が本当だとして――どうして八十年も経ってから庚央府に現れたんです?」

「恩を返すためだ。桑縁、お前にな」

「恩!?」

「そうだ。お前は爺さんと一緒に、小さい頃から毎日冥銭を燃やしに俺の墓に来てくれた。来なかったのは母君が寝込んだ時くらいか。……いや、そのときも後からやってきて、母さんを助けてください……って泣きながら冥銭を燃やしてたな」


 なんでそんなことまで知っているのかと言いかけたが、真に彼が天明超であると仮定すれば、知っていてもおかしくはない話。


(それにしたって、子供の頃に冥銭を燃やした時のことまで言うなんて……)


 幽鬼だとは認めたくないが、彼が桑縁の過去に詳しいということだけは激しく理解した。


「で、でも冥銭くらい庚国の人間なら燃やしてるでしょう? 僕の他にだって義鷹侠士の墓にやってくる人はたくさんいます」

「一日も欠かさず毎日燃やしに来るような酔狂な奴は、桑縁。お前さんだけさ」

「……」

「気を悪くするな。俺は感謝してるんだ。お前がどんなに貧しい時も、俺のために冥銭を燃やしてくれたことを俺は知っている。お陰で俺は死んでから金で苦労したことは一度もない。寝込んだ母君を俺の力で治してやれなかったのは心苦しかったが……。今回は恩を返せそうだったんで、こうしてお前を守るため、恩返しをするために冥府から戻ってきたってわけさ」

「はあ」


 古今東西、昔話の中では様々な生き物が恩返しにやってくるが、よもや幽鬼が八十年経って恩を返しにやってくる、なんて話は聞いたことがない。

 彼の話の全てを信じたわけではないが、仮に……仮にだ。彼が天明超の息子か孫と仮定すれば、毎日絶やさず冥銭を燃やしに来た桑縁に恩を返すというのも、納得がいく。

 だから桑縁は明超のことを、天明超の息子か孫――則ち、二代目か三代目義鷹侠士であると思うことにした。


「もうそろそろいいだろ」


 さすがに洗われ飽きたのか、投げやりな明超の声が聞こえる。上から下まで泥と垢のついた部分がないことをざっと確認し、ようやく桑縁は明超に新しい浴巾と着替えを手渡した。


「悪いな」


 引き締まった体を惜しげもなく晒し、明超は風呂桶から立ち上がる。自分の貧相な体を思い出し、羨ましさと眩しさを感じながら無意識に彼の様子を目で追った。首筋から肩に視線を流し、そして彼の肩甲のそばにある大きな傷に目を留める。


「天大侠にいさん、その肩の傷……」

「ああ、昔ちょっと怪我をしてな。不思議なもんで、死ぬ間際の怪我は残ってないのにこういった傷は残ってるんだよな」


 それは義鷹侠士が、仲間を救うために受けた傷だ。人質に取られた仲間を救うために、彼は迷わず己の剣を敵に渡した。しかし仲間を取り戻した瞬間に返り討ちにされることを危惧した敵は、義鷹侠士の肩を槍で刺し貫いた――圧倒的な実力を持った彼が、窮地に立たされる稀有な話の一つである。

 まさに物語で読んだような傷が彼の肩口にあると、なんだか本当に本物なのではないか、という気持ちになってしまいそうだ。


「人質にされた仲間は救えたけど、そのとき受けた傷で義鷹侠士は生死の縁を彷徨った。最期の戦いを除けば、義鷹侠士が危機に陥ったのはあのときくらいでしたね」

「……桑縁、お前は本当に、俺以上に俺のことに詳しいな……」


 明超の表情が引いている。顔が黒くなくなったぶん、彼の心底嫌そうな表情がとてもよく見えた。


(でも、お互い様じゃないか?)


 明超も明超なのだから、人のことは言えないだろう。


    *


「あらあらぁ~! 死んだお父様の服がこんなに似合うなんて!」


 明超の姿を見た母――玉詠ぎょくえいの喜びっぷりは、桑縁が驚き言葉を失うほどだった。入念に沐浴させ、清潔な服を着て身なりを整えた彼は、もはや初めてあった頃のボサボサのゴワゴワの黒ずんだ男ではない。


「友達の少ない桑ちゃんが、まさかこんなに素敵な人を連れてくるなんて……」

「友達が少なくて、すみませんね」


 小柄な桑縁の服を明超が着るのは不可能だ。そこで事前に母に相談したところ、亡き父の形見を出してきてくれた。顔も知らぬ父とはいえやはり父。その父の形見を自称天明超に着させることは少し複雑な気持ちもあったのだが、母はむしろ大喜びである。悩んだ自分が馬鹿らしい。


「ほとんどの服は売ってしまったのだけど、桑ちゃんが大きくなったら着てもらおうと思って何枚か取っておいたのよねぇ」

「大きくなくて、すみませんね……」


 官服を着ても歳より若く見える自分が恨めしい。生前、狩りが好きだったという父の胡服を、自分の服であったかのようにソツなく着こなしている。実際のところ桑縁が着るよりも遥かに似合っているし、非の打ちどころがない。


「本当に、死んだお父様を思い出すわぁ。あれは桑ちゃんが生まれてすぐの頃にね……」


 桑縁の予想を遥かに超えて、父の服を着た明超に母はたいそうご満悦である。桑縁はそんな母の姿を複雑な気持ちで眺めていた。

 明超はというと、そこそこに母の相手をしながらも夕餉を口に運んでいる。どうやら彼は社交的な性格らしい。母の質問攻めに戸惑うこともなく、慣れた様子でソツのない返事を返している。母も母でよほど明超のことが気に入ったのか、まるで親戚の子供をもてなしているかのようだ。母がここまではしゃぐ姿を見たのは祖父が亡くなったあとの生活において、実に初めてのことだった。


「せっかくのお客様に大したおもてなしもできなくて、御免なさいね」

「そんなことはありません。母君の手料理、とてもおいしいです」


 母はいまでも正店で厨師兼給仕として働いているから、料理に関しては超一流だ。明超も母の料理はいたく気に入ったらしい。


(それにしたって……)


 明超の外面の良さに、ただただ呆れるばかり。桑縁には丁寧な物言いなどしたことないくせに、母の前ではよそ行きの言葉遣いだ。母に悪い印象を持たせぬように気を使っている、のかもしれないが。

 やきもきする桑縁の視線をよそに、最終的に桑縁が食べたこともないほどたくさんの料理を彼は平らげた。


    *


 叔父が奪えなかった唯一の場所――それが桑縁の住む小さくて縦に長い小屋である。もとは四合院の中にある離れであり、対外的には物置として使われていた場所。一見ただの二階建てにみえるが、屋根裏は屋根と壁を簡単な操作で畳める仕掛けがついていて櫓へと早変わりする。つまり、星が観たいときは渾天儀こんてんぎを使い、いつでも星を観測することができるのだ。人々の住む家は厳密に決まりがあって、身分によっては許されない造りもある。幸いにして桑縁は没落しても生まれはそれなりであったため、この一風変わった家をどうにか残すことが許された。

 まだまだこの先も生きるつもりであった祖父が幼い桑縁のためにと、この小屋と据え付けた渾天儀こんてんぎは必ず桑縁に渡すよう、立会人までつけて入念に遺言を残したのだとか。――そのお陰で貧しいながらも母とともに、生きながらえることができたようなもの。


 いつものように桑縁が櫓に登ると、昨晩の雨と打って変わって今宵は満天の星が広がっていた。ボロボロになった自前の観測帳を手に、桑縁は渾天儀こんてんぎに手をかける。


「よう、熱心だな」


 梯子が軋む音に視線を落とすと、下から明超が上がってくるのが見えた。しこたま料理を食べつくした彼は、桑縁の寝床を占領していたはずなのだが……。


「天大侠にいさん。寝たんじゃないんですか?」

「寝た。でも起きた。それは何だ?」


 彼の視線が見ているのは、いままさに桑縁が覗こうとしていた渾天儀こんてんぎだ。


渾天儀こんてんぎといって、星を観測し、位置を計測するのに使う道具です。天文台でも同じ道具を使うんですが、これは祖父が生前、屋敷からでも星を観ることができるようにと造らせた特別なものなんです」

「爺さんか……。墓に来たときはいつも俺の話ばかりしていたな」

「そりゃ、義鷹侠士の物語を最初に読み聞かせてくれたのは、お爺様でしたから」

「じゃあ、お前が義鷹侠士を好きなのは、爺さんのお陰ってわけだな」

「そうなりますね」


 二人は顔を見合わせて笑い合う。


「『易は天地に準じあたえ、故に天地の道を彌綸びりんあたう。仰いでは以て天文を観、俯しては以て地理を察す。是れ故幽明の故を知る』[*易経]――司天監は日月星辰の動きを観て、太極を占い、それを正しく天子にお伝えする責務があります。天子はその内容を以て今後の政を定めます。ですから偽りはあってはならぬ、誠実であれというのが祖父の口癖でした」

「真面目な爺さんだったな。お前ほどじゃないが、ずいぶんと昔から俺のために冥銭を燃やしに来てくれたよ」

「庚国があるのは天大侠にいさんと、大侠にいさんと共に戦った仲間があってこそ。感謝を忘れてはならないとよく言ってました」

「へぇ、嬉しいじゃないか。俺たちも命を懸けて戦ったかいがあるってもんだ」


 不思議な気持ちだった。明超が昔から祖父のことをよく知っているような……共通の友人についての思い出を語るような、そんなふうに思えたのだ。桑縁は嬉しくなって、明超を渾天儀こんてんぎの側に座らせると星空に目を向け、興奮気味に星を指差す。


「ほら、あの星。確か大侠にいさんは北辰をご存じでしたよね?」

「ああ。旅をするときは、いつだってあの星を目印にしていたからな。あそこに見える星だろ?」

「そう! 確か最期の戦いに赴いたとき、愛馬の白雲を撫でながら夜空を見あげた義鷹侠士は、北斗七星を指差して『あの先に見える星が北辰だ。俺たちは決して動かぬあの星のように、この場所を守り抜く』と言って仲間たちと……」

「…………ほんと、俺のことになるとお前は異常に詳しいよな……」


 冷ややかな明超の視線で、うっかり義鷹侠士の話を熱く語りすぎたことに気づき、桑縁は慌てて話題を変えた。


「あ、いえ。僕たちが星の位置を測るときも、まずは北辰を起点とします。そして七政とも呼ばれる北斗七星の動きは、特に国の政に関わるものが多く、なかでも天枢てんすうは天子の運命に大きく影響を与えることが多くて……見てください。天枢てんすうの近くで白く輝いている星は、少し前に現れた客星です。少し近いですが、いまは問題は無いでしょう。あ……ですが、月が歳星を犯していますから……」


 そこまで言って桑縁は口を噤んだ。


「それって良いことなのか? それとも悪いことなのかい?」


 桑縁が黙った理由を薄々察したのか、明超が覗き込む。桑縁は話して良いものか悩み、やはり口を開く。


「どちらとも。本来、客星は特殊な場合を除いては吉兆だと言われています。ただ、月が歳星を犯すのはあまり良いとは言えないかもしれません」

「俺にはよく分からんが、皇上や宮中の人間たちはやたら星の動きに敏感なのはなんでだ?」


 桑縁は暫し考えて、空を見る。


「古来より、日月、星辰の運行には意味があると考えられているからです。星の位置にも、動きにも、意味がある。人々はそう考えました。西に歳星があれば豊作、東にあれば飢饉がやってくる。それから……例えば太陽を月がおおった場合、例えば歳星が宮居を犯した場合。そういった場合は災いが起こるといわれています」

「そういや、墓でも似たようなことを言ってたな」


 先日の恥ずかしい出来事を指摘され、桑縁は咄嗟に明超の口を塞ごうとした――が、桑縁の身のこなしでは明超に敵うわけもなく、あっさりと腕を掴まれてしまった。明超が得意げな表情をしているのが少々悔しい。


「黙らせようたって駄目だ」


 ニヤリと笑う明超から思わず顔を逸らす。


「……それ、誰かに聞かれてたと思ってなかったんで。忘れて欲しいんですが……」

「確か……熒惑けいこくがナントカとか。あれはどういう意味なんだ?」

「ああ、あれは……」


 明超はあのときの言葉の意味が知りたいようだ。祖父以外の誰かにその真意を騙るのは少々恥ずかしかったが、彼が祖父の思い出を語ってくれたことを思い出し、やはり正直に話すことに決めた。


「義鷹侠士が太子と最期に邂逅したとき、太子は夜空の赤い星を見て熒惑けいこくだと思ったんです。熒惑けいこくは戦を予兆する不吉な星。殿下の嘆きを聞いた義鷹侠士は、圧倒的に不利な状況を承知で、わずかな軍勢を率いて殿下と民たちのために命を賭して敵と戦い、そして……散っていきました」


 桑縁が明超の様子を窺うと、いつしか彼の表情は真面目なものに変わっていた。彼は桑縁が言葉を切っても一言も言葉を発さずに、次の言葉を待っている。桑縁の話に真剣に耳を傾けていることがよく分かった。


「――実は、太子が見たのは熒惑けいこくではなく、心星という、よく似た赤い星だったんです。心星にはいくつかの意味がありますが、少なくとも外敵から逃げ延び新しい土地を目指す太子にとって、悪いものではありませんでした。……僕は、彼に真実の星を伝えて、希望を持って欲しかったし、義鷹侠士に死を覚悟して戦って欲しくなかった」

「……なぜ?」


 桑縁は微かな笑みを浮かべ、空に手を伸ばす。伸ばした先には――心星が輝いている。


「……英雄には、どんなときでも希望を持って戦って欲しかったから」

「英雄、か」


 その表情が妙に寂し気に見えた。

 明超が気を悪くしたのかと思い、桑縁は恐る恐る尋ねる。


「駄目……ですかね?」

「いいや、駄目なんてことないさ」


 首を振った彼の表情からは、既に寂寞さは消えていた。


「なるほどなぁ。星が違ったのか。……もしかして、星詠みになったのは、それが原因なのか?」

「星詠みって……司天監のことですか? 理由としては半分くらいですかね。星について勉強を始めたのは間違いなく熒惑けいこくのことがきっかけでした」

「……お前って……」


 心底呆れたような明超が桑縁を見ている。その顔ときたら、半開きの目と、拗ねた子供のように突き出した下唇。美男が台無しもいいところである。物語の中に登場する、彼を想う幾多の女性たちがこの顔を見たらどう思うだろうか?


「お前って……本当に義鷹侠士が大好きだよな……」


 盛大な溜め息とともに吐き出された彼の言葉。しかしそれでも桑縁はめげずに平然と言い切った。


「義鷹侠士は僕の人生における心の英雄なんで」


 そのあと明超は付き合ってられんとばかりに、さっさと梯子を下りて、寝床に戻ってしまったのだった。

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星詠みは幽鬼の侠客と謎を解く ぎん @tapoDK5W0gwakd

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