第37話 企業に雇われたエクスプローラー
「何だか現代風な壁ですね」
「ダンジョンの中には現代風な建物や近未来な機械とチューブで出来たダンジョンもあるんだよ~」
「へー、何かファンタジーゲームに出てくるような洞窟やお城みたいなのばかりだと思ってた」
ルイ達がダンジョンゲートを潜り抜けると、巨大なショッピングモールのような建物の中にいた。
真里花と京子はダンジョンに抱いていたイメージとは違う風景に戸惑い、そんな二人を見てリコリスがダンジョンの種類について教える。
「案内板がよくわからない言語で表示されている以外は、ネオトウキョウにあるショッピングモールと変わりませんね………」
「このタイプのダンジョンだと、出現するモンスターは機械系かゾンビだな」
「うええ………ゾンビはやだなぁ………」
真里花は近くの案内板に近づき、文字を読もうとするが言語が分からず諦める。
アステリオスがダンジョンの風景から出現するモンスターの予測をたてると、京子が怖がる。
「おっ、いい女だな」
「服とか綺麗だな、ここは初めてかな?」
ルイ達がダンジョンの中を進むと、ダンジョンを探索してた他のエクスプローラー達が真里花や京子を見て騒ぐ。
「ちょっくら声かけるか?」
「やめとけ、あの二人はルイの女だ」
「ちっ、ケツモチいんのかよ………」
エクスプローラーの一人がナンパでもしようと真里花達に向かおうとするが、別のエクスプローラーが一緒にいるルイ達を指差して止める。
そんな有象無象のエクスプローラー達のヒソヒソ声を背に、ルイ達は先へ進む。
「うう………いてぇ………」
「最低限の処置はしてやったんだ、黙ってろ!」
ショッピングモール型ダンジョンのエントランスホールと思われる広場に辿りつくと、そこはさながら野戦病院のような風景が広がっていた。
床に敷かれたビニールシートに怪我をしたエクスプローラー達が並べて寝かされており、最低限の治療を受けている。
どうやらダンジョンの何処かで交戦があったようだ。
「なっ、なあ………何か薬とかないか? 痛くてたまらないんだ」
「ポーションや魔法使いのヒールは百ネオエンからだ」
「金をとるのかよ! あんたら金を持ってる企業だろ!!」
「当たり前だ、我々は企業と言う営利団体であって、慈善団体ではない。おまえらFランクのエクスプローラーなんていくらでも補充できる有象無象の労働力でしかないんだ。今以上の治療を受けたければ金を払いな」
怪我人の一人が治療を行っている白衣の医師の袖を掴んで声をかけると、医師は掴んだ手を振り払い迷惑そうな顔で料金を提示し、怪我人のエクスプローラーは悔しそうに痛みに耐えて横になる。
「ルイさん、あの人達は?」
「あれは企業にバイトとしてエクスプローラー達だな」
「企業の中には人材派遣や日雇いみたいな奴でエクスプローラー達を雇ってダンジョンに潜らせたりする。ブケみたいなお抱えとは違って、使い捨ての労働力だ。稼いでもアレコレ理由をつけられてピンはねされる」
真里花は怪我人が並べられる場所を指差してルイに質問すると、ルイとアステリオスがそのエクスプローラー団体の関係を教える。
「えー、そんなとこで働く人いるの? あんまりメリットないように聞こえるけど」
「ん~、フリーで潜るよりはマシな時もあるよ。二人が襲われたあの時、仮に企業に雇われてたら誰も手出ししなかったかも? 業務妨害になるからね~」
アステリオスの説明を聞いていた京子が口を挟むと、リコリスが企業に雇われるメリットを伝える。
「企業と言う後ろ楯と言うか、保険みたいな物だ。特に力のない駆け出しからすればな」
「あとはあっちみたいにノウハウを教えてもらえる場合もあるしな」
ルイとアステリオスが指差す方向には半壊した人型ロボットを解体しているエクスプローラーの団体がいた。
その団体の中には先輩から解体手順を教えて貰っている若いエクスプローラーもいる。
「悪いが此処等一帯はバイオニオスの縄張りだ。ピックアップは他の場所でやってくれ」
「ああ、すぐに移動するよ。新人を連れていてな、ちょっと社会勉強させてた」
「早い目に移動した方がいい。女に飢えてる奴らが色めきだっている。面倒はお互い御免だろ」
エントランスホールを警備していたエクスプローラーの一人がルイ達に声をかける。
ルイがすぐに移動すると伝えると、声をかけてきたエクスプローラーが小声で注意してくる。
「助かる」
ルイは小声で警告してくれたエクスプローラーに煙草を数本渡すとエントランスホールから移動する。
「ここは何もないね」
「最近荒らされたみたいだな………リポップ待ちの奴らがいる」
警備のエクスプローラーに促されてエントランスホールから移動したルイ達。
インフォメーションエリアと思われる場所に辿り着いたが、持ち運べるものは全て根こそぎ持ち運ばれたのかなにもない。
それでもちらほらとエクスプローラー達がリポップと言うダンジョン資源が再度わき出す瞬間を狙って徘徊し、ルイ達の姿を見て迷惑そうな顔をする。
「時折遠くから銃声が聞こえますね」
「多分このダンジョンの機械型モンスターと積極的に交戦しているのだろうな」
真里花が言うように、ショッピングモール型ダンジョンの通路からは絶え間なく銃声が聞こえてくる。
「機械型モンスターは魔石だけじゃなくて、体のパーツ全部売れるから美味しいもんね~」
「そういえばさっきの広場でも丁重に解体してたね」
「俺がインストールしているサイバーパーツも、そういった機械型モンスターの部品をリバースエンジニアリングしたりしたモノがベースだったりするからな」
ルイ達はダンジョンを進みながら、真里花と京子にアレコレ教えていく。
「うーん………何処も荒らされてますね」
「こんなにエクスプローラーがいるなんて思わなかった」
一時間近くショッピングモール型ダンジョンを探索するが、大半は荒らされており、荒らされてないエリアには無数のエクスプローラーが殺到して取り合い殴り合いをしている。
ダンジョン資源にありつけなかったエクスプローラー達がリポップ待ちして陣取っていたり、機械型モンスターにやられたエクスプローラーが運び出されていたりとダンジョン内は混沌としている。
「これが資源型ダンジョンの現状だ」
「チーム組んでたり、企業に雇われてないと儲けは殆ど出せないだろうな」
「うう………」
「見通しが甘かったです」
ダンジョン資源が漁れるエリアの殆どは先ほどのバイオニスに雇われてるエクスプローラー達に占拠されており、ルイ達が入る隙間なんてない。
ずっと徘徊して未だに儲けの一つも出せない現実に真里花と京子は項垂れるように肩を落とす。
「で、でもほら! ダンジョンは広いし、まだ手付かずのところあるかも!」
「………そうですね。あの、ルイさん、もう少し見て回ってもいいですか?」
まだ諦めきれない京子は自分の頬を叩いて活を入れ直すと、もう少し探索を続けようと真里花を励ます。
真里花は遠慮がちにルイにダンジョン探索の続投を提案する。
「今回はお前らの社会勉強もかねてるからな。アステリオス、リコリス、悪いがもう少し付き合ってくれ」
「まあ、たまにはいいだろう」
「いいよ~!」
ルイがアステリオスとリコリスに頭を下げると、不和の農場で戦った吸血鬼の賞金で懐に余裕のある二人は嫌な顔一つせず同意する。
「あっ! あそこはまだ手をつけられてないよ!」
ダンジョン内を探索していると、京子が手付かずの店舗を見つけて騒ぐ。
「どうやら今までのエクスプローラー達だと開けられなかったようだな」
そのフロアはガラス張りのフロアで、店内には手付かずのダンジョン資源が展示されている。
ルイが正面玄関を見ると扉が閉まっており、解錠を試みたのか扉には銃痕やら焦げ跡などエクスプローラー達が考え付く手段でこじ開けようとしたが失敗したようだ。
「うーん………開けーごまー! ………ダメか」
京子は扉の前でポーズをとって有名な呪文を唱えるが、フロアの扉は開く様子はない。
「ええっと、電子的なセキュリティロックではないみたいですね………」
真里花が
「二人とも開けるのに夢中になるのはいいが、もう少し周囲に気を回した方がいいぞ」
ルイは新しい煙草に火をつけて一服しながら顎であっちを見ろとジェスチャーをする。
「あっ!」
「そこも考えないといけないんですね」
真里花と京子がルイが示す方向に視線を向けると、ダンジョン資源にありつけなかったエクスプローラー達が手に銃を握って、ルイ達が扉を開けたら横取りする算段でもしているのか、様子を伺っている。
「今後エクスプローラーとして活動するなら、ああいうハイエナ達のあしらいかたも覚えろ。仲間を増やして数で応戦するか、企業に雇われるか、自分達で解決するだけの力をつけるか」
「ハイエナもそうだけどよ、こういったトラブルとかどうするかもな。その為に俺はルイやリコリスと組んでる」
「僕はハッキングや機械類が得意、アステリオスは戦闘が得意、ルイは魔法に知識に交渉に段取りなど、真里花ちゃんや京子ちゃんは何が出きるかな~?」
ルイ達は真里花や京子の成長を促すようにアドバイスする。
「えっと………えっと………」
「………今の私達には何も出来ませんし、何もありません。だけど人に頼ることはできます。ルイさん、力をを貸してください」
京子は何が出来るかと問われてオロオロするが、真里花は自分達が何も出来ないとはっきりと答えて、ルイに協力を求める。
「まあ、面倒見るって言ったしな。そうやって仲間に頼るのも力の一つだ」
ルイはそう言うと煙草を捨てて踏み消すし、懐からペンを取り出す。
「この扉は魔法でロックされてる。だからこうやって
ルイが扉に
「さっさと入るぞ」
鍵が解除される音が大きかったのか、ルイ達の様子を伺っていたエクスプローラー達が扉に向かって走り出す。
「おっと、ここは俺たちのエリアだぜ!」
「グッ、グレネードだーッ!!」
アステリオスは腰に下げているポーチから何か投げる。
殺到していたエクスプローラーの一人がアステリオスが投げた物の正体が分かると叫んで物陰に飛び込もうとする。
エクスプローラー達が慌てふためく間にルイ達はフロアに潜り込み鍵をかけなおす。
「くそっ、これは玩具だ! ブラフ噛まされたっ!!」
投げ込まれたグレネードが一向に爆発しないことを怪しんだエクスプローラーの一人がグレネードに視線を向けると、精巧に作られた玩具のグレネードだった。
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