三人目の行方
二学年生の四人、ジェマ、アーリーン、ローレンス殿、ハミルトン殿を婚約させたわたくしは肩の力を抜きました。見えている範囲での問題は大体片付いたからです。
これで大きな問題が一段落したわけですが、しかしまだ破滅する可能性がすべてなくなったわけではありません。
そのひとつがメルヴィン様のお相手についてです。ただし、これは王家の問題ですので、今までのように簡単に誰かとくっつけることはできません。なので、メルヴィン様については今後も様子見となります。
すると残る問題はひとつのみ、それはファンディスクのヒロインです。困ったことに未プレイなのでいつ入学してきたのかもわかりません。今の私ならば、何らかの手がかりがあれば探し出せますのに!
ある日、庭園の東屋でお茶会をしていますと、取り巻きの皆さんが最近の話題で花を咲かせていました。わたくしはカップを片手にその会話を楽しく耳にします。
「皆さん知っていらっしゃいます? この間、ジェリーがスチュアート様とご一緒に買い物へ出かけたらしいですわよ」
「本当ですの?」
「私のお友達が一緒に馬車に乗り込んで出て行くところを見たって言ってたんですって」
「スチュアート様と言えば、婚約者がいらっしゃったはずじゃ」
「ハンナ様よね。お二人の仲はそれほど悪くなかったはず」
「えー! それじゃどうしてスチュアート様はジェリーなんかとご一緒だったの!?」
「これは、もしかして浮気?」
「たぶん遊びでしょ。クラプトン家はホール家の支援が必要だもの。ハンナ様と別れるなんてご実家が許さないわ」
「ジェリーかわいそう」
なかなか生々しいお話が目の前で繰り広げられています。女性は政治に口出しをしないというのが原則というか習慣になっているサマーズ王国ですが、だからと言って何も知らないというわけではありません。色々な形で様々なお話が耳に入ってくるものなのです。
「ネヴィル家のアレクサンドラ様ってご存じ? 去年の春にこの学園を卒業された方なんだけど」
「知ってます! とても高貴なお方なんですってね!」
「そうそう。昨年輿入れされて、先日ご懐妊されたそうなの」
「えー! もう? お早いわね!」
そういえば、去年の夏にご婚礼の招待状をいただきましたわね。ちょうど夏期休暇でしたのでお誘いを受けましたけど、とてもお似合いの方々でした。以来、たまにお手紙を送り合うことになりましたが、最後の手紙をお出しになった後にご懐妊なされたようですね。
「先月新入生のジャネットから相談を受けた件だけど、やっと婚約できたわよ」
「お相手は誰なの?」
「ニファー男爵家の方なんだけど、これがなかなかカッコイイ方だったのよね」
「あなた、へんなちょっかい出さなかったでしょうね?」
「するわけないでしょ! フェリシア様のお顔に泥を塗るようなことなんて!」
仲介するはずが自分も好きになるという可能性は充分にあります。というか、以前ありました。慌てて介入して被害を最小限に抑えましたけど、あれは本当にきつかったです。
このように毎回のお茶会では様々なお話が乱れ飛びます。軽い話から重い話まで多種多様で飽きません。
ただ、このように数多くのお話を聞く立場になったわたくしですが、これだけ情報を集められるようになっても三人目のヒロインを見つけ出す役には立たないというのがもどかしいです。
今では恋の仲人というあだ名をいただくほどに片っ端から皆さんの婚約をまとめていますが、最初はともかく途中からは、あわよくばこの成就した婚約者の中に三人目のヒロインがいることを期待してやっている面があります。しかし、それを確認する方法がないのが問題ですのよね。
そこでわたくしは少し考え方を変えてみることにしました。ファンディスクをしていないので三人目のヒロインの情報はまったく持ち合わせていないですが、ゲームの知識はいささかあります。ここから突破口を開けないか探ってみることにしました。
別の日にも庭園の東屋でお茶会を開きましたが、このときにわたくしは取り巻きの皆さんへ声をかけます。
「皆さん、少しお伺いしたいことがあるのですけど、今年の新入生で変わったご令嬢はいらっしゃるかしら。まだ婚約されていない方で」
「変わった、ですか? どう変わっていらっしゃるんです?」
「漠然とした返答になりますが、例えば突飛な言動を繰り返したり姿が普通でなかったりですね」
小首を傾げるダーシーにわたくしは返答しました。我ながら大雑把過ぎる問いかけだとは思いますが、三人目のヒロインの情報がまったくないのでこのような質問しかできないのです。
しかし、その中でも何とかして条件を絞り込んでいます。新入生と限ったのは、二学年生以上のほとんどは既に婚約しており、まだお一人のご令嬢もヒロインではなさそうに思えたからです。これは、皆さんに調べてもらった結果、普段の言動から判断したことです。絶対ではないですが、前世のゲームの知識と比較するとあまりにも普通すぎたのですよね。
婚約者ありのご令嬢を除いたのは、ゲームの
最後に、変わったご令嬢というのは完全にわたくしの推測です。本編でジェマとアーリーンという性格が正反対でも比較的常識内に収まるヒロインがいるので、ファンディスクで似たようなヒロインを出してくるとは考えにくいと判断しました。もちろん、何が変わっているのかというところまでは思い付きませんが、他の二人とは確実に違うタイプのはずです。
「皆さん、どうでしょう?」
「難しいですわね。ライラ嬢なんてどうかしら?」
「あの子はぼんやりとしているだけじゃない。それだったらモーガンの方がずっと変よ。だって、算術のことばっかり話すんですもの」
「だったら、平民の特待生のベッキーはどうかしら? あの子も相当変よ。だって、私たちと最低限のお話しかしないし」
「待って、そのベッキーという方のお話を詳しく聞かせていただけないかしら」
何やら気になるキーワードを耳にしたわたくしはベッキーについて更に尋ねました。ゲーム的にはあり得る設定なのでヒロインの可能性はありますね。
そのベッキーという子は平民の特待生でとても地味だそうです。しかし、見た目が地味なだけでなく、行動にも色々と首を傾げることが多いと皆さんおっしゃいます。と言いますのも、通常、こういった特待生というのは官吏として王侯貴族に仕えるために入学してくるのですが、その割に周囲と関係を構築するそぶりがないのです。これをしないと宮仕えのとき不利になるというのに、そんなそぶりは一切見せないというのは不思議ですね。また、貴族子弟との接触も一切なし。つまり、婚約者を求めているわけでもなさそうなのです。例えヒロインでなくても非常に変わった行動をなさっています。
これは判断に困りますね。ヒロインみたいに思えるのですがまるでヒロインらしくありません。それとも、ファンディスクにはそういうルートがあるのでしょうか。
考えてもわからないのでわたくしは一度お目にかかることにしました。機を見計らい、講義が終わってからベッキーに取り巻きの皆さんと一緒に近づきます。
「ごきげんよう。わたくしはクエイフ侯爵家のフェリシアと申します。ベッキー嬢でいらっしゃいますわね」
「そうですけど」
「新入生でまだお友達がいらっしゃらない方に声をおかけしてお茶会に誘っているのですが、いかがですか?」
「あたし、そういうのは結構です」
「それは残念ですわ。また」
「ちょっと、フェリシア様のお誘いを断るってどういうことなのよ!」
わたくしの脇からダーシーが一歩前に進み出てきました。怒っても怖くない顔を怒らせています。
去年と同じ流れになりそうなことにわたくしは目眩がしました。こんな様子を窺うような誘いで破滅を誘因するなどもっての外です。
「ダーシー」
「はい? フェ、フェリシア様?」
「あなた、またわたくしの言葉を遮りましたね?」
「はっ!? 申し訳ありません」
「ベッキー、ごめんなさいね。失礼いたしますわ」
無言で軽く一礼したベッキーが去ってゆきました。
試しにお茶などに誘ってみましたがあっさりと断られてしまいましたね。ダーシーなどはいたく怒っていますが、彼女がヒロインですと致命的な事態になりかねないので不用意に関わらないよう厳命しておきます。
怪しいとは思うのですが、あまりにも非ゲーム的な行動をされているので何とも言えません。特待生のベッキー、不思議な方です。
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