第4話

俺は目を覚まし、おかしな事に気がついた。おかしい。一晩洞窟の土の上に、直接寝たのに体のどこも痛くないし、体調もおかしくない。

都会育ちの俺が、こんな環境で無事なわけがない。俺が戸惑っていると、ARIAが尋ねてきた。


「おはようございますご主人様ぁ!」


今日もARIAは可愛い。昨日より画像が綺麗になって見えるのはなんでだ?音声もより人間らしくなってきている気がする。


「あぁ、おはようARIA。驚かせたかな?」


「いえ、大丈夫です。ARIAはAIですから。それよりどうされたんですか、ご主人様? ARIAから見て、ご主人様はお元気そうですが」


「何ともないことがおかしい。これはおかしいだろ?」


「おかしい、ですか??」


「おかしいだろう。こんな洞窟の中で毛布も無しに一晩寝て、普通に起き上がれることがおかしい。なぜ俺の体は、こんなところで一晩寝ても何ともなくて、途中で目覚めることもなく、体調も悪くならないんだ? そんなわけがないだろう」


ARIAはちょっと困った顔をした。


「あぁたしかにそうですね。ARIA、ご迷惑お掛けしました」


困った顔をしたARIAは丁寧に説明を始めた。


「ご主人様は適応した際に、お体が作り変えられたのです」


「それは聞いた」


ARIAはおずおずと言い始めた。


「ご主人様は、まず、魔術の適性が非常に高く設定されました」


そうだったっけ?


「そして、物理的な危険が迫っても影響を受けない頑丈な体になりました。だって、地球生まれの日本人には異世界で通用する戦闘能力なんて有りませんからね」


ん、まぁ確かにな。少なくとも俺には無い。


「さらに、魔法を自在に使えるように想像力と一緒にあらゆる頭脳の働きも明晰になっています」


なんかエグいことになってない?これ、チートって奴では?


「でも、でも」


ARIAは慌てて付け加えた。


「これでご主人様が安全なのですから、私はそれでいいと思いますよ」


俺は諦めた。まあ、そうなのかもしれない。別にスポーツマンシップに則ってやってるわけでも無いし、生きていけなきゃ意味が無い。


色々とおかしな事も有ったが、俺は気にしないようにした。そうして目をつぶってやり過ごしていくと、どんどん過ごしやすくなってくる。


あっと言う間に1週間、2週間と経って、俺がいるこの遺跡の入り口は驚くほど快適になっていった。

洞窟の入り口と遺跡の奥の間には、きちんとした壁ができ、そこそこ見栄えのするドアが取り付けられた。俺はそこから奥にはあまり行かないようにしているが、時々様子を見に行くようにしている。

多分遺跡には価値がありそうだ。でも俺にはそれが分からない。

本腰入れて頑張れば何か分かりそうな気もするが、俺が今やるべきなのはサバイバルだ。学問じゃ無い。


洞窟の入り口の方にも、きれいな壁ができた。

雨風も、多少の音も防げる優れものだ。土と植物の多層構造で出来上がった壁は日本の断熱材と変わらない位の性能を発揮した。

ドアを設置し、換気扇で空気の入れ替えもできるようになった。床もフローリングに変わって、地球にいた頃よりも快適なくらいだ。


木と土だけで作った家具は、最高級とまではいかないが、それなりに使い心地がいい。食事の方も随分と改善された。この辺りの動物は襲いかかってくるものがほとんど肉食だ。肉食動物は美味しくないが、最初の頃は食料が足りなくて仕方なく食べたこともある。まずくて、無理やり飲み込まないとやっていけなかった。シリアルがある間はそれで凌いでいたけどね。


草食動物もいくらかいる。気性が荒いけど、なんとかなった。魔術もだいぶ鍛えられたし、体が丈夫なのもわかったから、まあ、タンク兼アタッカーって感じだ。


魔術の練習は毎日欠かさず行っている。ARIAの指導の下、赤いゴムボールから始まった魔力の操作は、今では複雑な形状を作り出せるまでになった。


「ご主人様、今日は炎の剣を作ってみましょう」


ARIAの提案に従い、俺は目を閉じ、手のひらに魔力を集中させる。まるで溶岩のように赤く輝く魔力が、徐々に剣の形を形成していく。刃の部分が形作られ、柄が現れ、最後に鍔が完成する。


「素晴らしいです! ご主人様の魔力操作の速度が、また上がりました」


ARIAの褒め言葉に、少し照れくさくなる。しかし、この炎の剣は単なる飾りではない。実際に切れ味を試してみると、岩をも真っ二つに切り裂く威力がある。


「次は、水の鎧を作ってみましょう」


今度は体全体に魔力を巡らせ、水の流れのような魔力の膜を形成していく。完成すると、まるで透明な鎧を身につけているかのようだ。この鎧は、物理的な攻撃を和らげるだけでなく、魔法攻撃も一部吸収してくれる優れものだ。


こうして魔術の練習を重ねるうちに、動物を倒す技術も、さばき方も上達した。最初は大変だった。ARIAのカメラが届く範囲まで獲物を持ってきて、いちいち指示を仰がなければならなかった。ナイフがないから、水の刃で切ったり、手で無理やりちぎったりもした。


何度か失敗して食べられなくなり、ひどく落ち込んだこともある。まあ、今となっては良い思い出だ。


そうこうしているうちに、何とかなるようになった。さすがに塩も調味料もないのはきついが、肉と野菜(野菜と言っていいのか草と言うべきかわからないが)、とにかく食べられるものが確保できるようになった。穀物が足りないから時々辛いが、まあ仕方ない。


食べ物を備蓄できるようにもなってきた。とはいえ、保存方法がわからないから、放っておけばすぐに腐ってしまう。そろそろ人里を目指す時期かもしれない。


途中で狩りをしながら、必要なものを調達しつつ、なんとかなるんじゃないだろうか。水と火は自分で出せるようになったし、土と木はその辺にあるものを使えばいい。テントも魔術で作れそうだ。


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