第41話 行方不明の社員探し
「どうしても君達に引き受けてほしい急ぎの仕事があるんだ」
真里花達と共に資源ダンジョンを潜ってから数日後、
「出来ればあともう数日は大人しくしておきたかったんだがな」
セクター8/8にある高級バーの個室にやってきたルイ達は開口一番にそんなことを言う。
「申し訳ない。私は信頼できて優秀なエクスプローラーなんて君達しか知らないからね。仕事の話をさせて貰う」
山本は笑顔でルイの嫌みを流し、煙草に火をつけて一服したあと、仕事の話を始める。
「まず、事の発端は今週の花金の夜に起きた」
そう言って山本はもう一服すると、ため息と共に煙草の煙をはく。
「君達はフルダイブ式の【エクスプローラーズ】と言うゲームを知っているかね? 私はちょっとそっち分野は疎くてね………」
「あ、僕知ってるよ~! 本物のエクスプローラーみたいにダンジョンに潜ってモンスターと戦うアクションRPGだね~。結構人気だよ!」
山本がゲームの話をするとリコリスが手を上げてゲームについて軽く説明する。
「そのゲームがどうかしたのか?」
「ははは………何をとち狂ったのか、そのゲームの上位ギルドがオフ会と称して、リアルでエクスプローラー登録して、ウェストランドを徘徊するモンスター狩りに挑んだんだ。そのオフ会メンバーの中に、うちの社員がいた」
いつもならさっさと仕事内容を話す山本が歯切れ悪いことに気づいたルイが話の続きを促すと、恥ずかしそうに山本はオフ会メンバーに自社所属の社員が参加していたことを知らせる。
「ぶぼっ!? ば~かっじゃねぇの、そいつら?」
「私も同意見だよ………はぁ」
話を聞いていたアステリオスは飲んでいた酒を吹き出して噎せ、遠い目をした山本がだよなぁと言う顔でうんうんと頷いていた。
「あー………もしかして帰ってきてないとか?」
「何人かは血まみれ大怪我して息も絶え絶えで戻ってこれたが、その中にはうちの社員はいなかった」
「連れ戻してこいって依頼かな~?」
「最悪そいつの頭にインストールしているデータメモリだけでも回収してくれ。そいつがいた部署では大きなプロジェクトが進行していてな。本来は一週間ごとに本社のサーバーに進行中のデータをアップロードする決まりなんだが、あのアホは今週分の仕事進行をアップロードせずにオフ会に参加したんだよ」
山本は頭痛がするのか、こめかみを揉みながら社員を探す理由を伝え、イライラしているのか灰皿に煙草を押し潰すようにして消す。
「因みに件の社員が所属している部署は、以前君が紹介してくれた人物が勤めている部署だ。データメモリが回収できないと、君が紹介してくれた人物の家族にも迷惑がかかるかも知れない」
「わかった、引き受けよう」
山本からのアドバイスを受けたルイは両手を上げて降参のポーズを取って、依頼を引き受けた。
「しかし真里花達といい、今回のやつらといい、何で
依頼を引き受けて店を出ると、アステリオスがそんなことを言う。
「あのドキュメンタリーのせいだろうなあ………」
「やっぱあれかぁ」
ルイが言うように少し前にエクスプローラー達の活動を取材したドキュメンタリー番組がマトリクステレビで放送された。
ネオトウキョウから出たことのない
「あ、件のギルドが上げてた動画見つけたよ~」
リコリスは
『いえーい! これからポレポレギルドオフ会、本物のモンスターハンティングしてみたに挑戦しまーす!!』
二十代後半の男性が進行役でギルドのオフ会趣旨を視聴者に説明するとこから動画は始まる。
『今回のために最新型の銃を買いました!』
そう言ってオフ会参加者達が新品の銃を見せびらかす。
『こいつでモンスター達をバンバンハン狩っちゃうよー! 射てるのかって? 大丈夫! ゲームではノーミス無傷でレイドモンスター周回とかしてるから』
「うわぁ………こいつら下手したらチューターソフトで訓練すら受けてない可能性あるぞ」
動画をみていたアステリオスがドン引きした顔で呟く。
『おっ、ブラックドックだ! 最初のターゲットはあれにするぞ』
『あれ? 引き金が引けないぞ? 欠陥品かよ!』
『あ、弾買うの忘れた!』
『うわー、モンスターがこっちに来るぞー!』
『おいっ! 俺達まだ乗って───』
動画ではオフ会メンバーをのせた車がウェストランドに飛び出していき、荒野を徘徊するブラックドックの群れを見つけて、ハンティングを開始するが………ルイ達は目も当てられないグダグダぶりだった。
安全装置を解除し忘れたり、本体だけ買って弾薬を買い忘れたり、反動の強い銃をゲーム感覚で片手射ちして落としたりカオスだった。
最後は迫ってくるブラックドックの群れに運転手がビビって急発進。
外に出て応戦していたメンバーが置き去りにされ、焦った運転手がハンドルを誤って車を横転させたところで動画は途切れた。
「置き去りにされた側にターゲットがいたな………」
「取りあえず現場近くの
動画をみただけで疲労を覚えたルイ達はウェストランドへと向かう。
「あれ、みたことある車だと思ったら、旦那じゃないですか! ダンジョンアタックですかい?」
ネオトウキョウ近くにある
「スニッフか、ちょうどよかった。人探しをしていてな」
ルイはそう言うと、缶詰をスニッフにチラリと見せる。
「へへへ、あっしはこう見えて顔は広い方ですぜ。何方をお探しで?」
缶詰を見たスニッフは鉤鼻を擦りながら下品な笑みを浮かべる。
「この画像の男を知らないか? 仕事で行方を探している」
「あー………よくにた背格好の人ならその………ヤバイとこに逃げこみやしたよ」
ルイが
「ヤバイとこ? 何処だ?」
「カニパリズムも平気でやるレイダー集団のエリアです」
「あー、これは生きてないな」
ルイがターゲットの居場所を聞くと、スニッフはレイダー達の縄張りエリアを指差す。
「あいつら、変な宗教にかぶれてやしてね。満月の夜に捕えた生け贄を殺して食うんですよ。そしたらオカルト的な力に目覚めるとか。実際リーダーがそのオカルトに目覚めたらしくて、より熱狂的になったとか」
「そうか、助かった」
ルイはスニッフからターゲットの居場所とレイダーの情報をもらうと、缶詰を渡す。
「あ、そうだ! 旦那とは違う人ですが、人探していたエクスプローラー達がいやす」
「人探しをしていた同業が?」
スニッフは何かを思い出したように手で太ももを叩くと、ルイ達と同じように人を探しているエクスプローラーチームの存在を伝える。
「へえ、女性二人組だったんですけど………多分
「そいつらは何処に行った?」
「旦那と同じようにあのレイダーのところです」
「………助かる」
「へへ、こりゃどうも」
ルイは情報料として煙草を渡し、件のレイダー達の縄張りへと向かった。
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