第34話 農場へ
ルート5963のブラックマーケットはサービスエリアの広い駐車場の一画にあった。
無数の車が駐車しており、車の荷台やトレーラーのカーゴに商品を並べている。
「むう………対モンスター用の弾丸も高いな」
アステリオスは銃弾を販売している店を見つけて覗き込むが、ネオトウキョウ内にある正規ガンショップの倍近い値段に唸り声をあげる。
「中古のハンドロードなら安いぜ」
「制作者には悪いが、怖くて買えねえよ………これだけくれ」
体の殆どをサイバーパーツに変えた店主がスピーカー音声で使用済みの薬莢を再利用した手作り弾薬を勧めてくるが、ルイ達は不発や暴発の可能性があるハンドロードを断って正規品の弾薬を購入する。
「なあ、そこのミノタウロスの兄さん! 俺の芸術品買わね?」
「随分とでかくて重そうなライフルだな」
ルイ達が店舗を見回っていると、ファッションサイバーと言う見た目だけを変えるサイバーパーツをあちこちにインストールして、ゲーミングパソコンのような七色に光る肌の男がトレーラーの荷台に置いてある対戦車ライフルをアピールしてくる。
「口径は50mm、装填数一発のブレイクオープン。弾丸は劣化ウランと魔石を黄金比率で配合した特殊弾頭と爆裂徹甲焼夷弾。ウエストランドを徘徊する大型モンスターだってイチコロだぜ!」
ゲーミングカラーの店主は体をテカテカ光らせながら銃の説明をする。
「さすがにネオトウキョウには持って帰れねえぞ」
「このサイズは隠すのも一苦労だよね~」
「欲しいか欲しくないと聞かれたら欲しいが………なあ?」
ルイ達の反応は微妙だった。
銃器の所持を許されるエクスプローラーとはいえ色々とランクごとに制限があり、店主が売ろうとしている銃器は、ルイ達が所持すると違法品になる。
ルールを守っていたら火力不足になるので違法扱いの強力な銃器を持ってはいるが、見つからないようにシークレットトランクやバラバラに分解して隠している。
店主が売ろうとしている銃器は大きすぎる上に分解も出来ないのでネオトウキョウに持ち帰れない。
「ちぇ、皆都市の法律なんか守りやがって………」
ゲーミングカラーの店主は自分の自信作が買われないことにブツブツ文句言いながら不貞腐れるのを背後にルイ達はブラックマーケットを離れていく。
「興味のある武器はあったが、殆どが隠せない違法品ばっかだな」
「Bランクからはネオトウキョウに戻らず、ずっとウエストランドで活動してるのも、違法武器だらけで帰るに帰れない噂も本当かもな」
「事務職員だけがネオトウキョウ内に残って依頼の処理してるのもわかる~」
ルイ達が言うようにBランク以降のエクスプローラー達はめったにネオトウキョウに帰ってこない。
Bランクから受けれる依頼の殆どが数ヵ月にわたる遠征が多い。
仕事の内容もクリアに数ヵ月かかる巨大なダンジョンだったり、果てはビルサイズの大型モンスターとのハンティングだったりする。
特に大型モンスターとの戦いでは、ネオトウキョウ内では違法になる戦車や軍隊が扱うような武器で戦うことが多く、色々な事務手続きを嫌ってメインチームはネオトウキョウの法律が届かないウエストランドで暮らし、事務職が依頼や討伐したモンスターやダンジョン素材を売りさばいたりしている。
ルイ達はブラックマーケットで装備の補充を終えると、ルイ達はトニー竹山から貰った座標データをうちこんでオートパイロットモードで依頼人がいる農場へ向かう。
「こりゃ戦場だな」
翌朝、ルイ達を乗せたキャンピングバスコンが依頼人の農場に到着する。
入り口には即席のバリケードが組み立てられ、血まみれの守衛が手を振っている。
農場の中に入れば、窓から様子を眺めていたアステリオスが言うように、あちらこちらに穴だらけのモンスターや動物の死骸が散乱し、農場施設も攻撃を受けたのかボロボロで、農場の住民が後片付けしている。
「あんた達がトニーが言ってた援軍かい?」
ルイ達がキャンピングバスコンを停車させて下車すると、住居エリアと思われる建物から片手と片足をサイバーパーツに変えた五十代の男と十歳ぐらいの女の子がやってくる。
「ああ、Dランクエクスプローラーのルイだ。こっちがアステリオス、彼女がリコリスだ」
「俺は不和だ。この子はラーヤ。口がきけないが大目に見てやってくれ」
五十代の男は不和と名乗り、ラーヤと呼ばれた少女の頭を撫でる。
ラーヤは不和が言ったように口がきけないのか無口なのか、ペコリとお辞儀するだけだった。
「取りあえず中で話そう」
ルイ達は不和に案内されて住居エリアの建物に移動する。
「発端は三日前の夜からだ。突如モンスターと動物が農場を襲うようになった」
不和はそう言うと監視カメラの記録映像を見せる。
攻撃は日没から始まり夜明けまで続き、ダンジョン汚染でモンスター化した鳥や犬に鼠、動物型のモンスターがウェーブのように次々と襲いかかっている。
「今のところ被害はあるものの、何とか防いでいる。あんた達には原因を何とかして貰いたい」
「………」
「ルイ? どうした?」
不和が依頼内容を伝えると、交渉を担当するルイが監視カメラの記録映像を見て何も言わないことに怪訝な表情を浮かべるアステリオス。
「リコリス、映像をもう少しクリアに出来るか?」
「ん~出来るよ~」
リコリスはそう言うと、不和に許可をとらずにデータにアクセスして記録映像をより見やすく加工していく。
「やはりこいつらは操られている」
「どう言うことだ?」
ルイは確信を持ったように断言し、不和は映像とルイを交互に見て問いかける。
「こいつらの目は精神支配系魔法の影響を受けた特徴がある。それにどんなに射たれても痛みを感じる反応がなく、出血多量で動けなくなるまで攻撃を止めてない」
「確かに言われてみれば………」
ルイが指摘すると不和は思い当たる節があったのか、納得している。
「魔法を使うモンスターがダンジョンから這い出たか?」
「取りあえずそのモンスターの潜伏先を見つけないといけないな」
「なら調べて欲しい箇所が二つある。こことここだ」
ルイとアステリオスが農場を襲撃するモンスターを操る黒幕について話し合っていると、不和は思い当たる節があったのか、周辺地図の画像を
「こっちは旧時代の放棄された工場で、スカベンジャー達が争う音をきいたと伝えてきた。こちらは農場と交流のあった
「わかった」
ルイ達が調査に出ようと出入り口の扉に向かうと、外から農場の住民が慌てた様子で飛び込んでくる。
「どうした?」
「大変だ! ついにメディカルマシーンが壊れた! 風力発電も昨日の襲撃で調子がおかしいんだ、どうすればいい?」
「くそっ! 神様に中指立てたくなる!」
不和が飛び込んできた住人に話を聞こうとすると、住人が切羽詰まった様子で叫ぶ。
報告を聞いた不和はイラつくように机を叩いて、どうするべきかうろうろしながら考える。
「リコリス、頼めるか?」
「御意~! 何かあったらドローンで伝えるね~」
話を聞いていたルイは機械が得意なリコリスに修理を頼む。
「修理できるなら頼めるか? その分も上乗せすることを約束する」
ルイとリコリスのやり取りを見ていた不和は地獄に仏とばかりに頭を下げて修理を依頼してきた。
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