第36話 資源ダンジョン


「ルイさん、このダンジョン依頼に挑戦したいのですが、どうですか?」

「Eランクのダンジョンピックアップか……」


 不和の農園を吸血鬼から救って数日後、ルイは自分が面倒を見ている真里花と京子と共にエクスプローラーギルドに来ていた。


 真里花と京子はまだ高校生なので平日は学業と体力作りや技術訓練、週末の土日を使ってエクスプローラーギルドの依頼を一緒に受けたりしている。


 今回真里花が受けようとしてるのは、Eランクの資源ダンジョン内で資源を採取してギルドに納品するピックアップ依頼だった。


「あ~、これかぁ………」

「………まあ、社会勉強もかねて経験するのもいいだろう」

「うーん、まあいいんじゃない?」


 ルイ達は真里花が持ってきた依頼のダンジョン名をみてなにか知ってるのか、苦笑したり曖昧な笑みを浮かべる。


「えっ? なにか問題あるんですか?」

「ルイさーん、ケチケチしないで教えてよぉ~」

「現地につけば分かる。今回はこのまま受けて出発するぞ」


 真里花はルイ達の反応をみて何か問題があるのかと依頼データとルイ達の顔を交互にみる。

 京子は何か知ってそうなルイ達に向かって甘えた声で答えを聞き出そうとするが、ルイはなびいた様子もなく出発の準備を始める。


「依頼を受ける時のコツの一つは事前調査だ。そのダンジョンがどんなものかとか、今回の依頼は不特定多数が参加するから、他に誰が受けているかとかな」

「そんなの関係あるの?」


 キャンピングバスコンで目的地のダンジョンに向かう途中、ルイはエクスプローラーとしてのいろはを真里花と京子の二人に教える。


「初めてのダンジョンで、なにも知らずに適当に受けて二人はどんな目にあった?」

「あっ!」

「そういうことがまたあるんですか………」


 ルイは煙草を吸いながら、遠回しに真里花と京子の二人に初めて出会った時の事件を伝えると、京子は思い出したのか声をあげ、真里花は自分の体を抱き締めて震える。


「お前らは依頼書に書かれた出来高制で高収入もあり得ると言う謳い文句しか目に入ってなかっただろ? まず目的地までのダンジョンは遠い。俺が車を出さなきゃ輸送トラックにすし詰めだ」

「あはは………」

「距離とか考えてませんでした」


 ルイが距離と移動手段を指摘すると京子は笑ってごまかし、真里花は申し訳なさそうに頭を下げる。


「先に車を買うか、それとも装備を整えるかは二人で相談しろ」

「ルイさんが決めてくれないのですか?」

「俺達は聞かれればアドバイスする、だが決めるのは二人だ。自分で考える癖をつけろ、納得するまで相談しあえ。ダンジョンでは悩んで立ち止まれば死ぬぞ」

「はい………」

「努力します」


 ルイは煙草を吸いながらそう言うと、真里花と京子は反省する。


「二人ともそろそろダンジョンゲートに到着するから準備しろよ」


 ルイと真里花達のやり取りをみて缶ビールを飲んでいたアステリオスが缶ビールを握り潰して窓から投げ捨てて声をかける。


「うわぁ……プレハブ小屋とかいっぱい建ってる」

「前に参加したダンジョンとかは何もなかったのに」


 真里花と京子が窓の外を見ると、ダンジョンゲート前には無数のプレハブ小屋が建ち並び、三角コーンと工業用ロープで仕切られた駐車場があった。


「資源型ダンジョンはダンジョンコアの破壊禁止、一定期間ごとにリポップする資源を採取するのが主目的のダンジョンだ」

「なのであんな風に現地に住み込んだり、企業がダンジョン資源を直接買い取や採取するために支店を出したりしている」

「あと装備品の補充のためにフィクサーが出張してたりするね~」


 ルイ達はプレハブ小屋が建ち並ぶ通路を通りすぎながら真里花と京子に説明する。

 プレハブ小屋では武装した警備兵がおり、エクスプローラーが店にダンジョン資源を卸していたり、ガンショップで銃を確かめていたりしていた。


「さて、社会勉強の時間だ」

「がんばります!」

「うう………ダンジョンまできて勉強とかやだなぁ………」


 駐車場エリアにキャンピングバスコンを止めてルイ達は下車する。


「結構いろんな車がありますね」

「でもルイさんの車みたいな立派なのはないよね」

「一応腐ってもDランクだからな。それなりに稼いでる」


 キャンピングバスコンから降りた真里花と京子は駐車場エリアに停車している他の車とルイの車を見比べる。


 駐車場に停車している車の殆どは走ればいいと言う感じの装甲もない中古のトラックやバンなど、時折企業のロゴが表示されていた装甲車があった。


「時折場違いみたいな車がありますね」

「あ、この車は知ってる会社のだ!」

「企業のロゴが入った車には近づくなよ、企業お抱えのエクスプローラーチームの車だ」


 真里花は企業ロゴが入った装甲車とその隣に停車しているおんぼろなバンを見比べる。

 京子はネオトウキョウ内で見たことがある企業ロゴが入った車を指差していた。

 そんな二人に軽く注意しながら新しい煙草に火をつけるルイ。

 そんなルイ達に近づく団体がいた。


「兄さん達、見張り番いらないか?」

「え?」


 真里花達が駐車場の車をみてると、みずぼらしい格好の開拓者ワンダラーズ達が群がってくる。


「なっ、何ですかこの人達は」

「見張り番ってなんだよ」


 真里花と京子は開拓者ワンダラーズ達の集団に恐れをなしてルイやアステリオスの後ろに隠れる。


「小遣い稼ぎの開拓者ワンダラーズ達さ。俺達がダンジョンアタックしている間、車や荷物を見張ってくれる」

「え? 見張る必要とかあるんですか?」


 ルイが群がる開拓者ワンダラーズ達について話すと、真里花はなぜ見張るのか理由が分からず驚く。


「おや、お嬢さんは新人ですかい?」

「えっ? こっ、子供!?」

「いや、一応大人ですぜ。レプラコーンと言うデミヒューマンで、名前はスニッフといいやす」


 真里花とルイの会話を聞いていた開拓者ワンダラーズの一人が真里花に話しかける。


 真里花は話しかけてきた開拓者ワンダラーズの外見を見て驚いた。

 話しかけてきた開拓者ワンダラーズは見た目は六歳前後の幼い子供の外見、ただ顔は中年で鼻は鉤鼻、額の中心には螺旋状の一本角が生えていた。


「見張りついでにこいつの社会勉強に付き合ってくれないか?」

「こんなに頂けるんで? お前ら、仕事だぞ! あ、あっしらにわかることなら何でも聞いてくだせえ!」


 ルイはキャンピングバスコンの荷台から包みを取り出すと、スニッフと名乗ったレプラコーンに投げ渡す。


 それを見てスニッフ以外の開拓者ワンダラーズ達は仕事にありつけなかったと悪態ついたりして、他の客を探して駐車場エリアを徘徊する。


 包みの中身を確認したスニッフは笑みを浮かべて手揉みしながらへりくだり、仲間と思われる別のレプラコーン達を呼び寄せる。


「包みの中身って何です?」

「水や食料に弾薬、それから薬だ。ウエストランドだとネオエン渡しても使えない場合が多いから、物々交換が主流だ」


 ルイとスニッフのやり取りを見ていた京子がアステリオスに質問すると、アステリオスは包みの中身を京子に教える。


「スニッフだったか? 悪いがこいつに見張りが必要な理由教えてやってくれないか?」

「へい、喜んで! 一言で言えば泥棒対策ですよ」

「泥棒………ですか?」


 ルイがスニッフに解説を頼むと、スニッフは鉤鼻を指先で擦りながら自分達の仕事内容を伝えると、真里花は怪訝な表情でスニッフに聞き返す。


「あっしら開拓者ワンダラーズや他のエクスプローラーの中には手癖が悪い奴らもいましてね。ダンジョンで資源探すより、資源見つけたやつからちょっと分け前を拝借しようとする奴らがいるんですよ、へへへ」

「そんな悪い人がいるんですか………」


 スニッフの話を聞いた真里花は信じられない表情で両手で口許をかくして驚く。


「………旦那、どこでこんなお嬢様引っ掻けてきたんです? デートするには、ここ場所悪すぎやすよ」

「色々事情があってな、エクスプローラーとして勉強させてるんだ」


 真里花のリアクションを見たスニッフは目を丸くして、ルイに近寄ると小声で話しかけてくる。


「はあ………まあとにかく、その対策の一環としてあっしらが見張りになってあげてるのですよ。色々あって今じゃ見張りを立ててる車には近づかない。見張りがいない車には何されてもおかしくないなんてルールができていやす」


 スニッフはルイの説明を聞いて酔狂な人だと思いながら自分達の仕事について説明する。


「車には鍵かかってるでしょ?」

「旦那さんの車なら問題ないですが、手先が器用な奴らってのは何処にでもいるんで」


 京子がそう言うと、スニッフは人差し指を曲げて盗人のサインを作り、鍵を開ける仕草をする。


「ルイさんは問題ない?」

「旦那の車は新品ですし、物理的な鍵だけでなく電子的な鍵やセキュリティもたぶん仕込んでるでしょ? それに天井のタレットも遠隔で動かせるとおもいやす。リスクが大きすぎやす」

「ふふーん、僕がセキュリティ組んでるからね~」


真里花はルイの車を見てそんなことを言うと、スニッフがルイの車が狙われない理由を説明する。

 リコリスがキャンピングバスコンに寄りかかり胸を張り、ARO強化マトリクス経由で搭載されてるマシンガンを動かす。


「あっしらの仕事は大体こんなもんですね」

「助かった」


 スニッフが自分の仕事の話を終えると、ルイが9mm弾を幾つかチップがわりに投げ渡す。


「へへっ、他にも用事があれば仰ってくだせえ!」


 チップを受け取ったスニッフはヘコヘコと頭を下げて愛想笑いを浮かべる。


「それじゃあ、次の授業に取りかかろうか」

「あ、そうそう旦那! 最近未帰還者が増えてやす」


 ルイ達がダンジョン内にあるUの字の建物に向かおうとすると、スニッフが声をかける。


「問題になるほどか?」

「いや、まだあっしらのなかで噂になる程度です。ただまあ………あっしの鼻が匂うんですよ、未帰還者が増えてきたことが何か怪しいって」


 ルイが問い返すと、スニッフは自分の鼻を指差して忠告してくる。


「頭の片隅に覚えておくよ」

「へへ、ご安全に」


 ルイ達はスニッフに見送られてダンジョンアタックを開始した。


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