第40話 巨大蜘蛛戦
地下の広間で出会った巨大な刺蜘蛛。
ルイとアステリオス、そしてカストルとポルックルと対峙する。
「おらっ!」
「ギシャアアッ!!」
アステリオスがヘビーピストルを撃って刺蜘蛛を牽制する。
胴体に銃撃を受けた刺蜘蛛が悲鳴を上げて、傷口から体液を撒き散らすと、ジュワッと音を立てて体液がかかった場所が溶けて煙を吹き出す。
「うげっ! こいつの体液は酸性かよっ!?」
「カストル、ポルックル、お前らは真里花と京子を守れ!
『了解』
『護衛任務拝命』
アステリオスは体液で溶けた場所をみて眉を潜める。
ルイはクローによる近接攻撃しか持たないガーディアンのカストルとポルックルは巨大刺蜘蛛との相性が悪いと判断して、真里花と京子を守るように指示すると、エネルギー状の矢を放つ。
「ギイイイイッ!」
「ぎゃあああっ!」
「ごえっ!?」
「うっ、うごかないでくれぇぇ!!」
巨大刺蜘蛛はルイが放った魔法の矢を嫌がるように大きくジャンプして回避する。
巨大刺蜘蛛が激しい動きをする度に背中に生えた無数の刺に刺さったエクスプローラー達が苦痛の声をあげ、絶命していく。
「ルっ、ルイさん! 下手に攻撃したら他のエクスプローラーさん達がっ!」
「知らん、自己責任だ」
「ええっ………」
真里花が人質のように刺蜘蛛に囚われてるエクスプローラー達を気遣うが、ルイは同情もなにもない無表情で真里花の訴えを一蹴し、京子が驚く。
「へっ、あいつらは入り口で待ち伏せしてた奴らだぜ。助けてやる義理も義務もねえ!」
アステリオスもルイに同意するように答えて、人質を無視するようにヘビーピストルを撃つ。
「キイィィィィウウウウ!!」
「きゃっ!?」
「うるさっ!!」
「耳がっ!?」
刺蜘蛛は広間に響き渡るような高音の叫び声をあげて、踊るような仕草をする。
真里花や京子、リコリスとルイは咄嗟に両手で耳を塞ぎ叫び声に耐える。
アステリオスはサイバーイヤーに搭載されたダンパーが起動して自動的に刺蜘蛛の雄叫びをシャットダウンする。
「うげぇぇえっ!?」
「いぎぃぃいいっ!!」
刺蜘蛛の雄叫びを浴びた捕らえられた人々が苦悶の表情を浮かべたかと思うと、口から大量の刺蜘蛛の子供達を吐き出す。
『敵増援です』
『敵多数、応援を要請します』
刺蜘蛛の子供達は真里花や京子、リコリスがいる場所に殺到していく。
ガーディアンのカストルとポルックルがいち早く反応して応戦するが子供の刺蜘蛛の波に飲み込まれて見えなくなる。
「こっ、来ないで!」
「イヤーっ! 蜘蛛気持ち悪い!!」
「ドローン!」
真里花と京子がスモールガンで、リコリスが連れてきたドローンで応戦するが、多勢に無勢という感じで追い詰められて囲まれていく。
「ルイ! こっちは俺に任せろ!!」
「すまん!」
アステリオスが親である巨大な刺蜘蛛と戦い、ルイは隙をみて真里花達の方に向かおうとする。
「ギシイッイッ!!」
「なっ!?」
巨大刺蜘蛛の口に生えた銛のような牙が射出されたかと思うと、ルイの進行方向を妨害するように刺さる。
「きゃああっ!!」
「真里花ぁぁぁぁっ! お前らどけえええええ!!!!」
子供の刺蜘蛛の一匹が真里花の足に噛みつき、真里花が転倒する。
転倒した真里花に群がろうとする子供の刺蜘蛛をみた京子が叫んで駆け出した瞬間、京子の体から紫電が迸ったかと思うと、その紫電が子供の刺蜘蛛達を焼き尽くしていく。
「きょっ、京子ちゃん!?」
「うっ………うわ、なにこれ?」
真里花は目を白黒させて驚いた顔で京子を見つめる。
京子は突如自分の体を纏う紫電に戸惑い、ルイに助けを求めるように視線を向ける。
「京子はミスティック能力に目覚めたんだ! その力で真里花達を守ってくれ!」
「うっ、うん! おりゃあああああっ!!」
ルイがそう叫ぶと、京子は両手を付き出して紫電を子供の刺蜘蛛達に向かって解き放つ。
京子が放った紫電は子供の刺蜘蛛達を次々と焼き尽くしていく。
「ソレソレそ………あっ、あれ!?」
京子が次々と紫電を放って子供の刺蜘蛛を倒していたかと思うと、唐突に膝から崩れて目眩を起こしたかのようにふらふらし始める。
「覚醒したばかりで、力を使いすぎたかっ!」
同じミスティックのルイは京子の状態をみて、力を使いすぎたことがわかるが、巨大刺蜘蛛の銛牙に阻まれて助けに行けない。
生き残った子供の刺蜘蛛達が兄弟達の敵討ちだとばかりに京子に群がろうと近づく。
『我らがいる限り』
『マスターへの狼藉はさせません!』
子供の刺蜘蛛の波に埋もれていたガーディアンのカストルとポルックルが飛び出し、その両腕のクローで切り裂いていく。
「こっちは僕達に任せてー!」
「ルイ、あっちはなんとかなりそうだ。こっちも先輩らしいところ見せないとな!」
「そうだな!」
京子の紫電によって大半の子供の刺蜘蛛が倒され、ガーディアンのカストルとポルックル、リコリスのドローン達の活躍によって形勢逆転していくのをみたルイとアステリオスは巨大刺蜘蛛に向かって走る。
巨大刺蜘蛛は口から生えている二本の銛のような牙を双方に向かって射出する。
アステリオスは強化反射装置を起動させて回避すると、巨大刺蜘蛛が反応できない速度で近づき、ゼロ距離でヘビーピストルを撃ち込んで離れる。
「
「ギィイイイイイ!!」
ルイは自分に向かって飛んでくる巨大刺蜘蛛の銛牙を魔法の衝撃波で打ち返し、魔法の矢で反撃する。
ルイが放った魔法の矢はアステリオスがゼロ距離射撃で着けた傷口に命中し、さらに傷口を広げて酸の体液を撒き散らす。
ルイとアステリオスが攻撃を繰り返して巨大な刺蜘蛛にダメージを与えるが、かなりタフなのか決定打にならない。
それどころか巨大な刺蜘蛛が暴れる度に傷口から酸性の体液があちらこちらにまき散っていく。
「図体がでかいだけあって、タフだな!」
「元々昆虫タイプのモンスターはしぶといことで有名だしな………あ、昆虫ならあれが効くか?
ルイとアステリオスが背中合わせになりながらお互いに軽口を言い合う。
そこでルイは何か思い出したのか、右手で十字架を握ると呪文を唱えて左手を巨大刺蜘蛛に向ける。
するとルイの掌からガスが勢いよく噴射されて巨大刺蜘蛛にガスが纏わりつく。
「ギガッ………ガッ………」
ガスに纏わりつかれた巨大刺蜘蛛はもがき苦しんでガスから逃れようとするが、ガス事態生物のように巨大刺蜘蛛を追いかけ離れようとしない。
最後は仰向けに倒れて絶命したのか、霧散化して巨大な魔石や背中に生えていた刺をドロップする。
「真里花、噛まれたところを見せろ」
「はい………」
巨体刺蜘蛛と子供の刺蜘蛛が全滅したのを確認してルイは足を噛まれた真里花の傷を確認する。
「レッグガードのお陰で深い傷ではないな。
「暖かい………」
ルイが真里花の傷口に触れながら魔法を唱えると、あっという間に傷が塞がっていく。
「京子の方はどうだ?」
「うう~………頭が痛い~……くらくらするう」
「力の使いすぎだな。今後は制御を学んでいかないとな」
続いて京子の様子を確認するルイ。
京子はまるで重度の二日酔いのような症状を訴えてぐったりとしている。
「二人はここで休んでろ。リコリスはドローンを飛ばして周辺を調べてくれ」
「御意~!」
リコリスが無数の偵察用ドローンを飛ばして地下エリアを調査する。
「うーん、これはちょっと困ったな~」
「どうした?」
リコリスは偵察用ドローンから送られてくるデータを確認して苦笑を浮かべるのをルイが気づいて声をかける。
「ここ、かなり広いうえに手付かずのフロアが多数あるんだよ~」
「えっと………それっていいことじゃ?」
リコリスが困った顔で報告すると、話を聞いていた真里花が手を上げて会話に参加する。
「まず探索してダンジョン資源を運び出す人手が足りない。今は俺達だけが知っているというアドバンテージがあるが、いずればれるし、隠蔽するにはやはり手が足りない」
「下手に欲張って独占すると、同じエクスプローラーから反感を買うし、車を見張ってるスニッフが言ってただろ、見つけたやつから奪うって」
ルイとアステリオスがなぜ今が困った状況なのか真里花に説明する。
「それに下手に儲けすぎるのも色々と煩いからな」
「え、何が?」
「お前らも聞いたことないか? 宝くじが当たったら知らない親戚や知り合いが増えたり、投資とかの勧誘の連絡が増えたとか」
「あー………」
ルイが煙草に火をつけて愚痴りながら吸い始めると、体調が戻ってきた京子も会話にはいり、アステリオスの宝くじの例えに納得する。
「こういう時はどうしたらいいんですか?」
「そこそこ儲けて、他の奴らにもチャンスを与えて逃げる」
「あとはエクスプローラーギルドに丸投げだな」
「これ下手したらこのダンジョン再調査されてランクが変更されそうだね」
そんな話をしながらルイ達はほどほどに地下を探索してダンジョン資源を回収すると地上に戻る。
「おかえりなさいませ、旦那!」
駐車場に戻ると、キャンピングバスコンを見張っていたレプラコーンのスニッフ達が笑顔で出迎えてくれる。
「………これはまた大当たりだったみたいで」
そしてスニッフはルイ達の戦利品が入ったバックパックやガーディアンの姿をみて唖然とする。
「未踏破の地下エリアを見つけたが、俺達は手が足りなくてな。小遣い稼ぎにでも使ってくれ」
「いいんですかい、旦那?」
ルイはスニッフにダンジョンの地下エリアの存在を伝えると、スニッフは怪訝な表情になる。
「儲けすぎた。少し妬みを分散したい。あとギルドにも報告するからネタはすぐに腐るぞ」
ダンジョンから駐車場に戻るまでの間、かなりのエクスプローラー達に目撃された。
ミノタウロスのアステリオスが睨みを効かしたお陰で絡まれはしなかったが、目をつけられたと思ったルイは自分達にたかるより、地下を調べた方がいいと思わせるように持っていこうとしている。
「そういうことですか、ならお任せを」
納得したスニッフは鉤鼻を擦りながらいやらしい笑みを浮かべて地下の話を広めることを了承すると、仲間のレプラコーン達に地下エリアの情報を売り回れと伝え分散させる。
「帰ったら報告と、ガーディアンの登録をしないとな」
「色々ありすぎて疲れました」
「私もましになったけどまだ頭痛い………」
スニッフ達に見送られてルイ達はネオトウキョウへと帰還する。
エクスプローラーギルドに地下エリアの話をすれば、大きな騒ぎになる。
Eランクダンジョン扱いだったが二段階アップのCランクダンジョン扱いとなり、ドロップ待ちや資源フロアを独占していたE、Fランクのエクスプローラー達がダンジョンから強制的に追い出される。
ルイ達は知らないことだが、バイオニカが地下エリアの情報を隠蔽していたことが発覚し、エクスプローラーギルドと話し合い、色々とバイオニカが譲歩することになったとか。
こうして真里花と京子を連れたダンジョンアタックは閉幕を迎えた。
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