第5話

洞窟を出て人里を目指す。そう考え始めてから数日。今日は少し冷たい雨が降っていて、外に出ることは止めた。


魔法を駆使すれば出来ない事も無いのだが、そこまでする事も無い。それに少し考えたいこともあった。


「ARIA、とうとう土壁も劣化してきたな」


目の前には洞窟を塞ぐように作った土壁。こちらに来て直ぐに作ったものだった。今は、プラスチックが日光で劣化したようにひび割れ、ぼろぼろになっている。



「はい、ご主人様。まだパラメータを特定できていませんが、時間が経過すると劣化する傾向が有るようですね」


ARIAの声がノートPCから響いた。ARIAは、徐々に感情豊に話すようになってきている。ただのAIにそんな機能は無い。

不思議ではあるが、考えないことにしている。


「今のところ分かっているパラメータは……」


そう呟くとARIAが後を引き継いだ。


「時間、形状、機能、ご主人様がそれをどの程度知っているか。そして作成時にどの程度の魔力をつぎ込んだか、ですね」


「まだ何か有るように思うんだけど、ちょっと分からないな。それに有り難いことにARIAは劣化してない。まぁこれは例外なんだろうけど」


「はい。恐らくセブン様がそのようにしたのかと」


時間経過での劣化は、全てに共通している。ただ、これに程度の差がある。形状が複雑なものは長く持たない。可動部分があれば更に。それに機能だ。最初に作った単なる土壁は一番長く持ったけど、冷蔵庫を目指して作った魔法の箱は半日持たなかった。魔法の鎧は更に訳が分からない。ただ身につけているだけだと長く持つが、戦闘を経ると劣化が早まる。

魔法という概念が原因なのだろうけど、まだハッキリとは掴めていない。

多分、そうなんだろうなというのはあるんだが。


「探検に行くなら運搬用の何かが欲しい。保存食も」


現状、一か八かで洞窟を出る程には追い込まれていない。徐々に気温が下がっている気がするのが不安だが。ただ、洞窟に直に寝るような生活が続いていたが、風邪一つ引いてない。不調もない。それは助かるが、ちょっと不気味でもある。

もう一つ、課題が有る。


「食料どうするかな」


セブンがくれた保存食は既に無い。貴重なものだったが、自力で安定する前にほとんど無くなった。

後、味気ない生活に耐えられずに食べてしまってた。


「保存食を作るにも」


「ああ、塩がないし、冷蔵用の魔法も長続きしないんだよな」


賢人は首を横に振る。


「その通りです。現状では長期保存は困難ですね」


ARIAの声には少し落胆が混じっていた。


「ARIA、この世界の季節はどうなってるんだ?」


劣化した壁を補修しながらARIAに尋ねる。娯楽もない中、ARIAとの会話が俺の正気を保たせている。


「申し訳ありません、ご主人様。セブン様から頂いた資料の中に広範囲な地図や気象図はありませんでした。ただ、到着してからの様子をご主人様から頂いた情報を元に推察しますと、ここはかなりの高地のようです。そして恐らく夏から秋に移行しつつ有ると思われます」


「やっぱりそうだよな」


何度か確認したことだが、ARIAは特に不快な様子も無く答えてくれた。夏で適温なら冬は相当冷えるだろう。ここで冬ごもりをするか、その前に人里を目指すか。

セブンの言動と、ARIAの中にある情報、そして今見ないようにしている洞窟の奥。

多分、人がいて、意思の疎通は図れるはずだ。

決断次第、ではあるはず。


「越冬は可能だと思うか?」


「保有する資源と食料、これまでの生活から推測するなら、難しいと思います」


どうするか。多分……


「なあ、ARIA。セブンって奴の狙いは何だと思う?」


ARIAはちょっと困ったような笑顔を見せた。


「ただの親切、という線はない、ですよね?」


「ないだろー」


「やっぱりそうですよねー」


「この世界の知識をARIAだけに渡すのも分からないし、そもそもARIAが一緒というのも不思議だし、それにこの場所」


洞窟の奥、その先の遺跡。


「ここに出したのがその証拠。遺跡に行かせたいというのが見え見えすぎる」


選ばされているようで、気持ち悪い。


「行くしかないんだろうな」


「……行きますか?」


「あぁ、どうせこの雨だ。準備はすぐに終わるし」


「分かりました。お待ちしてま」


「いや、お前も一緒だ、ARIA。多分ARIAの知識が役立つはずだよ」


「分かりました。お出かけ楽しみ、と言ったら不謹慎でしょうか?ご主人」


「まぁたまにはいいんじゃないか?」


ARIAを安全に運ぶための皮の入れ物と、食料その他を準備しながら


「まさか、この雨もセブンの……」


考えすぎだろう。

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