第33話 ルート5963

「よお友達チューマー、急ぎの仕事があるんだが今何処にいる?」


 大企業重役メガコーポ・エグゼクの甥っ子の遺体を回収する仕事を終えたルイ達がネオトウキョウに戻る途中、フィクサーのトニー竹山からARO強化マトリクス経由で連絡がくる。


「今はウエストランドでネオトウキョウに戻る最中だ。急ぎってどうした?」

「ウエストランドにいるのか! 俺の古いダチの農場がやばいんだ! 頼む助けてくれ!!」


 ルイがウエストランドにいると答えると、トニー竹山はかなり切羽詰まっているのか叫び声をあげて助けを求めてくる。


「トニー、落ち着け。助けてやりたいがこっちはダンジョン帰りでほとんど弾切れだ。それに依頼で遺体を持ち帰らないといけない」

「それならルート5963のサービスエリア跡でブラックマーケットが開催されてる! 俺の名前で買い物出来るようにしておくし、運び屋呼んでおくからそいつに遺体を渡して手を貸してくれ!」


 ルイは自分達がダンジョン帰りで装備が心もとないとトニー竹山に伝えるが、本当に困っているのかブラックマーケットを紹介して、運び屋も用意すると言ってくる。

 因みに名前を貸すと言う意味は、トニーのツケで買い物が出来ると言う意味だ。


「どうする?」

「トニーには世話になってるし、急ぎだろ? 最悪こいつで暴れたらいい」


 ルイがアステリオスに声をかけると、アステリオスは車内に飾られてるハルバードを指差す。


「ブラックマーケットなら僕のドローン直せそうだし、農場と言うことは天然物育ててるんでしょ、運が良ければ美味しいご飯貰えるかも!」


 リコリスは老婆との晩餐で食べた天然物のせいですっかりグルメになったようで、よだれを垂らしている。


「OK、その仕事受けるよ」

「ありがてぇ! お前は最高の友達チューマーだよ! 依頼内容を送るから目を通してくれ!」


 ルイが依頼を受ける旨を伝えると、トニー竹山は少し落ち着き涙声で感謝の言葉を繰り返す。


 しばらくするとトニー竹山から依頼メールが送られてくる。


「農場がモンスターに襲われて手が足りないから増援としていって欲しいのか」

「ついでに補給物資も運んで欲しいとか?」


 依頼内容はウエストランドで農園開拓をしている開拓者ワンダラーズ共同体タウンがモンスターに襲われて護衛を求めてるとのことだった。


「まずは荷物を受け取るついでにブラックマーケットで弾薬だけでも補充しないと」


 依頼を受けたルイはナビゲートを操作してルート5963にあるブラックマーケットを目指す。


 ルート5963とは旧時代の高速道路の一つで、幾つか残っている別のメガシティに繋がる道路である。


 その高速道路の途中にある大型サービスエリア跡地にルイ達のキャンピングバスコンが到着する。


「おいみろよ、ロードキャラバンの武装バスだ」


 外の風景を見ていたアステリオスが車の中から指差す場所には、鉄板等を継ぎ接ぎして武装した長距離夜行バスやテクニカルと言うジープやピックアップトラックの荷台に重機関銃を搭載した車両が無数に停車している。


 サービスエリアの店舗はぼろぼろだがウエストランドで暮らす開拓者ワンダラーズによって改装されて、住めるようになっていた。


「ヨコハマ行きは此方だ! 料金は百ネオエン!」

「カンモン行き、もうすぐ出発するぞ!!」


 武装した長距離バスや大型トラックの荷台に開拓者ワンダラーズやエクスプローラー達が乗り込んでいく。


 ロードキャラバンの兵士達が同乗者から運賃を回収しているが、大半は弾薬や食料など物納している。


「見ない顔だな、誰の紹介だい?」


 ルイ達も駐車場スペースにキャンピングバスコンを停車させると、サービスエリアの店舗にいた武装集団が近づいてくる。


 集団の中でも二周り背の高い巨人のような額から角が生えた赤褐色の鬼のような女性が金棒で肩を叩きながら酒焼けしたような声で話しかけてくる。


「ネオトウキョウでフィクサーを営んでいるトニー竹山だ」

「トニー竹山? 誰か知ってるか?」

「姉さん、うちらに商品を卸してるフィクサーです。そういえばさっき友達チューマーのエクスプローラーが来ると連絡ありました」


 武装集団の一人、鼠頭のメタヒューマンが手を上げて連絡があったと鬼のような女性に報告する。


「友達の友達か。歓迎するぜ、アタイはここら辺を仕切ってるハイウェイギャング【大江山】のシュテンって言うんだ。あんた達は?」


 シュテンと名乗った鬼のような女性は金棒をルイ達に向けて名前を聞いてくる。


「Dランクエクスプローラーのルイだ」

「アステリオスだ。俺よりでかいやつははじめてだ」

「僕はリコリス、よろしくねー」

「おう、よろしくな。買い物するならあっちでマーケットやってる。食事ならあそこだが………都市に住む坊っちゃんの口に合うかは保証しねぇ。待ち合わせや乗り継ぎならあそこだ」


 シュテンは金棒を向けてサービスエリアの何処に何があるか紹介する。


「それから揉め事はご法度、メタヒューマンの仲間がいるから大丈夫だと思うが、差別はNGだからな。ルールさえ守ってくれるなら文句はねえ、楽しんでくれや」


 シュテンは思い出したように、このサービスエリアでのルールを伝えて定位置に戻っていく。


「トニー竹山が言ってた運び屋はもう到着している。此方だ」


 シュテンの取り巻きの一人、鼠頭のメタヒューマンがルイ達にそう伝えると、手招きしながらサービスエリアのフードコートへ案内していく。


「モンスター料理か」

「都市の外ではこれ以外食えるものがないからな。ダメなら無理しなくていいぞ」


 ルイ達がフードコートに足を踏み入れると、そこは屋台広場のようになっていて、ドラム缶コンロでモンスター肉を焼いていたり、廃墟からスカベンジした缶詰めや保存食を売っていたりしている。


 フードコートは様々な料理とあまり風呂にはいっていない汗の混じり合った匂いがルイ達の鼻を刺激しており、リコリスは鼻をつまんで顔をしかめていた。


「よお、トニー竹山の客をつれてきたぜ」


 鼠頭のメタヒューマンはフードコートで食事をしていた髭の濃い老人達に話しかけるが、老人達は耳が遠いのか反応せず食事を続ける。


「お───」

「あんた達! 客が来てるんだ! さっさと食い終わりな!!」


 無視されたと思った鼠頭のメタヒューマンがもう一度声をかけようとすると、幼女が髭老人の集団に近づき、手慣れた仕草で手に持ってたプラスチックトレイで髭老人達の頭を叩いてアニメ声で怒鳴る。


「いっ、痛いよ、かーちゃん!」

「暴力反対だよ、ママン」

「お、おいらまだ食い足りないんだな、マミー」


 老人達は叩かれた場所を押さえながら幼女に向かって母と呼ぶ。


「あ?」

「「「何でもありませんっ!!」」」


 幼女がもう一度プラスチックトレイを振り上げると、髭老人達は急いで食べ終えて一斉に並んで幼女に向かって敬礼する。


「うちの息子達が迷惑かけたね。あたしが運び屋のドーラン一家のリーダー、ドーランだよ」

「もしかして、ドワーフか?」

「ああ、よろしくな」


 幼女は威風堂々と腰に手を当てて自己紹介をする。

 ルイがドーランと名乗る幼女に質問すると、ドーランは胸を張って肯定する。


 ドワーフはメタヒューマンの一種で、女性は幼女っぽい外見で成長が止まり、逆に男性は五十代から八十代の老いた髭の濃い外見になる。


「あんた達も自己紹介しな」

「俺が長男のとん平」

「おらが次男の陳平」

「おいらが三男のジョニー」

「かんぺいじゃないんだ………」


 ドーランに促されて髭老人達も自己紹介を始めるが、三男の自己紹介を聞いたリコリスがボソリと呟く。


「あんた達に運んで欲しい荷物はあれだ」


 食事を終えて駐車場に戻ったドーランは自分達の車から荷物を降ろす。


「医療薬品にソイフードカードリッジ、弾薬に機械部品か」

「うひょ! ミサイルランチャーもあるぜ! さすがウエストランドだな」


 荷物の目録を確認するルイ達。

 その中にネオトウキョウ内では入手も携帯も使用も不可能なミサイルランチャーがあることにアステリオスが興奮する。


「そっちの荷物は受け取ったよ。ドーランの名前にかけて迅速丁寧に運ぶことを約束するよ」

「お願いします」


 荷物の受け渡しが終わると、ドーラン達はネオトウキョウに向かって出発する。


「俺達も補充を終えたらでないとな」


 ドーランを見送ったルイ達はブラックマーケットに向かった。


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