第32話 ロックダンジョンで遺体探し
「またロックダンジョンの調査かよ」
「そう言わずにお願いよ」
エクスプローラーギルドの一室でルイとギルド員が話し合っている。
「今回死亡判定受けたエクスプローラーの中に
「それなら俺達よりもっと上級を雇えばいいじゃないか」
ギルド員は拝み手で何度もルイに頭を下げて頼んでくる。
ルイは煙草の灰を灰皿に落としながら遠回しに断ろうとする。
「Dランクより上は呼べないのよ。どうもそのエグゼクのライバル勢力から妨害受けてDランクのまでしか受けてはいけないことになってて」
ギルド員は疲れた表情で今回Dランクより上に依頼を回せない理由を告げ、
「自分とこのいざこざをギルドに持ち込まないでくれ」
「ほんとにそれ」
ルイとギルド員が深いため息をつく。
「というか、
「あー………スリルを求めて?」
ルイは回収対象の死体のプロフィールを見て疑問を口にすると、ギルド員は目を反らして言いにくそうに答える。
「金と暇を持て余したアホか………」
「実家や仲間達も金持ちでね、潤沢な資金で装備を整えて、それなりに仕事は出来たエクスプローラーよ」
ギルト員は件の甥っ子チームのエクスプローラーとしての活躍したデータを表示する。
装備のお陰もあるが、それなりに実力があったようだ。
「で、調子に乗って身の丈に合わないダンジョンに挑んで、ダンジョンに食われたと」
「最近ちょっと多いのよね、金と暇を持て余したセレブが刺激を求めてエクスプローラーになるの」
ルイは吸い終わった煙草を灰皿に押し付けて火を消して、新しい煙草に火をつける。
ギルド員は困ったものだとため息をついて、セレブ界隈でエクスプローラーになるのが流行り始めることに愚痴を漏らす。
「なんでまた?」
「下手な電脳ドラッグや犯罪に手を染めるよりはエクスプローラーになったほうがスリルある冒険を楽しめるなんてセレブ界隈で流行り始めててね、あとあのドキュメンタリーで自分もやれると」
「遊びじゃねえんだぞ………テレビかブレインシフトだけで楽しめよ」
ルイが言うブレインシフトとは他人が経験したことを自分が追体験する娯楽で合法非合法問わず様々な体験ソフトが出回っており、ちょっとした社会問題にもなっている。
「ダンジョン関連の商品を扱うブローカー達が自分達の武器を売るために追体験より実体験なんて囃し立ててるみたいでね」
「奴らも商売と言うのはわかるが………はぁ………俺とあんたとの仲だ、受けるよ」
「助かるよ、ルイ」
ルイがため息つきながら依頼を受ける旨を伝えると、ギルド員はホッとした顔になり
「今回もロックダンジョンか」
「お金持ちの
目的のダンジョンに向かってウエストランドを走るキャンピングバスコンで寛ぐアステリオスとリコリス。
リコリスに至っては前回贋作師を探す依頼で、依頼主の老婆から早期解決のボーナスとして晩餐に招待して貰い、その時食べた天然物の食材の味が忘れられないのか、今回も食事に誘われないか期待している。
「流石にないだろうな」
「天然物のビール飲んだせいで合成ビールが飲めなくなっちまったよ」
ルイは運転しながら前回のような厚待遇はあり得ないと言い、アステリオスは缶ビールを開けて一口飲むが、舌が天然物のビールの味を覚えているのか拒絶反応を起こしている。
「特にお肉が美味しかったなぁ~。天然物の肉って唇だけで噛めて、舌で溶けるんだよ~」
リコリスは晩餐で食べた肉の味を思い出して涎をたらす。
「しっかり舌が肥えちまったな………一旦料理は忘れて仕事するぞ」
ルイは苦笑しながら車を止めると、件のダンジョンに向かう。
「うわ~………綺麗………」
「こりゃ、ダンジョンコアも良い値で売れそうだな」
「風景だけはいいが、ここも何人もエクスプローラーを食ってるダンジョンだ。気を付けろよ」
ルイ達がダンジョンの入り口であるゲートを抜けると地平線の果てまで花畑、風に花びらが舞い、幻想的な風景が広がっていた。
その風景を見たリコリスはうっとりと風景に酔いしれ、アステリオスはダンジョン内部の風景からダンジョンコアの価値を皮算用する。
「ここもウェーブクエストか………」
「ロックダンジョンはウエーブクエストとセットなのかもな」
ダンジョンの空には雲ひとつない青空と半透明なメッセージウィンドウが浮かんでおり、夜間に襲ってくるモンスターを全て倒すこととクエスト表示されている。
「依頼主の甥っ子だっけ? 遺体が残っているといいな。なんとなく花畑の養分になってそうな気がするぞ」
「取りあえず夜になるまではモンスターもでないみたいだな、リコリスはドローンを飛ばしてくれ」
「御意~!」
リコリスは持ち込んだ飛行用偵察ドローンを多数起動して、ダンジョン周辺を探索する。
「東屋と巨大ガーデン迷路があるね」
「迷路は避けた方が良さそうだな」
偵察ドローンから送られてきた映像を
延々と花畑が続いているかと思いきや、ヨーロッパ貴族庭園のような大理石でできた東屋が花畑のど真ん中にぽつんと建ってあった。
「取りあえず東屋に結界を張って迎撃するぞ」
「おう、今回のために作ったタレットが役に立つといいな」
ルイは東屋に結界を張り、アステリオスはツールボックスのような長方形の金属の箱を東屋のあちこちに設置していく。
ルイ達が迎撃準備を終えて夜を待つ。
ダンジョン内の日が暮れると、花畑の花が淡白く発光し、昼間とは違う幻想的な風景が広がる。
そして日没と同時に木の枝や蔦や根が絡み合った人型モンスターが四体、地面から発芽するように生えてきてルイ達に襲いかかってくる。
「リーフか」
「たった四体? おいおい、嘗められたものだな!」
ルイは地面から生えてきた人型植物を見て、モンスターの正体を見抜き、アステリオスは拍子抜けした顔で、手にした軍用アサルトライフルの引き金を引く。
「おいおい………弱すぎねえか?」
「いや、おかわりが来たぞ」
アステリオスがアサルトライフルでリーフを攻撃すると、リーフはズタズタに引き裂かれて魔石を落とす。
あまりの弱さにアステリオスは拍子抜けだと思っていると、今度は八体のリーフが地面から生えてくる。
「それでも俺たちの敵じゃねぇな!」
「ドーベルマン、やっちゃえ~!」
リコリスも戦闘に参加して連れてきた犬型ドローンに搭載された武器で攻撃して全滅させるが………
「もしかして休む間も無く倍に増えて襲って来るのか?」
八体のリーフを全滅させると、間を置かずに十六体のリーフが地面から生えて襲ってくる。
「よえーけど数が多いとめんどくさいな」
「まだ処理できない数ではないけど」
「というか~、あと何回倒せば良いの~!!」
ルイも銃を構えて攻撃し、アステリオスは設置したタレットを起動させてリーフに攻撃させる。
リコリスが愚痴るように、十六体のリーフを倒すと、やはり間を置かずに今度は三十二体に増える。
「グレネードいくぞ!」
アステリオスはアサルトライフルに付属しているグレネードランチャーから榴弾を発射してリーフの数を減らしていく。
三十二体にも増えると取りこぼしもあるのか、結界が張られた東屋に肉薄し、先端を尖らせた腕を伸ばして攻撃してくる。
「ルイの結界がなければやばかったな!」
「んもー、クローズダンジョンのウエーブとかめんどくさいー!!」
三十二体のリーフを倒すと、やはりダンジョンはルイ達を休ませることなく、今度は六十四体のリーフを生み出す。
しかもそれまでは近接攻撃しかしてこなかったタイプだけてはなく、刺を飛ばす射撃型や味方を癒したり魔法で攻撃するタイプが混じり始めた。
「
ルイは十字架を握りながら魔法を唱えると、リーフ達の中心に竜巻が発生してリーフ達を空高く巻き上げて地面に叩きつける。
「タレットの弾が切れた、リコリス装填してくれ!」
「御意~!」
アステリオスが用意したタレットも弾切れを起こし、バレルが熱せられて陽炎が発生している。
リコリスはアステリオスのポケットからタレット用のマガジンを取り出すと、タレットに装填していく。
「マジで勘弁してくれよ」
「もう、ドローン達は弾切れだよ~」
「流石に俺も疲れてきたぞ」
六十四体のリーフを撃退し、次が来ないか警戒するルイ達。
アステリオスとリコリスは用意した弾薬を全て使い果たしており、ルイが張った結界も壊されて怪我を負い、タレットや一部のドローンは破壊されている。
ルイも魔法を連続で使用したことでかなり精神に負担がかかっているのか、青い顔で頭痛に耐えて顔をしかめる。
「やっとクリアか………」
「マジでびびらせるなよ」
「もう疲れた~! うごけなーい!!」
ダンジョンに変化がなく、またウエーブが始まるのかとルイ達が覚悟を決めると、ダンジョンの風景が溶け始めて、砂漠と廃墟のウエストランドに変わっていく。
「かなりやられてたんだな」
「あの数はマジでしんどいぞ」
ダンジョンが完全に消滅すると、これまでダンジョンの中で殺されたエクスプローラー達の死体が野ざらしになる。
「取りあえず、依頼人の甥っ子の死骸は持ち帰らないとな」
「残りはビーコン打ってギルドに任せるか」
「僕はもう動けないからね!!」
その場にへたりこんで肩で息をしていたルイ達。
本来の依頼である
最後にこれまで犠牲になったエクスプローラー達にルイが鎮魂の祈りを捧げると、ビーコンだけ打ち込んでネオトウキョウへと戻った。
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