第3話

ARIAは何でも無いことのように、次の課題を提示した。


「ではそのボールをコロコロっと自分の手の上、そして肩、という風にどんどんどんどん体の表面を動くように想像してみてください。これ動きますからね。大丈夫です。地球でやるのに比べたら全然簡単ですよ」


「それそうだ、実際に見えてるからな」


俺は納得する。まあ納得するしかないんだけどね。しかし、地球のスピな人ってそんなことしてたんだな。地球では死んじゃった俺にはもう関係無いけど、その知識が異世界で使えるというのも不思議なもんだなぁ。


しばらく頑張ってみたんだけど、想像だけでボールがコロコロっと転がせなかったので、手でちょっと押してみた。そうするとボールが動き始めたので、手のひら、腕、肩と転がしてみる。

で、そのまま首を通って、頭のてっぺんに。さらに、そこから手を離して動かそうとしたら、消えた。


仕方がないのでもう一回熱感から始めて、ボールを作り、転がす。2回目のボールは簡単に作ることができた。今度は頭のてっぺんからコロリと落とそうと思ったら、また消えたので、3回目。簡単に作ることができた。


4回目は、有名な漫画風にパチンと手を叩いて、ボールを作ることもできたので非常に満足。じゃあここからどうしようかなということで、だんだんだんだん手を動かして、ボールを動かして、くるくるくるっと全身が行くようになったのは、気がつけば夕方だった。


日が陰り、周りがだんだん暗くなるのがわかる。ここに来たのが朝だったのか昼だったのか分からないけど、ずいぶん頑張ったみたいだ。

すっかりお腹もすいている。喉も渇いた。


「待てよ。飲み水も食料もないけど、これ、トイレどうすんだ?」


うーん、これ、まずいのでは?


「あ、セブン様からちょっとだけ預かっているものがあります」


「そういうことは早く言えよ」


「一応、その、真剣さが増すから、最初から言わない方がいいよ、っていう風に言われてまして。あ、あと、ちょっとした予言?警告?も預かってます」


「預言?」


「はい。セブン様から4つの預言を預かっています」


ARIAは真剣な表情で続けた。


「1つ目は『三つの月が重なる時、影の王が目覚める』。2つ目は『君は五つの扉を開け、そのたびに自分自身の一部を見つけるだろう』。3つ目は『銀の月の下で笑う者を信じてはいけない』。そして最後に『眠れる龍が目覚める時、君の指先から星々が生まれるだろう』です」


「なんだそれ...」


俺は首をかしげる。どれも意味不明だ。まぁ預言というのはそういう物なんだろうけど。何故それをARIAに預けたのか分からない。


「ARIA、これらの預言の意味は分かるのか?」


「申し訳ありません。私にもよく分かりません。ただ、セブン様は『時が来れば理解できる』とおっしゃっていました」


俺はため息をつく。


「まあいいや。とりあえず今は生き延びることが先決だな」


ARIAはうなずいた。


「そうですね。それで、水と簡単な食料が入っているナップザックが洞窟の奥の方、ちょっと離れた岩陰にあるはずです」


見に行ってみると、俺が1人、入り込めそうなでっかい皮のバッグだ。

中身を見てみると、ペットボトルに入った水と飲み物、シリアル、保存食。

そしてなんと、おまる。


「おまるやん!」


俺は驚愕して叫ぶ。これを使えと?!


「ちょっとこれはきつくない?」


とはいえ、トイレに使えるような穴を俺が掘れるほど体力があるわけでもなく、これはしょうがない、のか?


「ARIAはご主人様に誠心誠意お仕えしますけど、手も足も無いのです……」


ARIAがしょんぼりとして、そのピンク髪も心なしかボリュームがなくなったように見える。なんか勝手に進化してるな。


「仕方ないな。じゃあこれ、おまるに入れたのはどうなるの?」


当然の疑問だ。あふれて捨てる所で悩むのは嫌だ。


「ある程度は勝手に処理してくれるそうです。地面に設置すると勝手に穴を掘ってくれるそうです。その、はいせ、出た物はすぐ無害な物になるとか。でも、あんまり長くは持たないとおっしゃってました」


「そう、なんだ。じゃあ、まあ、なんか考えなきゃね」


「はい。でも、ご主人様。魔法を覚えていけば、徐々に生活が楽になると思いますよ」


ARIAはふんす!と得意げだ。クラシックメイド服に光沢が出る演出も付いた。


「どういうこと?」


「例えば、火や水を作る魔法を覚えれば、調理や飲料水の確保が楽になります。土や木を操る魔法で食器や道具も作れるはずです。動物をさばく魔法も覚えられれば、狩りも容易になるでしょう」


「なるほど...」


「それに、ご主人様には特殊な能力があるんです。普通の人は魔法の対象を実在するほどに鮮明に想像することは難しいのですが、ご主人様にはその能力が備わっているんです。これはかなりのチート能力ですよ!」


「へぇ...そういえば、さっきのボールも結構リアルに見えたな」


「そうなんです!これからどんどん魔法が上達していくはずです」


俺は少し希望が湧いてきた。「よし、じゃあ頑張るか」


「そういえば、おまえ、その、ノートパソコンの電源どうなってんの?」


「あー、これですね。一応、セブン様からは、ご主人様の魔力みたいなもので動いているそうなんです。お前様が生きている限りは大丈夫だよっていうふうに言われました」


「あ、あー、そうなんだ。えー、じゃああとは、この世界ってどうなってんの?」


「あ、この世界はですね、ナチュラマグナ(Naturamagna)という世界なんですけども、えー、なんか、魔法と産業が合わさっているようなところなんだそうです。それ以上のことはちょっと私もよく、あー、おそらく、まあ、教えてもらってません。というか、あんまりセブンさんはそういうの好きじゃないみたいですね」


ARIAは続けて説明した。


「で、この近くには、いくらか危険な動物と危険じゃない動物がいます。食べられる草なんかもあるそうですよ。その辺に関しては、一応、知識を与えられてますので、カメラに映していただければ、何が食べられる、何が食べられないというのは教えてきます。で、おまけに、肉なんかの、さばき方や調理の仕方も、教えてもらいました。ARIAは役に立つメイドなのです」


「さばき方て、お前。ナイフもないし、俺そんなことしたことないよ」


「大丈夫です!魔法を使えば、徐々にそういったことも可能にる!ってセブン様が言ってました。まずは基本的な魔法から始めて、少しずつ複雑なものに挑戦していきましょう」


俺は深呼吸をした。「よし、わかった。じゃあ、まずは火と水を作る魔法から始めようか」


「はい、がんばりましょう!」


シリアルと水を飲み、さらに練習をする。赤いゴムボールが段々明るくなって、家に有る電灯くらいの明るさになった。


そのボールを持ちながら、洞窟の奥にいってみる。

右手にボール、左手にノートPC。二刀流?だ。

最初の場所は直径2mほどの通路みたいだったが、だんだん大きくなっているようだ。


少し奥に行くと、材質が変わって来た。見た目は石に似ているけど、触り心地はウレタンみたいだ。もう少し奥、多分100メートルくらい奥に行くと、いきなりとんでもない大きな空間が拡がった。

東京の地下神殿と呼ばれる「首都圏外郭放水路」みたいな、大きな柱が幾つも立っていて神秘的だ。ここから更に先に行くのは何となく怖かったので、入口に戻ることに。


ずっと頭を使っていたからか、簡単でも何かお腹に入れたのが良かったのかとても眠くなる。

洞窟の床に毛布も無しで寝るのは不安だったが、いつの間にか寝てしまった。

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