新生徒会役員たち(他者視点)
──男爵令嬢ジェマ・パッカー視点──
生徒会の役員になって数日が過ぎた。なんであたしがそんな大役をしているのか未だに謎だけど、学園に君臨する人に命じられたからにはやるしかないのよね。
今は放課後、生徒会室で雑務の類いの書類を片付けているところ。部屋にいるのは同学年のアーリーン様に、男子のローレンス様とハミルトン様の三人のみ。幸い、みんないい人ばっかりだから助かったわ。
生徒会長の王太子様は副会長と舞踏館にお出かけ中。
ということで、身分の違いはあれど同学年のみとなった室内では気軽に雑談が始まった。この四人のまとめ役に収まったローレンス様も加わったので止める人は誰もいない。
そこであたしは前から気になっていることを他の三人に尋ねることにした。普段は微妙に聞きづらい話だから今のうちに話しておきたいのよね。
「みんな、フェリシア様のこと、どう思う?」
「なんだ? 副会長がどうかしたのか?」
最初に食い付いてきたのは予想通りハミルトン様だ。よし、話の流れは掴んだわね。
「あの方って最初に聞いていた噂は大層良かったんだけど、初めてお話したときの感じがちょっと悪かったのよね。ここに連れてこられたときも強引だったし。でも、殿下は悪い人じゃないっておっしゃっているでしょ。実際に一緒に仕事をしたらどうも本当のことみたいだし。でも、まだなんか良くわからないのよね」
「俺もまだよくわかんねぇな。というより、俺って微妙に避けられてる感じがするんだよなぁ。気のせいって言われたら返しづらいんだけどよ」
「そうなの? あたしとアーリーンには何かと気をかけてくださるんだけど」
「ローレンス殿はどうなんです? 俺みたいに避けられてますか?」
「僕もハミルトンと同じ感じかな。嫌われているというより、腫れ物を扱うような感じに思えたけど」
「そう言われたらそんな気がした」
小首を傾けたローレンス様の言葉にハミルトン様が納得された。男子と女子で接し方が違うんだ。婦女子はみだりに男子に接すべからずっていう習慣は確かにあるけど、そういうやつなのかな。
ここまで考えてまだアーリーン様が何もしゃべっていないことにあたしは気付いた。顔を近づけて意見を求める。
「アーリーン様はどう思います?」
「私は、悪い方ではないと思います。ただ、ちょっと苦手には感じますけど」
「わかるわぁ。なんか微妙に接しづらいのよね、フェリシア様って。どうしてかしら?」
「それを払拭しようと親しげな感じを演出されているみたいですけど、近くで拝見すると近寄りがたい人に見えてしまうっていうか」
「狼が羊と仲良くしようと頑張ってる感じがするのよね」
自分の言葉を聞いたあたしは意外に適切な表現なんじゃないかなと思った。そう考えると、なんだか少しかわいそうにも思えてくる。本当はみんなと仲良くしたいのにできないみたいな感じ。
「フェリシア様って、周囲にはたくさん方がいらっしゃるけど、案外心を許せる人っていないんじゃないかなぁ」
「ジェマ、それはいくらなんでも」
「そうかなぁ。お部屋でお人形相手にお話をしている感じるがするんだけどなぁ」
「私は逆にそういうことをされているのが全然想像できないですけど」
「でもお人形相手じゃないとすると、一体どんな方に心を許していらっしゃるのかな?」
「そういえば、特別親しいお友達のお話は聞きませんよね」
「でしょ? あんなにたくさん取り巻きがいるのに。やっぱりお人形じゃない?」
我らが副会長のひとりぼっち説が有力になったみたいね。でもそうなると、ひとつ気になることが出てきたわ。
「そういえば、ローレンス様の姉上って前の生徒会長でしたよね?」
「ああ。姉上があのフェリシア嬢を生徒会に勧誘したらしいんだ」
「なんでまたそんなことをされたんですか?」
「理想の淑女に最も近いからだそうだよ。ただ、実際に接してみると姉上から聞いた話とは若干ずれがあるように思ったけど」
「例えばどんなところがですか?」
「具体的にこうっていうのは難しいんだよね。表面上は確かに完璧に見えるから。けど、何かしら裏側に隠しているようにも思えるんだよ。それが何かまではわからないけど」
腕を組んで難しい顔をしたローレンス様が唸るように話された。そして、ハミルトン様へと顔を向けられる。
「ハミルトンはどう思う?」
「腹に何か抱えてるっていうのまではわかんないですね。何しろ俺たち男とは距離を取りたがってるみたいで、頭の中まで推測できるほど近づけてないですから」
「もしかしたら、フェリシア様って女性しか好きになれない方なのかな」
うつむいていた顔を少し上げたアーリーン様がぼそりとつぶやかれた声を、あたしはやたらとはっきり聞き取った。けど、頭の中で言葉はぐるぐると回るばかり。
他の二人もアーリーン様の言葉を聞き取れたらしく、目を見開いて固まっていた。そりゃ驚くわよね。
沈黙がしばらく続いた後、あたしもぼそっとつぶやく。
「ということは、今までの言動もつじつまが合うの、かな?」
「嘘だろ、そうなのか? いやでも、そうなると俺とローレンス殿が避けられているのも納得できる、か?」
「姉上はそれに気付いていたのだろうか? いやしかし、姉上にその気はないはずだし」
「もしかして、あたしとアーリーン様ってそういう対象として目を付けられたとか? いや、いやいやいやいやそんなはずは! え? もしかして本当に?」
考えるほどにあたしは混乱した。何が本当のことなのかもうわからない。アーリーン様に目を向けると、明らかに動揺されている。大丈夫、あたしも同じです!
ちなみに、あたしにはその気はない。ないはず、たぶん。
単に嫌われた方がまだ良かったんじゃないかと思える可能性を見出してしまったあたしたちは、そのまま自然と雑談を終わらせた。けれど、仕事にも集中できない。
ああもうどうしよう。大変な可能性に行き着いてしまったわ。
──子爵令嬢アーリーン・ラムゼイ視点──
副会長に対してとんでもない可能性を見出してしまった私たちはその日以来、微妙に仕事が手に付かなくなってしまいました。さすがに失敗まではしていませんが、そのうち誰かがやってしまいそうで不安です。
そこで私たちは四人で集まって相談しました。しかし、証拠もない状態では推測に推測を重ねるしかなく、何も進展しません。フェリシア様に直接お伺いするという案も出ましたが、そうなると誰がお伺いするのかという問題が浮かび上がってしまいます。
「私とジェマは身分が低すぎてとてもお伺いできませんけど」
「そ、そうよ! あたしんちなんて男爵家だし!」
「それずるくねぇ? ああでも、俺も伯爵家の出だから無理か。うん、しょうがねぇな!」
「待って、そうなると僕しかいないじゃないか。嫌だよ、いくら僕の身分の方が副会長より高いと言っても、これはそういう問題じゃないよ」
普段冷静なローレンス様が珍しくうろたえていらっしゃいました。そのお気持ちはよくわかります。しかし、そうなると埒があきません。
四人でしばらく頭を抱えていましたが、ふとローレンス様がつぶやかれます。
「そもそも、どうして副会長の好みの話なんて出てきたんだ?」
「最初に誰が言い出したんだ? 俺じゃねぇぞ」
「思い出した、アーリーン様よ!」
「ふぇ!?」
ジェマに勢い良く指を差された私は思わず変な声を漏らしてしまいました。確かにそうですけど、今更どうしてそんなことを蒸し返されるのかわかりません。
動揺する私はジェマに両肩を掴まれると顔を近づけられます。
「アーリーン様、こうなったら王太子様にご相談しましょう! お願いしますね!」
「どうして私なの!?」
「だって言い出しっぺだから!」
「そんなぁ」
「いつももっと積極的な性格になりたいって言ってたじゃないですか。いい機会ですよ!」
「反論しづらいけど、それは何か違うと思うの」
「気のせいですって! 大丈夫、アーリーン様ならいけます!」
「俺もそう思うぜ! いけるいける!」
「僕も賛成かな」
涙目になる私に対してジェマたち三人が笑顔で迫ってきました。なんだか裏切られた気分で悲しいです。けれど、結局押し切られてしまいました。
翌日、都合良くフェリシア様が席を外されたのを見計らった私は王太子様にこの件を相談しました。すると、明らかに動揺されます。
「フェリシア嬢が? そんなまさか。いやしかし?」
非常に心苦しかったですが、この件は王太子様に預かってもらいました。恐らく違うという返答はいただきましたが、真相はまだ闇の中です。
これってやっぱり直接ご本人にお伺いするしかないのかなぁ。
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